作品タイトル不明
598.西方の守り神
天子のクエストを楽しく終えたメイたちは、文武の間へやってきた。
「どうかな、鳳の将軍になる話。受けてもらえるかい?」
「まだ、迷っています。自分がそのような大任につくなど考えたこともなかったので」
「焦らなくていいよ。こちらはいつでも歓迎と、そう覚えておいてくれ」
そう言ってジュンシーは、穏やかにほほ笑む。
昼過ぎの鳳国王宮、文武の間にはシオンと将軍たちがそろっていた。
「牢の彼女の狙いは、四神の加護だったね。あの子にはそれを受けるだけの力があるのかな?」
「はい。姉弟子の才覚は、道場の入門と同時に皆に知れ渡るほどでした」
「なるほど……君たちは、かの道場の門下生なんだね」
少し考えるようにした後、ジュンシーはフェイ・リンに視線を向けた。
「そういうことなら、フェイ・リンが白虎の加護を受けるというのはどうかな?」
「……私が?」
「青龍塔への侵入未遂では、余罪を足しても長い拘束とはならないだろう。フェイ・リンが先に白虎の加護を受けてしまえば、残る加護は青龍のみ。ガオウと共に青龍塔に睨みを利かせていれば、もはや誰も狙おうとはしなくなるだろう。幸いフェイ・リンも武の実力者にして義を重んじる勇士。ようやく平和が馴染み始めた鳳国を、より盤石なものにしてくれるはずだ」
加護を受けられる者は、各四神から一人ずつ計四人。
そしてそれだけの実力者が、同じ時代に集まることはめったにないとのことだ。
「私が四神の加護を……そうなればこれまで及ばなかったガオウにも、もう負けないぞ……っ」
「……ふん。四神の加護を受けたところで、我が力を越えることなど不可能だ」
挑戦的な笑みを向けるフェイ・リンに、ガオウは静かに答える。
「白虎の加護は、私が受けてこよう!」
「武力は十分。あとはフェイ・リンの盗み食い癖を白虎が許してくれるかどうか……だね」
「なっ!? あ、あれは天子様に危険がない様に毒見を――っ」
「余も知っていて黙っていたのだぞ」
「ッ!?」
教育係ローウェイに連れられ通りかかった天子に言われて、言葉を失うフェイ・リン。
恥ずかしそうに顔を背ける。
「僕が漢方を処方しよう。力を上げた状態であれば、白虎の試練も通りやすくなるだろう」
「そう言えば貴様は漢方に通じているのだったな……ならば青龍の加護は、貴様が受けたらどうだ」
「ははは、僕にはふさわしくないよ。残念ながら」
ガオウの問いに、ジュンシーは笑いながら応える。
「だが文官とはいえ、武の能力もある。机にしがみついてるばかりでは腕がなまる一方だぞ。私が稽古をつけてやろう。そうすればいずれ――」
「フェイ・リンの相手だなんて、僕にはとても無理だよ」
「ふっ」
おどけた感じで「無理無理」首を振るジュンシーに、笑うフェイ・リン。
「さて、そうと決まれば白虎像を持ってこなくてはいけないね」
どうやら以前ファーランの道場に持ち込まれた白虎像も、加護を受けるために必要なアイテムだったようだ。
「そうだ、シオン君もフェイ・リンに付いていってくれないか? 冒険者の皆さんもぜひ力を貸してください。僕はこの後仕事がありますし、ガオウも国軍の訓練があるのです」
「よろしく頼む」
一転、いつもの凛々しい姿に戻って静かに頭を下げるフェイ・リン。
「分かりました」
「がんばりましょう!」
「今度は将軍のクエストね」
このクエストを、メイたちは即決で受諾する。
「お菓子もあります」
「いっ、今は大丈夫だ!」
ツバメの言葉に、フェイ・リンは思わず顔を赤くした。
「ふふ、この件をいじると可愛いリアクションをしてくれるのね」
「本当ですね」
「果物もありますっ!」
続けざまにメイも、標準搭載している果物を色々持ち出してみる。
「い、今は大丈夫と言っているだろう!」
「必ず『今は』って言う辺りに、この将軍の素直さが見えてるのがいいわね」
「お腹が減ったらいただくつもりなのですね」
「ジュンシー殿、行き先はどこに?」
「鳳国の西。『虎牢穴』にて白虎の加護が与えられるようだ」
ジュンシーが大きな地図を開き指さすと、目的地のアイコンが視界に現れた。
「フェイ・リンはこれを使ってくれ。気力を上げる漢方だ」
「礼を言うぞ。だがめずらしいな、ジュンシーが漢方を勧めるとは」
「中には人のわずかな欲望に火を点け狂わせてしまうような素材もあるからね。気をつけないといけないんだ」
「フェイ・リン将軍の場合、すごく食いしん坊になってしまうってことかしら?」
「くっ、食いしん坊ではない! とにかく今から私たちは、西は虎牢穴に向かう!」
レンの問いかけに早歩きで文武の間を出たフェイ・リンは、そのまま西門へ。
「それじゃ行きましょうか」
「りょうかいですっ!」
「虎牢穴、気になりますね」
馬に乗って進むフェイ・リンの後を追い、メイたちも走り出す。
鳳の西通りを抜けていくと、やがて建物も少なくなり深い森へとたどり着いた。
さらにその奥部へ向けて進むと、高い崖の一角に草木に隠されるようにして開く穴があった。
「雰囲気あるわねぇ」
「本当ですね」
「こういうところはドキドキしちゃうねっ」
高さ、幅共に決して広くはない洞窟。
その中は闇に覆われていて、数メートル先も見えない状況だ。
「これを使ってくれ」
そう言ってシオンは、レンに松明を渡す。
「それでは今より、虎牢穴へ挑戦する」
「はいっ!」
橙の明かりに照らされる範囲は、ごくわずか。
メイたち一行は、白虎の加護を求めて虎牢穴に踏み込んだ。