作品タイトル不明
498.再びの大航海
「よく取り返してくれた! 助かったぜ!」
依頼を持ってきた錬金術師は、ツバメが盗み出した【ドラコナイト】を歓喜の表情で受け取った。
「こいつがなきゃ研究が進められないからな。本当にメイド様々だ」
言いながら、錬金術師は一つのアイテムを取り出した。
【海鳴りの耳当て】:妖精が作った耳当て。悪しき雑音を遮断してくれる。
「アンタらもこの先の海域には困るはずだ。潮の流れでヤツらの方へ流されちまったら、ひとたまりもねえからな」
「せいれーん?」
メイといーちゃんが首を傾げる。
「セイレーンは海に住む手ごわい魔物だ。船でその海域を進もうとすると、歌声で邪魔して船を沈めちまうんだ」
「そういえば何かで見たことがあります。海にもまだいけない場所、進めない領域があるという話でしたが、この先がそうだということなのでしょうか」
「あり得るわね。仮に超高価な船を手に入れてここまで来ても、セイレーンによって進めないっていうのは十分考えられる。そうなれば当然、その先には大きな宝が隠されてると考えていいと思うわ」
どうやら7年間謎だった海域の一つを、進むことになるようだ。
「でも、歌声で船を沈めるってどうするのかしらね」
「……気になる」
「そんじゃオレは行くぜ。お前さんたちも、先へ行くなら気を付けるんだな」
そう言い残して、錬金術師の男は帰って行った。
「私たちも進みましょうか。多分この島は、このアイテムを手にすることが目的の島だと思うし」
レンの予想は正解だ。
未知の海域へ進むには、ここで【海鳴りの耳当て】を手に入れることが必須となっている。
「それにしても、めちゃくちゃなクエストだったな」
「本当だねぇ……お酒に酔うってあんな感じなんだね!」
「メイが壁を突き破って店の外に出ていったのには、笑っちゃったわ」
「……魔法もあさっての方向に飛んで行った」
「酔いの再現はすごかったです」
めずらしいクエストの感想を語りながら、船に戻っていくメイたち。
そのまま船を出し、三日月島を後にする。
「いよいよエクスカリバーが近づいてきそうだな!」
未踏の海域というワクワクに、アルトリッテは思わずそわそわしてしまう。
「アルトリッテさんが【エクスカリバー】に魅了されたのはいつだったのですか?」
「聞きたいかもっ!」
「うむ! あれはまだ私が10歳くらいの頃だな! 書店で偶然『星屑』の資料集を見かけたのだ。中には装備品のイラストが並んでいて、思わず夢中になってしまった」
「それ分かるわ! 武器とかの絵が並んでて、そこに攻撃力とか効果とかが並んでると何度でも読めちゃうのよね!」
装備品や設定も好きなレン、ものすごく深くうなずく。
「その通りだ! 世界観のイメージイラストなんかも最高だったぞ!」
「分かりますっ! 素敵な世界に憧れてわたしも始めたんだよ!」
メイも過去を思い出して、大きくうなずく。
「そして新しい情報も欲しくなって手を伸ばしたのが広報誌だ。そこで見かけた【エクスカリバー】がとにかくカッコよくてな……そのページは擦り切れるまで読み込んだぞ」
「遊んだことのないゲームの広報誌を見てワクワクする感じも、すごく分かるわ」
「いよいよ我慢できなくなってな。ついに『星屑』を始めるに至ったのだ。絶対にこの剣を手に、最高の聖騎士として世界を駆け回ると心に決めて!」
目を輝かせながら、笑うアルトリッテ。
「普段はドジも多いが、【エクスカリバー】と共に世界一の聖騎士になるぞ!」
そう言って宣言して「へへへ」と笑った後、しっかり何もないところで足を踏み外す。
「ぬはーっ!?」
「「いつものこと」」
「いつもではなーい!」
そんなアルトリッテを支えつつ、思わず声が重ねるレンとマリーカ。
「そう言えばマリーカはどうなの? 小さくなるアイテムのアテは何か見つかった?」
「……まだ。でも情報があれば、必ず取りに行く」
「マリーカは相変わらず高い運動能力を色んな部活に求められているのだが、ゲームが楽しいからと断り続けている感じだな!」
「……楽しい上に小さくなれる可能性もある。やらない理由がない。学校では集合写真を取る度に一人だけ大きいのが少し恥ずかしい。でもここでなら私も、小さなマリーカちゃんになれる」
「こうして私はマリーカと共に6年、『星屑』の世界を駆け抜けてきたのだ!」
「おおーっ! 今度こそ手に入るといいね!」
「うむ!」
「……なんとしても」
この話になれば、マリーカも負けじと目をたぎらせる。
「アヴァロニア到着が楽しみだねっ……ん?」
甲板で続く会話。
不意に振り返ったメイが、目を見開く。
「わあ! またたくさん船が来てるよ!」
「なんだ!? 宴会の海賊たちが攻めてきたのか!?」
「さっきの海賊たちの分隊って感じかしら……?」
そこにはズラリと居並ぶ海賊船団。
その規模はかなりのものだ。
「冒険者どもは新海域へ行くつもりか? ならば狙いは伝説の島と宝剣に違いねえ……追え! 追うんだっ!」
「「「おうっ!」」」
副船長が上げる声に、応える海賊たち。
だが、これだけでは終わらない。
「あれを見ろ! あの雰囲気は絶対何かあるぞ! 俺たちも続くんだ!」
三日月島にやって来たのは、プレイヤーたちを乗せた船の数々。
「メイちゃんたちだ! 噂は本当だったんだ!」
「あの五人の立ち姿、間違いないぽよ!」
「皆さんのおかげで、今回は迷わず来られました」
その中の一つには、掲示板組の姿もある。
どうやらエルダーブリテンの海賊たちの一斉移動を疑問に感じた者に加えて、その話を聞きつけた者たちも船を出してきたようだ。
海賊船団と、メイの後を追って来たプレイヤーたち。
入り乱れ状態で向かうは、未踏の新海域。
そこには海の歌姫たちが、獲物の到来を待ち受けている。