作品タイトル不明
597.夜の逃避行
「気になる隠し通路を見つけたのだ!」
夜が来ると、天子はそう言って立ち上がった。
「だがこの時間の外出は厳禁。多くの衛兵、そして犬も見回りをしている。ローウェイに捕まってしまえば、お説教のうえ勉強時間も伸びてしまうだろう! そこで素晴らしい能力を持つメイたちに、この包囲網突破の手伝いを頼みたい!」
「ここのクエストは、なんだか楽しいものが多いわね」
「寝室を抜け出す。修学旅行の夜に、相部屋だった同級生がしていた話に似ています」
スヤスヤだったツバメは、当時を思い出してつぶやく。
人前で眠る姿を見せないという謎の姿勢を取っていたレンも、白目でうなずく。
「そんなことあったかな?」
一方就寝時間は大チャンス。
修学旅行でもジャングルの村防衛に向かっていたメイは、首を傾げる。
「武器は持ち出さない方がよいぞ。衛兵に勘違いされてしまうからな」
どうやらこのクエスト、できるだけダメージを与えずに抜け出すという形が基本のようだ。
「これが余の描いた、この部屋からの地図じゃ」
「なるほどね……距離はそこまで遠くないけど、次々出てくる衛兵たちの合間を縫って進めって感じね」
「とても楽しそうです」
「それではさっそく、行ってみましょう!」
いつも通りレンが【変化の杖】で黒猫になり、付近を確認したところでスタート。
衛兵がいない道を選び、目的地へと進んでいく。
メイの耳と【変化の杖】、そしていざとなれば【隠密】もある。
鉄壁の布陣で、一気に全体の半分ほどまで突き進むことに成功。
しかし、隠れて進める範囲は限られているようだ。
避けては進めない一本の通路の真ん中に、隠された魔法陣。
それを踏んだ瞬間。
「何者だ!」
廊下の先に現れたのは、待機中の衛兵たち。
「こっちだ!」
「りょうかいですっ!」
駆けてくる衛兵を見て、天子とメイは続く廊下の十字路を右に曲がっていく。
「「あわわわわー!」」
そして目の前に現れた衛兵たちに、慌てて引き返してきた。
二人してバンザイの姿勢で戻って来たメイと天子に笑いながら、ツバメとレンは左折を選ぶ。
「逃がしませんぞ! 天子様!」
「ナメるでない! こちらには心強い味方がいるのだぞ!」
廊下に現れたのは、7人の衛兵。
「まずは様子見を」
ツバメが先行し、飛び掛かりを回避。
転がる衛兵を置き去りに進むと、さらに2人がかりの飛び掛かり。
「【加速】」
「「なっ!?」」
慌てず急加速で、隙間をあっさりすり抜ける。
一気に3人を置き去りにしたツバメ。
すると今度は、衛兵4人が一斉に駆けつけてきた。
「ツバメちゃん!」
「お願いします!」
「【装備変更】とっつげきーっ!」
「「「うおおおおおおーっ!?」」」
【鹿角】による特攻で衛兵たちはまとめて転がり、そのまま壁際に折り重なって目を回す。
「見事だ!」
天子は大喜びで先行し、目的地に向けて軌道を修正。
建物間にある中庭に飛び出ると、勢いのまま駆け抜けようとして――慌てて足を止めた。
「ネットだと!?」
降ってきた大きな投網を緊急回避。
「天子様……夜間の外出など許さないと幾千回言ったはずです!」
なんと目の前の三階建ての屋根に立っていたのは、教育係のローウェイ。
その右手を、高く突き上げる。
「このローウェイを出し抜こうなど10年早いということを、しかと教育してさしあげましょう!」
どうやって持って上がったのか、現れたのは大きな銅鑼。
「しまった!」
鳴り響く銅鑼。
これはローウェイが放つ、『天子さま確保』の緊急警報。
「「「うおおおおおーっ!」」」
雄叫びと共に、さらに多くの衛兵たちが飛び出してくる。
「私が寝ている間に、修学旅行ではこんな事態になっていたのでしょうか」
「さすがにないんじゃない?」
「あはは」
騒がしい夜の王宮に笑う3人。
「ゆくぞ!」
「りょうかいですっ!」
ここからは、大勢の衛兵との戦いだ。
4人は気合を入れ直して走り出す。
「いたぞ! 【走力向上】!」
「ッ!?」
一気に駆け込んできた衛兵たちの手には、大きな虫取り網。
「天子様相手に、よくそんなの振り回せるわね!」
「仮に何かあったとて、それは教育係殿の責任!」
「全力でいかせていただきます!」
とんでもないことを口走る衛兵5人をかわしながら、隙を見て全力で直進。
すると左右の茂みから新たな衛兵たちが飛び出してき。
その手には投網が握られている。
「メイさん!」
「ツバメちゃん!」
「がおおおおおおーっ!」
「【紫電】!」
メイは右側の衛兵たちを【雄たけび】で止め、ツバメが左の衛兵たちを【紫電】で硬直させる。
同時使用されれば範囲攻撃になる投網の使用を、見事に妨害。
この隙を突きレンは、天子の手を引き正面を駆け抜ける。
「【フレアストライク】!」
「「「おおっ!?」」」
屋根上の衛兵たちの目前で炸裂させることで隙を作り、一気に駆ける。
衛兵を集めて設置することで、回り道を誘発させる狙いの地点を正面突破で駆け抜けていく。
飛び込んだ目的の建物。
しかしそこには、最短できた者を容赦なく捕えるための布陣が敷かれていた。
廊下に詰め込まれた、多くの衛兵たち。
「失礼します【壁走り】!」
しかし天子を抱えたツバメは壁を駆け、さらに天井を伝って反対側の壁へ。
タックル系のスキルなどで衛兵を転がし続けるか、道を変えるか。
そんな選択を迫られる場所を、止まることなく駆け抜けていく。
「とっつげきー!」
そして天子に目を奪われ振り返った衛兵たちの背に特攻を叩き込み、さらに先へ。
たどり着いたのは、最後の十字路。
「……これ、左右からいっぱい来るよ!」
十字廊下の左右から衛兵たちが駆け込んでくるという大仕掛けを、音で察知するメイ。
その言葉にレンが反応する。
「【ファイアウォール】!」
放つ炎の壁で右側の廊下を先行して塞ぎ止める。さらに。
「【ブリザード】!」
左の廊下からの衛兵流入もけん制。
しかしそこに最後のボスが登場。
真正面から猛烈な勢いでやって来た大型の猛犬は――。
「おすわりっ!」
「わん!」
メイの一言で、その場に緊急停止。
そのまま大型犬の頭をなでつつ廊下を駆け抜け、階段を上がる。
そして途中の色違い床を持ち上げると、そこにあった隠し通路の中へ。
「切り抜けましたっ!」
「やったな!」
歓喜に4人、ハイタッチを決めた。
「さて、この道は一体どこに続いているのだ……っ!」
地下を進む隠し通路は、いくつかの道に分かれている。
土地勘のある天子は一本の道を選び、小走りで進む。
「この方向……余の予想が正しければ――!」
地下から上がるための木蓋を持ち上げ、抜け出た先の戸を開く。
古い倉庫を出るとそこには、夜の鳳の街並みが広がっていた。
「おおおおーっ!」
夜の鳳は提灯が輝き、飲食店も様々な照明を使ってその外観を美しく飾っている。
賑わう住人たちは皆楽しそうで、中央通りならではの騒がしい雰囲気だ。
「鳳の街に出るのは、初めてだ……」
その賑やかさに、目を輝かせながら駆け出す天子。
「何か面白いものが食べたいぞ! メイよ、余を連れていくのだ!」
「りょうかいですっ!」
「さて、どこがいいかしら」
「やはり、点心とお茶は欠かせません」
夜に家を抜け出し、街で遊ぶ。
城を抜けた後も続くクエストは、天子と共に街で楽しむことだった。
◆
「寝ちゃった子をおぶって帰るなんてクエストもあるのね」
メイの背中で眠る天子。
彼女が街で満足するまで遊び、連れて部屋に帰れば終わりになる。
なかなか変わったこのクエスト。
メイたちは隠し通路を戻り城内へ。
通路の一つは天子の部屋の近くにも続いていたようで、そこからしれっと内部へ。
これで、このクエストは終了だ。
「……長く続いた隣国との戦乱もようやく終わり、平和な日々が続くようになった」
天子を寝かせると、そこに初老の男がやってきた。
無彩色ながらも高級そうな素材の着物を身に着けた老人は、なかなかに鍛えられた身体つきをしている。
頬に入った傷跡も、なかなかに勇壮だ。
「激しい戦いの中を生きてきたが、この齢ではもう兵を率いることもできぬ。せいぜい、はしゃぐ娘の姿を見にこっそり街に着いていくことくらいだ」
「……なるほど、鳳の王様ね」
「そういうことですか」
「これからは王宮に閉じ込められ王座の上で生きるより、鳳に住む者たちと楽しく日々を生きて欲しい。時に馬鹿をするのも良いだろう」
眠る天子に、王はそう言って笑う。
「ローウェイには、ワシの方で『つかまえて、しかっておいた』と言っておこう。感謝するぞ冒険者たち。娘は良い経験をしたようだ」
そして眠る娘の頭を、そっと撫でたのだった。