作品タイトル不明
508.森の乙女
草原の乙女の情報を得て、大きな湖へと続く木々の中を進む五人。
その道すがらには、各所で戦いの火が上がり出している。
「探せ! この辺りにお宝があるはずだ!」
手にした地図を見ながら、海賊が叫ぶ。
「それを聞いちゃあ放っておけねえな! 【フレイムスピア】!」
その一角に飛び掛かっていくのは、追って来たプレイヤーの槍使い。
速い直線移動から放つ突きで、海賊を弾き飛ばす。
「【ソードスピン】!」
「させるかあっ! 【ストーンシェル】!」
散らばった海賊とプレイヤーたちの戦いは、ここにきて大きなものになっている。
「海賊がライバルになるパターンもあるのかしら。森の乙女にたどり着く流れがもう一本あって、海賊たちに関わるクエストを進めてもいいみたいな」
「ヤツらの求めているお宝が、伝説の剣という流れか!」
「戦いの準備が必要そうね」
そう言ってレンは複雑そうな顔をしながら腕に包帯を、目元に眼帯を装備。
各所で激しい戦いを巻き起こす両軍の隙を、抜けるようにして突き進む。
「なんとしても見つけなくては!」
どこまでも広がる岩山と湖の地。
海賊たちの目を振り切りつつ森の乙女を見つけ出せというのは、なかなかに難しい。
「手分けして探す方がいいのだろうか……」
慌ただしい海賊とプレイヤーの動きに、焦りを感じるアルトリッテ。
「森の乙女さんの居場所、知ってる?」
しかしメイの目の前には、木々を駆けるリスの姿。
メイの問いかけに、リスはその小さな手でハッキリとその場所を指さした。
「ありがとうっ! 向こうだって!」
「これはまた、すさまじい能力だな……! さっそく向かおうではないか!」
パッと表情を明るくしたアルトリッテを先頭に、再び走り出す五人。
「……少し、雰囲気が変わってきた」
リスの指示通りに進んだ先で、自然と足が止まった。
これまでの喧騒が嘘のような静けさと、木々の隙間から入り込んでくる陽光。
そこには低木の枝に腰を下ろし、鳥たちとたわむれる女性の姿があった。
枝葉で作った冠を淡い金色の髪に乗せた姿は、見とれてしまうほどに神秘的だ。
「森の乙女だな!? 【エクスカリバー】について聞きに来たっ!」
森の乙女のもとに駆け寄ったアルトリッテは、さっそく問いかける。
「そのようなもの、ここにはありません」
「なっ!?」
すげない答えに、衝撃を受ける。
これまで得られた情報は全て、『ここに【エクスカリバー】はない』という内容だ。
「帰りなさい」
そう言って森の乙女は、美しい一本の剣を取り出した。
「この剣を与えましょう。世界にあるどの武器にも負けない力を持ち、貴方を特別な存在にしてくれます」
美しい装飾の施された美麗な剣は、見るからに『特別』といった雰囲気をまとっている。
その輝かしいオーラに、誰もが思わず息を飲む。
「いや」
しかしアルトリッテは、静かに首を振った。
「受け取れない。長らく【エクスカリバー】を探し続けてきた私の勘が、確かに近づいていると言っているのだ!」
「……もう【エクスカリバー】以外の剣は、たとえどれだけ強くともアルトの興味を引くことはできない」
引き下がらないアルトリッテたち。
すると森の乙女は、その表情を冷たいものに変えた。
先ほどまで美しいさえずりを響かせていた鳥たちが、慌てて飛び去っていく。
途端に走り出す、強烈な緊張感。
「どうやら、理解していただけないようですね」
森の乙女は静かに手を上げる。
すると天から降り注ぐ光の帯が雲を割り、程よく開いた木々の隙間を照らし出す。
一陣の強い風が通り抜け、突然ものすごい勢いで地面が割れた。
「わあ……っ!」
地面を突き破ようにして現れたのは、深紅のドラゴン。
その体躯は巨大で、大きな翼と長い尾を持つ。
「そろそろ、出てくるんじゃないかと思っていたわ」
「……ドラゴンの登場は、予想できていた」
自然と下がり、構えを取る魔導士二人。
その威容を前にしても、驚く様子は見られない。しかし。
「え、ええっ!?」
「まさか……これだけではないのか!?」
再び舞い降りる光と、揺れ出す地面。
もう一度天高く、土が跳ね上がる。
「ええええええ――――っ!?」
「なんだと……っ!?」
真紅の竜に並ぶようにして現れたのは、純白のドラゴン。
「……二体同時」
「これは……大変ですね」
一体でも十二分にボス級の風格を持つドラゴン。
紅白の巨竜二体が並ぶ姿は、もはや脅威でしかない。
「容赦など要りません。不遜なる者たちにはここで――――消えてもらいなさい」
森の乙女はそう冷たくつぶやくと、掲げた手をメイたちに向けて振り降ろした。
「「ギャオオオオオオオオ――――ッ!!」」
全身を震わせる強烈な咆哮に、アルトリッテが大きく息を吐く。
「必ず、道は続いているはずだ」
「……アルトが、めずらしく本気で緊張してる」
居並ぶ二体の巨竜という、間違いなく最高峰の難易度を誇る戦い。
「みんな……もう少しだけ力を貸してくれっ!」
そう叫んで【エクスブレード】を構えるアルトリッテ。
「もちろんですっ!」
「当然でしょう」
「最後まで、共に戦います」
メイたちも手にした武器を構えつつ、その言葉に応えてみせた。