作品タイトル不明
511.竜と海賊とアサシンと
「今にも止みそうな雨、ドラゴン二体に加えて海賊たち。状況は最悪ね……」
謎の騎士を追って行ったメイとアルトリッテ。
残された三人で戦うには、あまりに厳しい相手。
こちらが全滅しても、物語自体は続く。
だが、やはり生きて『その瞬間』を分かち合いたい。
「……海賊はさすがに、想定外」
それでなくても不利な戦い。
海賊が乱入した時点で、敗北は必至だろう。
「あれは……」
ツバメが目を留めたのは、分隊長の率いる一団の強さに追い込まれているプレイヤーたち。
そこに加勢していく新たな一団の中に、見覚えのある姿があった。
「あのスライムさんは……」
「違う。今がチャンスなんだわ……っ!」
草原の乙女が出す試練を越えてきたスライムに、レンは思わずハッとする。
「私たちは竜に集中でいい! あのスライムなら、分隊長相手でも後れを取らないはずよ!」
その言葉に、覚悟を決めるようにうなずくツバメ。
「ここまで皆さんと一緒に来たんです。なんとしても勝機を作ります」
静かに、しかしハッキリとそう言葉にした。
「そうね。メイドクエストから一緒に来たんだもの」
「……どうせなら皆無事で終わりたい」
そう言って、レンとマリーカが深くうなずく。
「「ギャオオオオオオオオ――――ッ!!」」
動き出す紅白の竜。
全身を痺れさせるほどの咆哮の後、二頭は絡み合うようにして襲い掛かって来る。
「――――【疾風迅雷】」
前に出たのはツバメ。
「【加速】【加速】【加速】っ!」
白竜の前腕三連撃をかわして下がると、そこに赤竜が白竜を飛び越える形で飛び掛かりを仕掛け、右腕を叩きつけにくる。
「【加速】!」
これをさらに後方への移動でかわすと、赤竜はそのまま尾を振り降ろした。
「【加速】!」
突き刺さる尾と、弾け飛ぶ地面。
その後方に見えたのは、白竜が放つブレスの輝き。
「【リブースト】!」
迫る50の氷槍を斜め側方への高速移動でかわすと、赤竜が猛然と飛び掛かって来る。
どうやら、ブレスへの対応を見た上で続ける連携のようだ。
ボスが交互に襲い掛かってくるという恐ろしい状況。
赤熱する牙による喰らい付きは、威力も迫力も桁違いだ。
「ッ! 【電光石火】!」
これを高速特攻斬撃の移動使用で回避する。
振り返った瞬間、頬に当たる雨の弱さにわずかな焦りを感じながら状況を確認。
赤竜を飛び越えてきた白竜の前腕叩きつけを、即座にかわす。
その瞬間、気づく違和感。
「溜めブレス……っ!?」
白竜の口端に集約しつつある、白の輝き。
「【加速】【リブースト】!」
吐き出すブレスは、200に迫る氷槍の乱舞。
「【跳躍】【エアリアル】!」
その威力も範囲もすさまじい一撃に、ツバメはとにかく距離を取ることでギリギリを跳ぶ。
そしてあがっていく雨が、止む直前――。
「【投擲】っ!」
ムリな体勢からの【投擲】は、ツバメの【技量】では補正し切れない。
竜の脇を抜ける形で通り抜けていく【雷ブレード】
炸裂し、拡張された雷光がギリギリで竜の動きを止めた。
「間に合いました……っ! おねがいしますっ!」
「了解っ!」
あがる雨。
この瞬間を待っていたとばかりに、レンは叫んで眼帯を放り投げた。
構えた杖と共に包帯がほどけて、風に払われる。
「高速【誘導弾】【フレアストライク】――ッ!!」
二つの装飾品の同時使用は、上級魔法の同時撃ちを可能とする。
放たれた五つの炎砲弾は、竜を追う軌道で突き進み直撃。
一帯を消し飛ばすほどの、盛大な爆炎を巻き起こす。
強烈な一撃は、白竜の体勢を大きく崩した。
「【加速】【リブースト】」
もちろんアサシンはこの隙を逃さない。
「【サクリファイス】【雷光閃火】!」
突き刺さったたダガーが、火花を上げて爆発。
HPをギリギリまで浪費したツバメは、倒れゆく白竜に背を向け振り返る。
「あと一体」
HPはすでに、どんな攻撃がかすめただけでも死に戻り確定。
しかし、それでもツバメは止まらない。
「【分身】」
生まれるもう一人のツバメと共に、そのまま赤竜を狙いにいく。
「全力でいきます――【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】」
赤竜が狙いをつけたのは【分身】のツバメだ。しかし。
「【加速】【リブースト】」
なんと【分身】までもが、当たり前のように攻撃をかわす。
「【電光石火】」
隙を突き、駆け抜ける高速移動攻撃。
「【電光石火】」
分身体のツバメも高速移動攻撃で、交差するように竜の側方へ。
「【跳躍】」
跳び上がったツバメが、ダガーを構える。
これに対して赤竜は、尾を横から叩き付けにいく。
「【エアリアル】」
これを二段ジャンプでかわしてみせたツバメはなんと、【分身】だ。
「「【投擲】」」
真偽両方が放つ【ブレード】を、赤竜は必死にかわす。
攻撃を当てられると消えてしまうのが【分身】のシステム。
だがこれではいつまで経っても二対一、翻弄された状況のままだ。
「……すごい」
「【加速】【リブースト】!」
これまで幾度となくトップ勢とも戦ってきたマリーカでも驚愕に目を見開く中、ツバメは大きな隙を作り出すため勝負を賭ける。
だが明らかに『狙いに来ている』直線的な動きを前に、ついに赤竜にチャンスが到来することになった。
ようやく止んだ雨。煌々と燃え上がる灼熱の炎が、赤竜の腕に灯る。
「ギャァァァァァァァァ――――ッ!!」
全体重をかけて叩きつけられる一撃は、重装の前衛すら潰す必殺の一撃。
直後、業炎の炎柱が突きあがり天を焼く。
さらにもう二度ダメ押しの叩き付けから、高く上げた前腕を地面にめり込ませた。
ド派手に弾ける炎の花。
誰が見ても生存不可能なその攻撃に、マリーカは呆然とする。
「いきましょう」
しかしレンはそう言って、マリーカの手を引き『立ち位置』を調整。
視線を上げると――。
「――――それは【残像】です」
予想通り聞こえてきた声。
本体のツバメは、宙にいた。
「【ヴェノム・エンチャント】」
両手のダガーに毒属性を付与し、隙だらけの竜を見据えて放つ連撃。
「いきます! 【エアリアル】【八連剣舞】!」
隙だらけの竜に【境界死線】で叩き込む八連の斬撃が、即座に毒性を爆発させる。
「グギャアアアアアア――――ッ!!」
大きく体勢を崩し、その場に倒れ込む赤竜。
なんとツバメはHPと集中力の全てを尽くすことで、たった一人で白竜を討ち、さらに紅竜を追い詰めてみせた。
だが【八連剣舞】後の隙は大きく、全てをレンたちに託したという状態だ。
「さあいきましょう! ここが私たちの見せ場よ!」
「……了解。ツバメもとんでもない前衛だった」
雷光のような動きで舞う抜身の刃。
そんなアサシンの動きに驚愕しながらも、意識を切り替えるマリーカ。
「……ここで決める! 【分霊】【ソフトリフレクター】【跳弾魔法】!」
「――――鳴り渡る、鐘は聖なる福音か。満ちる光に、神ぞ来たれり……反転。堕ち狂い、光を喰らう鬼と化せ――」
あれだけの動きの直後。
しかし雷光のごときアサシンは、詠唱チャンスも逃さない。
「【魔力蝶】!」
「【霊鳥乱舞】!」
二人の放つ上位上級魔法が、猛烈な輝きを生み出す。
無数の光鳥と輝蝶の舞。
外れた弾も、十二枚のリフレクターによって反射し再び竜を穿つ。
目を開けているのもつらいほどの光が瞬き、容赦ない『弾数』がすさまじい勢いでドラゴンのHPを削っていく。
一撃必殺ではなく、その巨体を削り切ってしまうのではないかというのほどの乱舞。
とっくにHPがゼロになっている竜を光の奔流が削り尽くし、やがて解けるように消えていく。
「凄まじい攻撃です……」
光の残像が視界を埋め尽くす中。
静かにほほ笑むマリーカと恥ずかしそうに顔を覆うレンに、今度はツバメが息をついたのだった。