作品タイトル不明
576.秘仙郷の頂にて
「すごい風景だねぇ……」
「本当ですねぇ」
「これは今まで見たことないタイプの絶景ね……」
秘仙郷の塔のような岩山を登ると、その頂上は雲にかかろうかというほどの高所。
遠く大地を見回すその光景は、果てしない。
「鳳の周りは結構なだらかな地形になっているのですね」
「湖が青緑できれいだねぇ」
「この並ぶ岩の塔が、最上部ではつり橋で結ばれてるってのが世界感あっていいわね」
語る三人は、全身花だらけ。
漢方薬の服用ミスで、【敏捷】や【技量】が大きく低下した状態だ。
「さて目的の【鹿茸】は……あの一番高いところでしょうね」
段々に高くなっていく岩山塔。
その最高峰には竹のような植物が生え、そこに希少な鹿の抜けた角が落ちている。
狙いはそれだ。
「いきましょう!」
三人はつり橋を使って最高部を目指すが、六本ある橋の二本目を渡ったところで様相が変わり出す。
「いつ崩れ落ちてもおかしくないです」
足場の木板が落ちていたり、片側の手すりになる部分が切れていたりと、危険なアスレチック感が出ている。
「【バンビステップ】」
しかし花だらけになっても、その運動性は変わらない。
メイは見事な足の運びで、抜けの多い足場を小気味よく前進。
ツバメはその後を通常のジャンプと【跳躍】を丁寧に使いながら追いかける。
レンは念のため、その横を【浮遊】で進む。
先導のメイが時に手を引く形で最高峰へたどり着くと、【鹿茸】は問題なく回収できた。
ここは一応、空を飛べるレンが持っておくことにする。
異変が始まったのは、そんな帰り道でのことだった。
三人が崩壊寸前のつり橋の中腹まで来たところで聞こえ出す、大型鳥類の鳴き声。
「前の鳥の強化版ね。ここで出てくるのは最悪だけど【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
放つ炎弾。
しかし鳥はこれをかわして接近してくる。
「伸びて! ツルのムチ!」
【密林の巫女】でツルが伸び、飛び掛かってきた鳥を弾く。
しかし時間差で来た2匹目は、その口から風弾を発射。
「「ッ!!」」
三人は慌ててロープをつかむ。
「うわわわわーっ!!」
翻りそうになるつり橋から、足場用の板が飛んで行く。
それが落ち着く頃には、新手がさらに4匹。
「もっと伸びて! ツルのムチーっ!」
メイは5本のツルを一気に伸長し、まとめて叩き付けた。
これで残りは早くも2匹。
メイは反対の手を伸ばし、ツルを一気に伸長。
「つかまえてーっ!」
伸びたツルは、一匹の鳥をガッチリとつかんだ。
メイは心もとない足場に力をこめ、全力でブンブンと大型鳥をぶん回す。
「せーのっ! それええええ――――っ!!」
そしてそのまま、残ったもう一匹の鳥に叩きつける。
絡み合って、落ちていく大型鳥。
「花メイも、普段と全然違うけど面白い戦い方をするわね……っ」
「きれいな花も、とてもよく似合っていますっ」
そんなメイを、さらに上方から狙う一匹の鳥。
「ッ!! 【投擲】!」
気づいたツバメの投じた【雷ダガー】が炸裂し、動きを止めた鳥は落下。
しかしここで運悪く、落ちてきた巨体がつり橋に直撃した。
「「ッ!?」」
手すりの綱が弾け、メイとツバメはバランスを崩す。
さらにそこへ現れた新手の大型鳥が、大きく息を吸った。
「【連続魔法】【フレアアロー】!」
即座にレンが鳥を撃って対処するが、倒すのと同時に放たれた暴風弾が空中で炸裂。
「え、えええ!? わああああーっ!」
「こ、れは……っ」
「メイ! ツバメっ! きゃあっ!」
バランスを崩していた二人は、つり橋が回転するほどの暴風で橋をからはじき出され、レンも吹き飛ばされた。
三人はそのまま、岩山塔から落下していく。
「【浮遊】!」
レンは早々に飛行スキルを起動し直して体勢を整えたものの、メイとツバメはそうもいかない。
「わあああああーっ!」
雲に届くほどの高さから、真っ逆さまに落下していく。
「これが噂のヒモなしバンジーというやつですか」
アイテム自体はレンが持っているため、衝突死に戻りでも問題はなし。
意外と冷静なツバメ。
そんな中、メイは右手を強く伸ばす。
「それでは何卒――――よろしくお願いいたします!」
空中に現れる魔法陣。
そこから飛び出してきたケツァールはメイをひろい、そのまま一直線にツバメのもとへ。
すでに落下はある程度進んでおり、岩山の出っ張りに直撃するまでもう時間がない。
もちろんこの位置からぶつかれば、落下ダメージ死は免れない。
「ツバメちゃんをつかまえて――――っ!」
叫んで伸ばした手。
ツルがツバメの胴に絡みつき、ギリギリのところで引き上げに成功した。
「メイさん、ありがとうございます」
「ドキドキしちゃったね!」
そのまま浮遊中だったレンも乗せたメイは、少し塔の山フライトを楽しむことにした。
あえて『てるてる坊主』状態のまま「素晴らしい景色です」と、マイペースに風景を楽しむツバメ。すると。
「あの岩山の途中に、洞穴があります」
「……洞穴?」
見つけたのは塔の中腹に位置する辺りに空いた、大きめの穴。
ケツァールで乗り付け内部に踏み込んでみると、そこには一人の老人NPCがいた。
「これはめずらしい。この風景に魅入られ早十余年。来客は初めてだ」
「風景に魅入られてここに住んでるって、変わり者ねえ」
「最近は霞ばかりを吸って生きているのだが、何か食べ物でも持っていないかね」
「それならバナナはいかがですかっ?」
メイが【腕力】上げ用のバナナを差し出すと、老人NPCはうれしそうに齧りついた。
「これはありがたい……そうだ、これを持っていくがよい。漢方の素材として使えるぞ」
「ありがとうございますっ!」
こうしてメイたちは、漢方薬用のレア素材【白高山茸】をもらって転移宝珠のもとへ帰還。
そのまま店に戻ることにしたのだった。
◆
「ただいま戻りましたっ!」
転移宝珠から店に戻ってきたメイが【鹿茸】を掲げると、店主は大喜び。
「これで仕事ができる……! お礼と言っては何だが、君たちにも我が秘薬づくりを披露しよう……ちょうど、良い素材を持っているようだしのぉ」
NPC特有の『プレイヤーの持ち物透視能力』を発揮した店主は、【白高山茸】を手にさっそく調薬を開始。
【限界向上湯】:短時間だが肉体の限界を超えたスキルの連続使用が可能になる。
「持っていくがよい」
「へえ、一定時間クールタイムをなくすって感じかしら。ちょっと反則的かも」
「面白い薬ですね。火力があがりそうです」
「やったー!」
こうしてメイたちは見事、本来の報酬よりも良いものをもらう形で漢方薬工房のクエストをクリアした。
「……それで、この花だらけ状態はいつ解除されるの?」
「しばらくすれば治るじゃろう」
「クエスト終了ではなく、時間経過なのですか……?」
「……すまぬ」
「素敵なお姉さんに見える薬は――」
「ない」
「なんでーっ!」
素晴らしい早さで、クエストをクリアしたメイたち。
それが早すぎたために、全身を花に包まれた派手な格好で街に戻ることになってしまった。
「……ま、まあまあ恥ずかしいわね」
「こんなアサシンがいたら、5秒で返り討ちにあいます」
「あははは」
集まる視線に、自然と足が速くなってしまうレンたちなのだった。