作品タイトル不明
583.2つ目の修行です
「次の修行は、カラス蜂の巣から蜜を取ってくることじゃ」
水瓶の修行を、規定値を大幅に越える形でクリアしたメイたち。
育成クエストは順調に進んでいる。
「基本であるフットワークと、『力の流れ』を見抜く目を養うことが大事じゃ……なにより蜜は」
老子は含みを持たせる。
「ワシの好物だからのォ」
「老子らしいおふざけ感です」
ツバメはわずかに笑みを浮かべる。
「そうじゃ。修行のルールなのだが……カラス蜂への攻撃はなしとさせてもらうぞ」
「となると、回避集中ってことかしら」
「では、ここは私が」
今回の修行には、ツバメが向かうことに。
「巣の底面を斬って、こぼれ出す蜜をこのビンに入れてくるのじゃ」
「蜜を入れてる間も、攻撃されると考えていいですね」
「ええっ、それは大変だねぇ」
立ち止まって待つというのは、追われる中では非常に厳しい状況と言える。
「ツバメちゃん、蜂型のモンスターは身体についた時に払えば大丈夫だよ。あと飛びながら刺してくる時は、そのために一度向き直したり止まったりするから分かりますっ!」
本来ハチが針を向けながら飛んでくることはない。
身体にとまってから刺すものだ。
よってモンスターとして付けられた飛行刺しのモーションには必ず、特有の癖がある。
必ず狙いの対象に向き直り、『角度調整』してから突撃してくるはずだ。
「一度置き去りにしてみるっていうのもありかもしれないわよ」
「なるほど……! ありがとうございます」
「ここからは競争じゃな。それでは第二の修行――――はじめ!」
老子はそう言って、蜂蜜取り修行を開始した。
「それでは、行ってまいります!」
気合と共に駆け出すシオン兵長。
ツバメも階段を降り、ここからは別行動だ。
あらかじめ知らされていた地点へ向けて、ひたすら走る。
するとやがて、嫌な羽音が聞こえてきた。
「これは……っ」
ツバメに気づくなり、一斉に広がるカラス蜂たち。
その名の通り黒い蜂たちは、大きさも10センチを超える。
それでいてHPゲージはごく僅少。
攻撃すれば、一撃で倒してしまうことになるだろう。
「この状況で足を止めて、巣から蜂蜜を取るのは難しいですね……きます!」
始まる怒涛の攻勢。
蜂は一斉にツバメに襲い掛かってくる。
「ッ!」
飛行速度は早く、侮れない相手になりそうだ。
ツバメはしきりに付近を見渡しながら、回避を継続。
するとメイの言う通り、一匹の蜂が空中で体勢を整えるのが見えた。
「ッ!!」
突撃。
見えた火花に、慌てて転がり緊急回避。
「この感じ、麻痺ですか……っ」
カラス蜂の麻痺は、徐々に回っていく形。
一度喰らってしまえば、こっちの回避力は落ちていく一方。
そしてこの場所で動きを止めることは、最悪という他にない。
「右、次は左っ!」
ツバメは下がりつつ、敵の攻撃に合わせて回避を継続。
「メイさんの言う通りです。直接攻撃に来る蜂は、必ず一度こちらに向き直ります」
カラス蜂は次々に集まってくる。
しかしこの身体の大きさは、むしろ認識しやすい。
寄ってきた蜂は身体に取りついてもすぐに払えばいいし、空中で『こちらに針を向けた』個体に集中していれば、回避も可能だ。
「蜂には、こんな攻略法があったのですね」
結構な数に取り囲まれているのも関わらず、ツバメはこれを余裕でかわしていく。
そしてその数の増加が止まったところで、『全部巣から出てきた』と判断。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」
レンの言葉通り、一気に速度を上げる。
すると狙い通り、カラス蜂たちは後を追ってきた。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメはそのまま巣から距離を取ったところで急加速。
カラス蜂の視認範囲を抜け木の陰へ、そこで――。
「【隠密】」
姿を消してみせる。
するとカラス蜂は、狙い通りツバメを探して付近を飛び回り始めた。
「【忍び足】」
ここで念のため足音も消し、巣へ向けて一直線。
「っ!」
目前からやってくる、蜂の集団。
荒々しい羽音に、殺気立つ雰囲気が感じられる。
ドキドキしながら歩を進めるが、蜂たちはツバメに気づかず通過。
「……がら空きです」
たどり着いたのは、一匹も蜂がいない状況の巣。
ツバメは底を斬り、ビンに蜂蜜を溜めていく。
蜜はビン一杯まで溜めたところで、ちょうど残量がなくなった。
「メイさんとレンさんのアドバイスのおかげで、すごい量を収穫することができました」
一杯の蜂蜜を詰めた大きなビンを持ち、後は帰るだけ。
「ッ!!」
しかしビン一杯になるまで溜めたことで、ちょうど戻ってきた蜂たちと鉢合わせてしまった。
カラス蜂たちは一斉に、ツバメを狙って飛び掛かる。
「【紫電】」
ツバメは慌てない。
HPの少ない蜂だが、動きを止めるだけなら問題なし。
『たかる』という習性がアダとなり、『感電』効果が最高の形で発揮。
まとめて動きを止めることになった。
こうしてツバメは、最多の蜂蜜をもっての帰還に成功した。
「おお! これは見事じゃ……!」
「これは毎日飲んでも2、3年かかりそうね」
「ツバメちゃんすごーい!」
驚きの声を上げる老子。
レンとメイも、うれしそうに笑い合う。
「ありがとうございます。お二人のアドバイスが、しっかり活きました」
「おお、さすがだ……っ」
するとそこに、ビンの半分にも満たない蜂蜜を入れたシオン兵長が、傷だらけになりながら帰ってきた。
そしてツバメの持ち帰った蜂蜜を見て、一転奮起する。
「もう一度行ってきます!」
そう言って走り出す、シオン兵長。
再び帰ってきた時には、大量の蜂蜜を抱えていた。
どうやら第二の修行も、最高の結果でクリアとなったようだ。