作品タイトル不明
575.新たなお手伝い
「見事今日の危機を乗り切った! これも君たちのおかげだ!」
無事にピンチを乗り切った店主は大喜び。
「そういえばキミたちは冒険者だったね……どうだろう。漢方薬工房への紹介状を書かせてもらえないだろうか」
早く、ミスもなし。
そんなメイたちに、点心店の店主はそう提案した。
「かんぽう?」
「使用すると色々な効果がある薬を売っていたりするらしいんだけど、その工房への案内ってことね」
「何か面白い薬をもらえる可能性がありますね」
レンたちがそんなことを話していると、観客たちが「いいなぁ」と羨望の声を上げた。
「悪くなさそうね。行ってみましょうか」
「鳳国らしいクエストになりそうです」
「よし、これが紹介状だ。鳳の東部に工房があるからぜひ行ってみてくれ。君たちに合う薬があるかもしれない」
「りょうかいですっ!」
こうして店を出たメイたちは、そのまま街の東部にある漢方薬工房へ足を向けることにした。
街の飲食店には木製のベンチが並び、座って歓談しているパーティもある。
その一人がメイに気づいて手を振ると、メイも元気に手を振り返す。
猫の首に大きめの鈴が付いているのも、西洋系の街ではあまり見なかった光景だ。
東部へと向かった三人は、青紫色の長い暖簾がかかった平屋建ての木造建築へ。
踏み込んだ瞬間、思わず見上げる。
「すごーい……」
店主の背には高く積まれた古い木製の棚と無数の引き出し。
その中には全て、漢方薬用の素材が詰め込まれている。
「ほう、この場所にたどり着くとは……誰かの紹介かな?」
吊り下げ型の灯篭の下。
カウンターに座っていた『老子』という言葉が似合いそうな白髭の老人が、顔を上げる。
「点心屋さんの紹介で来ましたっ」
そう言ってメイが書状を渡すと、店主は「ほう」と息をついた。
「漢方には面白い効能のものあるのよ。【腕力】と【攻撃力】が上がるけど、すごく筋肉質になっちゃうのとかね。ネタで使ってる人がいて話題になってたわ」
「それは面白そうですね」
「…………」
メイは筋肉質になった自分が倒木を振り回す絵を想像して、ブルブルと首を振る。
「ふむ、かなり腕利きの冒険者と書かれておる。ならば頼みたいのじゃが、実は王宮から急ぎで依頼されている薬に必要な【鹿茸】が切れていてのぉ。それを取ってきて欲しいのじゃ」
「定番の形式ね」
「秘仙郷の端には、塔のような形の岩山が並んでおる。その天辺でよく取れるのだが……その高さゆえにたどり着ける者がなかなかいなくてな。頼まれてくれんかのぉ」
「もちろんですっ」
これを快諾したメイたち。
「秘仙郷の麓までは転移宝珠ですぐじゃ。そうだ、活気薬を飲んで行きなされ。元気が出るからのぉ」
そう言って差し出された紙片に乗せられた黄緑の粉末を飲む。すると。
「あ、あれ?」
「これは一体」
見る見るうちに身体に草が生え、ツルが伸び、花が咲き乱れる。
「ええええええ――――っ!?」
三人はそのまま、花のオバケのようになってしまった。
「これは大変じゃ! どうやら出す薬を間違えてしまったようだ!」
「大変だーっ!」
「急ぎだから、この状態で取って来いってことね」
「すまぬ……」
「あの、治す薬はないのですか?」
「すまぬ……」
「多分この後は、何を言っても『すまぬループ』よ」
「……存在感を強める薬はありますか?」
「すまぬ……」
「素敵なお姉さんに見える薬はありますか?」
「ない」
「なんでーっ!?」
メイたちのやり取りに、思わず笑ってしまうレン。
要はこの状態で進めというクエストなのだろう。
「動きにくいですね……そのうえ【敏捷】と【技量】に減衰がかかっています」
どうやら単純な動きにくさに加えて、ステータスも低下しているようだ。
「きれいだけど、ちょっと野生的な感じがする……」
「大丈夫じゃないかしら。どちらというとおバカな植物の精霊って感じだし」
「本当!? よかったー!」
「ふふ。良かったというには少し派手すぎるのがいいですね」
「私だけバラが中心なのはちょっと気に入らないけど、とにかく行くだけ行ってみましょうか」
そう言って三人は、そのまま転移宝珠を使用。
秘仙郷の端、雲に届こうかという塔型の岩山たちの麓にやってきた。
「これはまた、仙人でも住んでいそうな風景ね……【浮遊】」
さっそくレンは飛行スキルを使用。
問題もなく、程よい速度であがっていく。
「【壁走り】」
ツバメも岩の壁を駆け上がり、途中の出っ張りで息をつく。
「やはり少し足回りが重いですが、いけそうです」
「【モンキークライム】!」
続くメイも、いつもと変わらぬ感じであっさり壁を登り、ツバメと同じ出っぱりにたどり着く。
「登るだけなら問題なしね」
こうなればあとは簡単。
レンが次々に『次に向かうべき出っ張り』を指示し、ツバメとメイが駆け上がるだけ。
そして風景が、付近を見渡すほどの高さまで来たところで――。
「当然、こういうことになるわよね」
こちらを狙って飛んできたのは、三体の鳥型モンスターたち。
よじ登り中に大型のモンスターに襲われるというのが、このクエストの難しいところ。
「きます!」
「えいっ【アクロバット】!」
「「ッ!?」」
この高所。
突然壁を蹴って宙に躍り出たメイに、驚くレンとツバメ。
メイは空中で一回転すると【密林の巫女】を発動し、とある思い付きを実行する。
「伸びて! ツルのムチ!」
するとメイの手から伸びたツルが大きくしなり、そのまま鳥型モンスターを弾き飛ばした。
さらにそのまま空中で、もう一回転。
残り二体のカギ爪攻撃を前に、再び手を振るう。
「いっぱい伸びてー!」
するとメイの手から五本のツルが伸び出した。
範囲攻撃と化した一撃は二体の鳥型に直撃し、そのまままとめて崖下に叩き落す。
それが植物である以上、【密林の巫女】の効果は有効。
思った以上の戦果に思わず歓喜のメイ。しかし。
飛び出した以上、後は落ちるだけ。
「よいしょっと!」
「てへへ、ありがとうレンちゃん!」
メイが空中に飛び出した瞬間、レンは早めに『キャッチ』に動いていた。
そのまま緩い落下に任せつつ、受け止めたメイを近くの段差に下ろす。
「このクエスト、植物系のスキルやアイテムなんかがあると、少し違った攻略ができるのかもしれませんね」
「そうみたいだね!」
そんな会話をかわしつつ、岩山を登るメイ。
空は青く、風も心地よい。
いよいよ高度も上がってきて、見下ろす街は何とも美しい。
そんな中、『植物使い』となったメイは軽々と岩山を登っていく。
こうして三人は驚くほどあっさりと、頂上へたどり着いたのだった。