作品タイトル不明
581.老子のもとへ
「ありがとう。君たちのおかげで大事な白虎像を取り戻すことができた」
遅れてやって来たシオン兵長は、そう言って折り目正しく頭を下げた。すると。
「このままじゃ終わらねえ……終わらねえぞシオン……!」
「姉弟子……待って!」
その後を追ってきたファーランは悔しさをにじませた声でそう言うと、鋭い目でシオンをにらみ、街へと消えていった。
「最近の街の荒れ方もそうだが、姉弟子にはとても不穏なものを感じる……」
そう言ってシオンは、取り戻した白虎像をじっと眺める。
「もう一度、鍛え直した方が良さそうだ。今回は運良く姉弟子を止めることができたが……君たちがいなけば像は奪われていた」
ファーランとの戦いは、互角と言っていい結果だった。
シオンは自らを戒めるように、一度息をつく。
「空幻老子に再び教えを請おう……そうだ、君たちも来ないか? ぜひ紹介させてもらいたい。君たちの力であれば、道場へも問題なくたどり着けるだろう」
「新しい展開に続くクエストみたいね」
「道場と言えば修行だね!」
メイは拳を「やっやっ」と突き出す。
「修行クエストが始まる可能性は大いにあります」
「楽しそうかもっ!」
こうしてメイたちはシオンに続いて、秘仙郷へと続く山を登ることにした。
「それでは一気に駆け抜けるぞ! ついて来てくれ!」
そう言って速いステップと跳躍で、木々の生い茂る山道を駆け上がっていくシオン兵長。
「【バンビステップ】」
「【加速】【跳躍】」
「【浮遊】」
もちろんそれを追うメイたちも、山を高速で登っていく。
「【ラビットジャンプ】!」
見つけた木々の並びを見つけてさっそく飛びつくと、うんていの要領で枝から枝へ。
「【アクロバット】!」
そのまま空中で二回転して、着地した枝のしなりを使って再び【ラビットジャンプ】で跳躍。
木々に隙間が開くと、離れた木の枝目がけて手を伸ばす。
「【ターザンロープ】! アーア……むぐっ」
気持ちの良い青空。
青々とした山道の心地よさに、思わず叫び声をあげそうになって慌てて口を塞ぐ。
その光景にほほ笑むツバメ。
「やはりメイさんの移動は少し違いますね」
敏捷型に多い高速直線移動の連続使用というより、動物の走り方という方が近い。
その柔軟性に、あらためて感嘆してしまう。
そしてうっかり気分良くなってしまったメイ。
「メイー」
「おっとと!」
レンの呼びかけに振り返る。
先行してプレイヤーの案内人になるはずのシオンを大幅に追い越してしまって、到着を待つ。
「大丈夫か? ここは険しい道も多い。ケガに気を付けてくれ」
「ふふっ」
その結果、木々を跳びアクロバットを決め、それでもなお先に行ってしまったメイをシオンが気遣うという光景が生まれ、笑ってしまうレン。
「この形のズレるやりとりは、何度見ても楽しいわね」
本来であればこの山道、遅れてしまったプレイヤーをシオンがここで待っているという形なのだろう。
運営も想定していない高速移動で木々の道を抜けたメイたちはそのまま、開けた高山上部地帯へ入る。
そこからは漢方薬クエストで向かった岩山塔も見える。
まるで仙人でも住んでいそうな、静かな一帯だ。
「ここは風景が綺麗だねぇ」
「本当ですね」
岩山塔を望む山の最上部。
現れた長い石の階段を登ると、そこにはシオンの師匠が住む道場がある。
めったに雨が降らないためか、どこか白く焼けた感じの白壁が続く道場。
その中では、弟子であろう白の拳法着を着た者たちがさまざまな修行に明け暮れていた。
「ここにはいないようですね」
道場の中に老子はおらず、その奥へ。
するとそこには、陽光によって青緑に輝く池があった。
そこに現れたのは、『いかにも』な風貌をした老子。
長いひげと大雑把に結んだ白髪を揺らしながら、湖の上を歩いてくる。
その悠然たる雰囲気はまさに、気を使う武術の師匠と言った感じだ。しかし。
「……水の上を歩くのはメイもできちゃうから、少し演出が弱く見えるわね」
湖だろうが海だろうが全力疾走してしまうメイを見慣れたレンたちは、「雰囲気あります」と冷静な評価。
「お久しぶりです、空幻老子」
「ふむ。この者たちは?」
「はじめましてっ! メイですっ!」
メイはいつも通り、元気にあいさつを返す。
「こちらは私を助けてくれた恩人です。実は、姉弟子や街のことで相談があってやってきました」
「ほう、ファーランか」
「姉弟子は街を荒し、今回、白虎像を狙っていたのです」
「四神像か……ファーランの狙いは四神の加護を付け、力と富を得ることじゃろう。素晴らしい才能を持つが、強い野心を抑えられない。彼女を破門としたのは、禁止していた技にも手を出そうとしたことが原因じゃからのォ」
どうやら姉弟子であるファーランは、師の言いつけを破ったことで道場を追い出されたようだ。
「そして私もあらためて、街を守るための力を付け直したいのです」
「……いいじゃろう」
空幻老子は静かにうなずいた。
「ところで、ここへ連れてきたということは……この冒険者たちも見どころがあるのじゃろう?」
「もちろんです。これほどの才を持つ者はそうそういないと思われます」
「ほう、ならばお主たちも修行を受けていくがいい。ライバルがいた方が、シオンも身が入るじゃろう」
「はいっ!」
「これって、『育成型』のクエストになるのかしら」
「めずらしいですね」
「いくせいがた?」
「私たちが修行で結果を出せば、それに合わせてシオンがレベルアップするっていう感じだと思うわ」
「そういうクエストもあるんだね」
「それではさっそく、修行に入ろうかの」
こうしてメイたちは、シオン兵長と共に修行に参加することになったのだった。