軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595.鳳国の王宮にて

「わーっ! すごーい!」

「これはすごい規模ねぇ」

「王宮としては、これまで見た物の中でも最大です」

赤い壁に黄釉の瓦。

柱や梁の表面には文様や彫刻が施されて、きらびやか。

数多くの宮殿や楼閣からなる王宮は、壮麗かつ雄壮。

鳳国の王宮である朱剣城にたどり着いたメイたちは、その大きさに感動の声を上げた。

早くもちょこまかと、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと尻尾を振りながら駆けるメイ。

「ほらツバメちゃんっ! あれすごいよーっ!」

「は、はいっ」

メイに手を引かれるツバメは、照れているのが丸わかりな動きの硬さだ。

三人が灯篭一つにも豪華な意匠の施された内部の雰囲気を楽しんだ頃、鳳国の将軍たちが会議を行う文武の間にたどり着いた。

「まずは自己紹介からかな」

そう言って穏やかな笑みを浮かべたのは、ふわりとした髪を緩く垂らした40前後の男。

「僕はジュンシー」

「そしてこちらの鉄扇を使う彼女が、フェイ・リンだ」

「よろしく頼む」

そう言ってその凛々しい視線を向けるのは、長い黒髪を一本にまとめ、紫の崩した着物に軽鎧をまとった長身の女性将軍。

「こちらの黒い鎧がガオウだ」

「……」

一方ガオウと呼ばれた将軍は、応えず静かにたたずむだけ。

大きな身体と荒々しい顔つきには、自らの力を強く信じる自負のようなものを感じる。

「さて、シオン君に来てもらったのは鳳の国政に力を貸しもらいたいと思っているんだ。君は――朱雀の加護を受けているね?」

「なんだと?」

その言葉に、驚くフェイ・リン。

「はい、その通りです」

「そこで君にはぜひ、鳳国将軍の一人となってもらいたいんだ」

「私が……将軍に?」

「広い鳳国を治めるには、力持つ者にそれだけの役職についてもらわなければならない。君は衛兵長をしていた実績もあるし、適任だと思う」

そう言ってジュンシーは、優しく笑う。

「少し考えさせてください」

「もちろん。しばらく朱剣城で過ごしていくといい。そしてじっくり考えてみて欲しい」

「……姉弟子は?」

「牢にいるよ。今もまだ、四神の力を狙っているのだろうね。恐ろしいほど強い眼光を見せているよ」

そう言うと、ジュンシーたちは文武の間を出て行った。

どうやらここで、自由な時間が始まるようだ。

「私は城内を見てきます」

そう言ってシオンも、城内へと消えていく。

「それじゃあ私たちも、お城の見学といきましょうか」

「いいですね」

「さんせいですっ!」

メイたちもさっそく、朱剣城の中を見て回ることにした。

「どこまでもしっかりと作り込まれていますね」

「本当だねぇ……」

「この派手さこそ、王宮って感じがしていいわね」

後ろからメイの肩を抱きしめるようにして進むレンと、それにきゃっきゃしているメイ。

続く絢爛な光景に、少し浮かれているようだ。

すると廊下の長さに驚きながら歩を進める三人に気づいた一人の少女が、こちらに駆けてきた。

「見ぬ顔だな。お前は何者だ?」

「メイですっ!」

軽装ながらも、美しい素材で作られた着物。

長い黒髪を二つに分け、さらにその髪束を背中で結って輪のようにしためずらしい髪型。

声をかけてきたNPCの少女は、10,11歳ほどだろうか。

メイたちを装備を興味深そうに見つめた後、グッとその顔を近づけてきた。

「王宮のものか?」

「素敵なお姉さん目指して、冒険者をやってますっ!」

「斬新な冒険の目的です」

「ふふ、そういうのも悪くないわね」

メイのおかしな返答に、笑うレンとツバメ。

「ほう、冒険者か……実物を見るのは初めてだ。よし」

なぜか気合を入れる少女。

「ならばメイたちが鬼だ! 余を捕まえられるかな!?」

そう言って突然、廊下を一目散に走り出した。

「私たちに鬼ごっこを仕掛けるなんて、いい度胸ね」

「こんな可愛い女の子と鬼ごっこができるというのは、いいですね」

「よーしっ!」

突然始まったクエスト。

嬉々として駆けていく少女を前に、メイたちも動き出す。

一気に距離を縮め、手を伸ばすツバメ。

「捕まえまし――」

「甘いっ」

伸ばした手の下をくぐり、少女はそのまま廊下を曲がる。

「やりますね……っ」

「侮れない身のこなしだわ。でも、これならどうっ?」

続くレンの低空飛行。

一気に距離を詰め、少女に飛び掛かる。

「まだまだっ!」

しかし少女、これを見事な切り返しで回避し逃走。

「【バンビステップ】!」

最後はメイ。

四足獣のようなしなやかな動きで、少女を追いかける。

「それっ!」

大きな飛び掛かりで、少女のもとへ。

「っ!」

これを跳び込みでかわすと、少女はそのまま受け身で一回転。

すぐさま立ち上がって走り出す。

しかし進んだ先は行き止まり。

後を追うメイは、少女を廊下の端に追い詰めることに成功した。

「ちゃんす!」

こうなればメイが、脇を抜かせるような下手を打つはずがない。

獲物を追い込むかのように少女に近づいたメイは、そのまま手を伸ばす。

「つかまえたっ!」

「まだまだっ!」

少女の声と共に、なんと壁がぐるりと一回転。

そのまま外へ抜け出した少女はうれしそうにブンブン手を振ると、再び逃げ出していく。

「すごーい! 壁がクルクル回るよ!」

「お城特有のギミックですね」

駆ける少女を、再び三人がかりで追いかける。

近くの建物に駆け込んだ少女は、メイたちを待ってから廊下を曲がった。

すぐさまその後に続くと――。

「いない……」

「消えてしまいました」

長い廊下に少女の姿はなく、見えるのは三人の女官のみ。

ツバメは女官にさりげなく触れるも、幻影等のスキルではないようだ。

「どこに行っちゃったのかな」

三人首を傾げていると――。

「こっちだ!」

通り過ぎた女官の着物の中から飛び出した少女が、再び走り出す。

「スカートの中に隠れる人、初めて見ました」

「ふふ、本当ね」

楽しそうに駆けていく少女は、そのまま庭へ飛び出し大きな池へ。

なんと、浮かんだ蓮の葉の上をリズミカルに飛び移っていく。

意外とバランス取りが難しい蓮ジャンプ、ツバメは少しずつ距離を詰めていくが、捕まえるには至らなそうだ。

「ここはわたしにおまかせくださいっ!」

すると、そこに駆けてきたのはメイ。

「【アメンボステップ】!」

メイは逆に蓮のない場所を選んで疾走。

広い池に美しい波紋を描いて駆け抜けると、池を抜け逃げていく少女に向けて跳躍。

広がる大きな波紋。

飛び散る飛沫が、陽光に照らされて輝く。

「タッチ!」

しっかりと少女の背に触れたメイは、そのまま『ごろごろ』と地面を転がっていく。

すると少女は立ち止まり、うれしそうに笑う。

「やるなメイ! 気にいったぞ!」

そう言って、そのままメイに飛びついた。

「わっ! 可愛いーっ!」

目を輝かせる少女の天真爛漫な姿に、思わずメイもぎゅっと抱きしめてクルクル回る。

「特別に余の部屋に招待してやろう! ついて来るがいい!」

そう言って少女は、メイの手をグイグイ引っ張り進む。

そのご機嫌な姿に、レンもうっかり笑みをこぼす。

そしてメイと可愛い少女が手をつなぐ姿に、ツバメは「運営さん、お願いします」と祈る。

「ここが余の部屋じゃ!」

「え、ええ……?」

そう言ってメイの背に抱き着いた少女が、指を差す。

「えええええええ――――っ!?」

それは寺社なら本殿として使われるくらいの、豪華な宮殿だった。