軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

506.草原の乙女

「撤退だ! 撤退だァァァァ!!」

壊滅状態の海賊たちは、結局動物を奪うことなく逃げ出していった。

襲われていたユニコーンや金毛羊は、メイたちの周りをうれしそうに飛び跳ねると、いつもの日常へと戻っていく。

そんな中海賊に連れ回されていた白象は、ここに残されていく形になった。

白象はゆっくりやってくると、その長い鼻をメイに伸ばす。

「もしかして、一緒に来てくれるの……?」

まるで握手するかのように、鼻先に触れるメイ。

「えへへ、よろしくお願いしますっ!」

メイがブンッと元気に頭を下げると契約が成立し、召喚の指輪に新たな力が宿る。

「この子が仲間になるってことは、能力は強力な水砲弾と天候の変化って感じかしら」

「天気を雨に変える召喚獣なんて、初めて聞きます」

「……おそらく『星屑』内でも前例がない」

「それはすごいな……」

長い鼻につかまって遊んでいるメイを見ながら、感嘆の声を上げるアルトリッテ。

確かに召喚獣を呼んで天候を変えるという話など、聞いたこともない。

どうやらメイの新たな仲間、白象は少し変わった力を持つようだ。

「これはまた、意外な形で召喚獣が増えたわね」

「うんっ! アルトちゃんありがとう! この子、海賊船で見かけた時から気になってたんだ」

気持ちは急いでいるだろうに、救助を優先したアルトリッテにそう言って笑いかけるメイ。

「聖騎士として当然のことをしたまでだ! それでは進もう! 【エクスカリバー】はおそらくすぐそこだ!」

意外な形で仲間となった召喚獣を連れ、メイたちは再び道なき道を進む。

「……ここで悠々と歩ければ、本当にカッコいいのだけど」

そしてやっぱり早足になってしまっているアルトリッテに、クスクスと笑うマリーカなのだった。

「大きな展開が見つからねえなぁ……」

「島の雰囲気はすごいし、色々とクエストのきっかけらしきものは見えてるんだけどな」

「なんかこう、つながってる感じがないんだよな」

島にたどり着いたプレイヤーたちは、そんなことを話ながら足を進めていく。

そんな彼らを、白と淡いブルーの美しい鎧を身にまとった騎士NPCが見送った。

それからわずか。

駆け込んできたのは、一人の騎士少女だ。

「む! これは確かにあからさまだな!」

アルトリッテはさっそく、きらびやかさすら感じる騎士NPCに問いかける。

「この島にあるという伝説の剣、【エクスカリバー】を知らないか?」

「剣? 聞いたこともないな。この島には大そうな物なんて何もないよ」

「この島には、何もない……?」

困惑するアルトリッテ。

「貴方はここで何をしているの?」

「何もしていないよ。ここは何もない島なんだからさ」

レンの問いにそう答えた騎士は、岩に腰を下ろした。

「妖精たちの言ってた情報は、この騎士のことではなさそうね。先を急ぎましょう」

目につく騎士NPCだが、ヒントはなし。

五人は再び歩き出した。

「ぬはーっ! 先にたどり着いているプレイヤーがいるではないか!」

続く道を進んでいくと、そこにはピクシーの言うように、魔術師のような格好をした女性が切り株に腰を下ろし、本を読んでいた。

「あの姿はもしかして」

「前に見かけたスライムよね。面白い戦い方をする」

「やはり競争になっている可能性がありますね」

『情報をくれる』らしい女性のもとでは、10人ほどのプレイヤーが何やら話し込んでいる。

これにはさすがに焦るアルトリッテ。

慌てて駆けつけようとすると、魔法の光が広がりプレイヤーたちが一斉に消えた。

「なっ!?」

「……罠?」

「突然お墓にとって代わるというのは、不吉が過ぎますね……即死罠の類でなければいいのですが」

「なんだか、ドキドキしちゃうねぇ……」

10人ほどのプレイヤーが一瞬で消え、現れたのは十字架をモチーフにした西洋風の墓標。

その異様さに警戒しながら、5人は魔導士風の女性のもとへ。

「こんにちは!」

それでもメイは、元気に声をかける。

「私は草原の乙女」

するとその女性は、美しい声で語りかけてきた。

「貴方に問いたいことがあるのなら答えましょう。ただし、私の出す試練を乗り越えられればですが」

「占い師みたいな存在なのかしら」

「どうしたら素敵なお姉さんになれるのかでもいいのかな……」

「ゲーム内の情報だと思うわよ」

「はうっ……!」

思わず出た単純な願望にメイはちょっと恥ずかしくなり、レンは「ふふっ」と笑う。

「……どんな、問いにも」

その言葉に大きく反応したのは、意外にもマリーカだった。

「……小さくなるアイテムについての情報も聞ける?」

「もちろんです」

「マリーカ、私のことは気にするな」

「……これが罠の可能性は、十分ある」

「それでも、問うのだろう?」

アルトリッテが問うと、マリーカはこくりとうなずいた。

「……可能性が示された時点で、確かめないという選択肢を取ることはできない」

「よく分かるぞ。そして私はマリーカを応援する。約束だからな」

これまで共に『悲願』に向けて旅を続けてきたマリーカとアルトリッテは、うなずき合う。

「……申し訳ない。個人的な要望をたずねてもいい?」

真剣な顔でたずねるマリーカに、メイたちはただ素直にうなずく。

「わたしたちは助っ人ですからっ!」

「目標のためなら応援するわよ」

「もちろんです」

こだわりがあるとすれば『皆で楽しく』なメイたちは、マリーカの背中を押した。

「……ありがとう」

マリーカは覚悟を決めるように息をつく。

念のためメイたちは、程よい距離を置いた状態で武器を構える。

「……試練を受ける」

「承りました。では、制限時間以内に質問者である貴方が『ここから』抜け出してください」

そう言って、草原の乙女が手を掲げると――。

「ッ!?」

猛烈な勢いで広がる、木々の枝。

それは一瞬でドーム型の檻となり、マリーカを取り囲んだ。

「時間が過ぎれば、質問者はそのまま木々に呑まれることになるでしょう」

この濃密な木の檻を破って外に出ろというのが、ここでの試練のようだ。

どうやら単純な罠というわけではなさそうだが難易度は高く、そして『呑まれる』ということは死に戻りを意味する。

「【霊鳥乱舞】!」

マリーカはすぐさま範囲攻撃魔法を放つ。

絡み合う木々に穿った穴はしかし、即座に再生を始める。

「【ホーリーロール】!」

「【フレアバースト】!」

アルトリッテの回転斬り、レンの爆炎も後に続くが、どうやら外部からの攻撃には耐久性も高いようで穴はなかなか広がらない。

マリーカ一人が内部にいるというこの状況は、どうやら完全な失敗のようだ。

ここから1分で抜け出すというのは、かなり難しい。

「【霊鳥乱舞】! 【霊鳥乱舞】っ!」

檻の中では範囲魔法の集中や【分霊】の展開も難しく、効果的な攻撃が行えない。

「【霊鳥鳳火】! 【霊鳥鳳火】っ!!」

伸びる木々の手は、いよいよ目前まで迫る。

対してマリーカの持つ攻撃魔法は、有効とは言えない。

そして時間は、あっという間に過ぎ去ってしまう。

「……ごめん、アルト」

「おいっ! 何を言い出すんだ!?」

「【エクスカリバー】を手に入れて」

「マリーカ!」

「……アルトならできる」

マリーカは、手を下ろしてそうつぶやいた。

「くっ……ああ、必ずだ! 約束するっ! 【エクスカリバー】を手に、マリーカのもとに駆けつけるからな!」

それから、メイたちを見回して一言。

「……アルトをお願い。皆と一緒にここまで来られてよかった」

【エクスカリバー】へと至る道の途中、脱落する仲間。

マリーカは諦観を含んだ息を静かについて、薄くほほ笑んだ。しかし。

「皆さん! ここを開けてくださーい!」

突然メイが、バッと元気に手を上げた。

「よろしくおねがいしますっ!」

「「……えっ?」」

両手をパンと鳴らして「おねがいしますっ!」と、手を合わせると、木々が一斉に避けていく。

「ありがとうーっ!」

そこに生まれたのは、マリーカのもとへと真っすぐに続く一本道。

進むと難なく、木々の檻を抜け出すことができた。

「「…………」」

思わず、視線をそらし合うアルトリッテとマリーカ。

「……なんか、すごく恥ずかしい」

『私はここまで、後は頼んだ』からの、あっさりとした生還。

木々の檻から出てきたマリーカは、耳が赤くなっていた。

「もっとしっかり言っておけばよかったわね。実はメイ、植物ともすごく仲がいいのよ」

「仲良しですっ!」

「お二人も負けないくらい仲良しですね。とても良いものが見られました」

「うんうんっ!」

「「ッ!!」」

ツバメの一言に、いよいよ恥ずかしさで顔を真っ赤にするアルトリッテとマリーカ。

そんな二人の仲の良さを垣間見たメイは、うれしそうに大きくうなずいたのだった。