軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

582.修行をお手伝いしますっ!

「修行はどれも単純だが……それゆえに厳しいぞ」

見るからに仙人然とした老子は、穏やかながらもはっきりと告げる。

「まずは基礎の修行から。水瓶を持ち、山の中にある川から水を汲んでくるのじゃ」

そこには陶器の水瓶が大小いくつも並んでいる。

「時間は今から1時間。小さな瓶を持って何往復するもよし、大きな瓶で一度に大量に運ぶも良し。水の動きは『気』の動き。取っ手のない丸い陶器の運搬は体幹も鍛えるからのォ」

そう言って笑う老子。

どうやらこちらからの参加者は、代表一人という形のようだ。

「水は花壇にまくこと。冒険者殿に負けぬよう、気合を入れるんじゃぞ」

「はい!」

「このタイプはもう、メイにお願いするのが一番ね。アルティシアでも結果を出してるし」

「はいっ」

「私たちの修行の結果次第で、シオン兵長の『成長度』も変わってきそうだから、メイもしっかりやってみて」

「りょうかいですっ!」

修行ということで、メイは拳を握って応える。

そしてそのまま、身の丈ほどもある最大級の水瓶を抱えた。

続けてシオン兵長が両手で抱えてちょうど良い大きさの水瓶を持ったところで、老子がうなずく。

「それでは――――はじめ!」

「【バンビステップ】!」

メイは一気に道場から出て階段を降り、そのまま木々の並ぶ山へと駆け降りていく。

シオンも見事な足の運びで、川へ向けて駆け出した。

すでに水の流れは聞こえている。

メイは転がる石のように沢まで駆け降り、水を瓶一杯に入れた。

ここで予想通り、様相が変わり出す。

木々の中から姿を現したのは、一頭の大トラ。

メイを見るなり走り出し跳躍。

爪で強烈な一撃を叩き込む。

「よいしょっ!」

水瓶を抱えたまま、これを回避。

するとその一撃は地面に突き刺さり、足元を割った。

それに合わせて木々も倒れる。

「わあ、すごい威力っ!」

大きな揺れは崖を崩し、山道を破壊する。

足場の悪化により逃げるのを難しくしたところで、トラはここぞとばかりに体当たりを仕掛けてきた。

喰らえばもちろん、大きな回避をしても水がこぼれ出るという算段だ。

「【ラビットジャンプ】!」

驚きはしたものの、足元の良い場所を見極め大きな跳躍。

自由度の高いメイの跳躍スキルに、飛び掛かりは恐れるに足らず。

もちろん水は、一滴もこぼれない。

「競争しよう!」

メイはそう言って駆け出した。

猛然と追って来るトラは、このクエストを見越して配置をされているだけあり動きが俊敏。

だが、メイにとっても自然は庭。

そのまま追いかけっこをするかのように、山を駆け上がっていく。

「……その子は?」

「途中で出会ったの!」

道場に戻ってきたメイは、そう言ってトラの頭に手を乗せた。

それでなくても自然の多く、メイに有利なこのクエスト。

帰りの道のりですっかり、トラはメイに懐いていた。

こうなってしまえば、独壇場の始まりだ。

「ちょっと待っててね」

そう言うと、トラはおとなしくその場で待つ。

メイは大量の水を花壇に流し、すぐに二杯目を求めて駆け出した。

もちろんトラも、メイの後を追って駆けていく。

「始まりましたね」

「そうね」

すでに道を知っているとあれば、足取りはさらに軽快になる。

メイには道の崩れも問題なく、すぐに二杯目の水を汲んで踵を返す。

するとそこに飛び出してきたのは、大きな蛇だった。

木の上から飛び掛かってくる蛇の喰らいつきは、ジャングルではわりと定番。

「ほいっと」

メイは首の動き一つでこれを回避。

続く尾の振り回しは、距離感を計ってバックステップ。

さらにここから、喰らえばクエストを一気に厳しくする【毒液散布】が迫るが――。

「いーちゃん、おねがいっ!」

吹く風がこれを晴らしてあっさり無効化。

「みんなで上まで競争する?」

笑顔で問うメイに、応えるヘビといーちゃん。

メイが駆け出すと始まる競争に、どちらも参戦してきた。

「負けないよー!」

メイは木々の上を駆け、時に地面からの大きな跳躍で谷を越える。

ここで邪魔にやってきたのは、オナガザル。

その鋭い動きは、不運にも抱えた水瓶によって視認することができなかった。

オナガザルはここぞとばかりに、【クローストライク】で水瓶の破壊を狙う。しかし。

「はいっ!」

近寄ってくる早い足音に気づいていたメイは、跳躍の音が聞こえたところで回転。

水瓶への攻撃をスルッと回避して、再び山を駆け上がる。

「「……!?」」

戻ってきたメイの姿に、驚くレンとツバメ。

なんと2周目は、襲い掛かってきた動物たちを全て引き連れての帰還。

水を花壇にまくとすぐさま3周目に入り、もちろん動物たちもその後をついていく。

「……これ、修行よね?」

「森のお友達と、水を汲みに行く童話のようです」

そして3周目。

メイが再び山を駆け降りていくと、そこに見えたのはシオン兵長の姿。

まるで雪崩のように山を駆け降っていくメイを、見つけた兵長は――。

「ここは危険な動物も多く気が抜けないぞ。大丈夫か?」

「はいっ、大丈夫ですっ」

もはや動物たちを連れての行進状態になっているメイに安否を問うという、奇妙な光景が生まれる。

「ここには地を割るトラや、毒を吐き出す蛇もいる。くれぐれも気を付けてくれ」

「りょうかいですっ!」

汗だくで水瓶を運ぶシオン。

「私も負けていられないな……!」

大きな水瓶を抱えて駆けるメイの姿に、気合を入れ直すのだった。

「てへへ、少しあげ過ぎちゃったかも」

どうやらこの花壇、水をあげただけ花が咲き、その花の量で修行の成否を確認できる形になっているようだ。

そしてメイが持ち出した最大の水瓶なら、一回クリアすればいいものを五回分。

そこに出来上がったのは――。

「花に飲み込まれちゃったわね……」

「楽園というモチーフで描かれた絵画のようになっています」

花壇はもう、花畑の化物のようになっていた。

しかもメイが連れてきたたくさんの動物たちまで、花畑の前でくつろぎ出す始末。

「ほう、これは綺麗に咲いたのォ」

「老師がこの化物を『良し』とするのなら、問題なしね」

「……ふむ。やはり優秀な冒険者殿を前に、シオンも気合が入っているようじゃな」

シオン兵長も、2周目には両手に水瓶を抱えて帰ってきた。

「やっぱりこれ、私たちの出す結果で兵長の修行効果も変わってくるみたいね」

「そのようですね」

メイたちが修行で結果を出すほど、それに触発されてシオン兵長の修行成果が上がるというクエストで間違いないようだ。

「百点満点……いやそれ以上じゃ。それでは次の修行といこうか」

「はい!」

最初の修行を終え、気合の入るシオン兵長。

そうと分かれば、メイたちも全力だ。