作品タイトル不明
578.悪の武術道場へ
「ありがとう、助かったよ。これは高価な霊薬でね。それを街の医療所から強奪しようなんてあまりにひどい話だ」
黒髪を一本にまとめただけの、涼やかな女性兵長シオン。
どこか穏やかさを感じる物腰でそう言って、メイたちに頭を下げた。
「悪い武術家集団がいてね……最近街で暴れ回っているんだ。彼らは気を使った戦い方が強力なんだ」
どうやら鳳には、街を荒す悪い武術家たちがいるようだ。
「す、すみません……っ」
そこに傷だらけの衛兵が、転がるようにやってきた。
「どうした!? 無事か!?」
「はい、ケガは大したことありません。ですが、白虎像を奪われてしまいました……」
「白虎像を……この国を守る大事なものだと知っておきながら、よくそんな真似を」
「ヤツらは道場に戻っていきました」
その言葉を聞いて、兵長は悩む。
「参ったな。道場に戻られてしまっては、取り戻すのは大変だぞ……」
「お手伝いいたしますっ!」
「はい。乗り掛かった舟です」
「奪還ならサクッといけそうね」
「助かる……っ。君たちのような強力な冒険者が一緒なら、白虎像を取り戻せるだろう」
こうしてメイたちは、シオン兵長に続いて街の北東にある道場へ向かうことにした。
そこにあったのは、趣味の悪い黒と金の門構えをした立派な瓦屋根の平屋建て。
「頼もう!」
兵長が門を抜け道場へ踏み込むと、そこにはガラの悪い男たちといくつもの武器が壁に掛けられていた。
物々しい雰囲気は、とても武道の道場とは思えない。
「ああん? 衛兵が何のようだぁ?」
「白虎像を返してもらおうか。あれが大事なものだと、お前たちは知っているはずだ」
「白虎像なんて知らねえなぁ……」
ニヤニヤと笑いながら、武器を構える男たち。
「しらを切っても無駄だ!」
「知らねえって言ってんだろ! 面倒くせえ、やっちまえ!」
叫び声と共に、燃える青龍刀を振り降ろす悪の武闘家。
「ハッ!」
しかしシオンはその振り降ろしをかわし、敵の腕を蹴る。
そして男が手放した青龍刀を取ると、華麗な振り払いを決める。
「ぐああっ」
巻き起こる炎の一撃に、男は返り討ちにされた。
「この野郎っ!」
「やれ! 全員でやっちまえ!」
道場に、黒の道着を身に付けた武闘家たちが集まってくる。
一瞬でメイたちは囲まれてしまった。しかし。
「これって、もしかして……!」
「面白くなりそうです!」
レンの気づきに、ツバメも反応。
襲い掛かってきた男の武器は双剣。
この二連撃をかわして、ツバメはその背後の男を狙う。
「喰らえっ!」
そして男の振り降ろし攻撃をかわすと、ハルバードが床に突き刺さった。
ここでツバメは、大きく踏み出した。
「私はこれを頂きます!」
伸ばした手に、つかむハルバード。
飛び込んで来た一団の先頭にいた男を斬り飛ばすと、ツバメはそのまま『武器スキル』を発動。
「振りが鈍いですが、いい気分転換になりそうです! はあっ!」
「うおおおおおお――――っ!!」
集まってくる悪漢たちにハルバードを振り回すと、回転に合わせて衝撃波が吹き荒れ、男たちをまとめて吹き飛ばした。
「これは気持ちいいです……っ!」
普段大人数をまとめて吹き飛ばすといったことがないツバメも、これには大喜び。
どうやらこの道場、置かれている武器はなんでも使えるようだ。
「【スタッフストライク】!」
一方レンは、杖の攻撃で倒した男が手放した『雷迅爪』を装着。
「こんな近接も、たまにはありでしょう?」
槍の降り下ろしをかわし、踏み込んだところで放つ爪の一撃。
左爪の振り上げからの、右爪の振り降ろし。
見事に決まって男が倒れる。
「まだまだっ!」
そして振り返るのと同時、ちょうどよく迫ってきていた男の槍による突きをかわして、武器スキルを発動。
「【雷刃爪】!」
鉄爪に宿る雷光が輝く。
爪で男をひっかくと、バチバチと音を鳴らして雷が駆けめぐり煙を上げる。
「はあっ!」
最後は通常攻撃の蹴りでトドメ。
蹴り飛ばされた男はそのまま転がり、道場の壁にぶつかった。
敵は程よい強さで、装備品や戦い方を変えても対応できる。
この楽しさに、思わずノリノリで格闘戦を続けるレン。
「よっ! それっ!」
一方メイは、ここでも華麗なステップで敵の攻撃をかわしていく。
「【キャットパンチ】!」
合間に挟む猫パンチは、的確に相手を捉える。
「チッ! それなら!」
黒道着の男は取り出した『丸薬』を放り上げ、食べようとするが――。
「はいっ!」
伸ばしたメイの手がそれをキャッチ。
レンたちよろしく、メイも丸薬を飲み込んでみたところ――。
「……ん? う、うわああああーっ!!」
なんと開いた口から、深紅の炎があふれ出した。
「「「うおおおおおお――――っ!!」」」
突然上がったまばゆい炎に、思わず視線を奪われるレンとツバメ。
その火力はなかなかのもので、男たちはまとめて倒れ伏す。
「レ、レンちゃんこれは大丈夫ーっ!?」
「そ、そうね……野生というより恐竜だからセーフ!」
「はい! セーフです!」
ツバメも慌てて両手を開き、セーフのジェスチャー。
「やったー!」
野生度チェックをやや甘めの判定で乗り切ったメイは、飛び掛かってくる男の衝撃波蹴りをしゃがんで余裕の回避。
「【キャットパンチ】パンチパンチからの――――【ファイアブレス】だああああーっ!」
「「「うぎゃああああああ――――っ!?」」」
燃え上がる炎に焼かれて、男たちが倒れ悶える。
「おおっ! すごーいっ!」
喜ぶメイ。
その背後から迫る一人の男。
「メイさんっ! これもきっと面白いですっ!」
それに気づいたツバメは、落ちていた熊手のような武器を投じてメイにパス。
「ありがとうっ!」
「オラァァァァ――――ッ!!」
鉄棒を手に襲い掛かってくる男に、メイは受け取った『熊手』を振り降ろす。
「【神氷鉄破】!」
スキルを発動すると、熊手からすさまじい勢いで巻き起こるダイアモンドダスト。
「う、うおおおおおおおお――――ッ!?」
そのまま男たちを凍結に追い込み、道場内部を白氷で覆い尽くした。
「すっごーい!」
これまでにない変わった攻撃に、思わずメイは目を輝かせる。
「色んなスキル持ち武器を使って戦える……このクエストいいわね!」
「はい! もっと戦いたいくらいです!」
「火とか氷が使えるの楽しいよーっ!」
口からチラチラ炎をあげて喜ぶメイ。
三人はワクワクしながら、新たな敵武術家たちの乱入を待つ。
「…………」
一方、気合を入れて同行してきたシオン。
色んな武器を試して楽しむメイたちが止まることなく敵を倒していくため、最初の一人を倒した後は完全な棒立ちになっていた。