作品タイトル不明
577.オブジェクトバトルです!
「目線が気になりますね」
「あはは、本当だねぇ」
「いつまで花だらけなのよ私たちはっ」
そう言ってレンが身体を払うと、身にまとっていた植物は粒子になって消えていった。
「時間が経った後に、直接払う必要があるんですね」
それを見てメイも、濡れた犬のように身体をブルブルと震わせる。
漢方薬生成クエストを無事終えたメイたちは、鳳の街に戻ってきていた。
白の漆喰に朱の柱が目に付くこの街は、人通りもあり賑やか。
武器店やアイテム店はもちろん、ハウジング用のカーペットやカーテンを売る店もある。
商店の並ぶ通りは、呼び込みの商人などもいて騒がしいほどだ。
「ここは観光地の大通りみたいだねぇ」
「確かにそうですね」
「飲食システムができたことで、余計に人が集まってる感じね」
そんな事を言いながら、通りを進んでいると――。
「待てぇぇぇぇーっ!」
聞こえてきた叫び声。
振り返ると、そこに見えたのはツヤのない簡素な黒のチャイナ服の下に、ズボンをはいた男たち。
朱色の笠をかぶった衛兵らしき者たちを、小ばかにするような動きでこちらにやってくる。
「へっ、盗まれる方が悪ィんだ」
「悔しかったら取り返してみな」
そう言って男は、橙の実がなった植物を掲げてみせた。
「たすけましょうっ!」
メイの言葉に、うなずくレンとツバメ。
「ああん? 何だテメエら、邪魔する気かぁ?」
「面倒くせぇ、やっちまえ!」
立ちふさがる五人の男たち。
先頭にいた男は強く踏み込むと、スキルを発動。
「【発気拳】!」
足元に衝撃を残して急接近。
縦に握った拳を強く突き出してきた。
拳から放たれる衝撃が、空気を揺らす。
「よっと!」
しかしこれでメイを狙ったのが失敗だった。
続く前蹴りからの回し蹴りも、余裕で回避される。
「【発気脚】!」
必殺の蹴り飛ばしスキルも、斜め前方への踏み込みで難なく回避。
「いきますっ! 【キャットパンチ】!」
カウンターのような形で、男のあごに振り上げる一撃を叩き込む。
あまりに見事な一撃だが、ダメージ自体は低い。
男はすぐに体勢を立て直し、左右のフックを放つもメイはこれを身体の傾けだけでかわして反撃。
「【キャットパンチ】! パンチパンチ!」
軽打の連発をきれいにもらった男は、ここで反撃に出る。
「こいつっ! これならどうだ――ッ!」
「うわっと!」
その手につかんだのは、飲食店の木イス。
そのまま一回転して、力任せにぶん投げる。
するとメイ、これを普通にキャッチ。
「なにっ!?」
「いきますっ! お返しの【フルスイング】だーっ!」
「うぐあッ!?」
豪快なイスの振り上げを再びあごに受け、なんとそのままバク宙の様に空中で一回転して転倒した。
「すっげー!」
「なんだ今の!? 初めて見た……っ!!」
これには通行人たちも大喜び。
実はこのマップ、敵がオブジェクトによる攻撃を使うことが多いようだ。
「喰らえっ!」
「うわわっと!」
一見慌てながらも、果実店の店主から奪ったナイフで仕掛けた男の投擲を、見事に全部イスの座面で受けたメイ。
「【アクロバット】」
飛び掛かってくる男に向けて、華麗に跳躍。
「からの【フルスイング】だ――っ!!」
前方宙返りで叩き付けた木イスが脳天に直撃、男はそのまま果実店の棚に倒れ込んで商品が高く舞い散った。
「楽しいマップです」
ツバメは敵の拳をかわす。
すると拳から発せられた波動が炸裂し、付近に衝撃を巻き起こした。
これをしっかり見送ったツバメは反撃に入る。
「【紫電】」
敵の動きを止めたところで、レンと目が合う。
「【加速】【アサシンピアス】」
そして新たに飛び込んでくる棒術使いの男に狙いを変更し、一撃で打倒。
男の持っていた棒が高く舞う。
一方雷光によって動きを止めた男の元にはレンが詰め、手にした杖を突きつけた。
「【フレアアロー】!」
そのままゼロ距離で魔法を発射。
「うぐおおおお――――っ!!」
吹き飛んだ男はそのまま武器店に転がり込み、並んだ装備品や剣をなぎ倒したところで――。
「ぐふっ」
店の壁に飾られていたハンマーが頭に落下し、卒倒した。
ツバメは飛んだ棒をつかみ取り、そのまま一回転。
一方レンも、持ち上げたままの杖で一回転。
「やあっ!」
「【スタッフストライク】!」
「ぐああっ!!」
ツバメの振り回した棒と、レンの杖に頭を挟まれた男。
ゆっくり倒れて、クエスト終了。
「おおおおーっ! いいぞいいぞーっ!」
「こんなに派手なアクションをするパーティは始めてみた!」
「最高だったぞ!」
どこかアクション映画じみた戦闘クエストには、通りすがりのプレイヤーたちも大喜び。
「すげえ……このクエストってこんな戦いができるクエストだったのか……」
元々こういう形の戦闘ができるように作られてはいたが、それを実行できたパーティはいなかったようだ。
オブジェクト攻撃を使った新しい攻略法が、早くも流行りそうな気配の中。
「なんだか楽しいクエストだったね!」
「オブジェクトが上手く作用するようにできてるのね」
「武器屋さんの仕掛けには驚きました」
オブジェクトの使い方次第では、HPに関係なく一撃打倒も可能。
そんな楽しいクエストに、三人は笑顔でハイタッチ。
すると橙の実が付いた植物を取り戻したメイたちのもとに、朱色の笠と胴鎧を着た一人の若い女性がやってきた。
「ありがとう助かったよ。私はこの街の衛兵長をしているシオンという者だ」
どうやらまた、新しいクエストが始まったようだ。