軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

596.天子様と試験勉強

「すごーい……」

少女に連れられたどり着いたのは、広い朱剣城にある一棟の宮殿。

街のそこそこ大きな寺社仏閣を、そのまま豪華に飾ったような趣をしている。

「次は何をして遊ぶ!? 余はカードも強いぞ!」

目を輝かせながらメイの手を引く少女は、そのまま建物の中へ。

「ほう、この時間にカードとはずいぶんと余裕がおありですね、天子様」

「ふあっ!?」

そして突然かけられた声に、ビクリと身体を震わせた。

そこに現れたのは、白髪が程よく頭部をグレーに見せている壮年の男。

「はじめまして。私は天子様の教育係をしているローウェイと申します」

そう言って、堂々とした態度で自己紹介をしてみせる。

「メイですっ!」

一方メイはいつものように、元気に「はいっ!」と手を上げる。

「天子様、本日は試験だというのにそのはしゃぎよう。もちろん準備はできているのですな?」

「っ!?」

天子と呼ばれた少女は、明らかに慌て出す。

「と、当然であろう。よよよ余に不手際などあるはずがない」

「よろしい。それではいつも通り、30分後に始めさせていただきます」

そう言って去っていく教育係。

「大変だ……完全に忘れていたぞ! メイ、レン、ツバメ! 我が前に立ち塞がる最大の壁を突破するため力を貸すのだ! 試験は歴史! ヤツは鳳の沿革を調べ、記す歴史家でもある。厳しい戦いになるぞ!」

完全に『勉強より遊びのお転婆娘』のリアクションに、思わず微笑んでしまうレンとツバメ。

「それは大変だね!」

一方メイ。

テスト勉強の時は、いつもと違うスケジュールでジャングル村防衛をしていた。

その時の大変さを思い出す。

「試験に落ちでもしたら……3日3晩は勉強漬けにされてしまうっ!」

震え出す天子。

どうやら教育係ローウェイは、かなり厳しい人物のようだ。

「ついてまいれ!」

天子は駆け出すと、そのまま書庫の中へ。

二十を超える大きな本棚には、びっしりと詰め込まれた教書の数々。

「余はここで暗記に全てを集中する。メイたちは『鳳の近代史』と『鳳の地理』に関わる文献を選び出し、机の上に乗せていくのだ!」

机につき、振り返った天子はそう言って筆を手に取った。

「これは変わったクエストですね」

「探し物をしつつ、同時に育成でもあるってところかしら」

選んで机に乗せた『書籍』によって、天子の記憶やテストでの回答が決まる。

そしてその結果が、そのまま試験の合否に関わる。

そんなクエストのようだ。

「さっそく始めるぞ!」

「りょうかいですっ!」

メイたちは足早に本棚へと向かい、『該当要素』のある本を探していく。

「四神に守られたる鳳国は、龍脈によって各所へ力が流れている……これは地理です!」

「朱剣城は龍穴に位置している。四十年前の合戦では龍穴を活性化させ城内の兵たちを強化し、敵軍の猛攻を押し返したことがある……これは地理と歴史ね!」

「四神の継承者がそろうことで、黄龍が目覚める……これはどちらとも違います!」

「黄龍の力は強く、その力を得た正しき導師が諸国を統一し初代王となった。これが鳳国の誕生だって! これは歴史かな?」

「歴史ね、でもそれは『近代』に当たらないと思うわ!」

「おそらく引っ掛けです!」

「りょうかいですっ!」

メイたちは大急ぎで正しい本を探し、天子の机の上に乗せていく。

内容を読み上げることでチェックし合うという方法も、上手に機能。

天子も窮地を前にすさまじい集中力で本を読み、重要な部分を筆で書き出していく。

「ッ!? 先生がきちゃう!」

ローウェイの足音にいち早く気づいたメイが、声をあげる。

「もう少し! もう少しだけ時間が欲しいぞ! こうなったら多少強引でも足止めを頼む!」

「意外と荒いクエストなのね! いいわ、そういうことなら!」

書庫を飛び出したレンは廊下を駆け、曲がり角へ。

「【ファイアウォール】!」

念のため角に身を隠しつつ、炎の壁で足止め。

するとローウェイは炎の威力が下がるのと同時に、水魔法で相殺。

再び廊下を進み出す。

「【ブリザード】!」

続けざまの氷嵐に、再度足を止めるローウェイ。

「まったく天子様は……」

ため息と共に待つ姿を確認して、レンは書庫へ戻る。

「どう!?」

「もう少し時間が必要だ!」

人数の少なさは、手数の少なさ。

攻撃を当てず姿も見せず、足止めをするという状況はなかなかに難しい。

「どうしましょう」

「ツバメ、姿を消して準備をしてきて。その後すぐにメイが続けば時間が稼げるわ!」

「【隠密】」

ここでレンは本探しに戻り、代わりに姿を消したツバメが廊下へ出る。

一方のローウェイ、後は書庫までの直線を残すのみ。

「できました!」

「はいっ! 大きくなーれ!」

「……?」

続く手は【豊樹の種】と【密林の巫女】だ。

廊下に突然現れた密林に、首を傾げるローウェイ。

それでも、木々をかき分け書庫へとやってくる。

「がんばって!」

「がんばってください!」

「大丈夫、時間はまだあるはずよ!」

「もう少しだ!」

声を掛け合うメイたちと天子。

すると戸が開き、葉っぱだらけの教育係が書庫に入ってきた。

「――――それでは、試験を始めます」

試験が終わり、書庫に正誤の確認をしている筆の音が鳴る。

「ふむ」

採点を終えたローウェイは静かに息をつくと、メイたちの方に向き直る。

思わず手を握る天子に、メイは「大丈夫!」と笑顔で肩を抱く。

そしてローウェイが、結果の発表に入る。

「……お見事です。合格といたしましょう」

「「やったー!」」

筆を高く放り出した天子とメイ、二人の声が重なった。

「メイ、レン、ツバメ……ありがとうー!」

そう言って、三人に抱き着く天子。

「なにこれ……まだ香菜が小さかった頃を思い出すんだけど……」

「私に妹がいたら、こんな感じだったのでしょうか……!」

「おめでとうーっ!」

天子の無邪気さと可愛さに、思わず震えるレンとツバメ。

さらにメイが抱きかかえてクルクル回る姿に、ツバメは「……至福です」と昇天していくのだった。