作品タイトル不明
497.それは思い出の品
「いいから黙って飲めって言ってんだよ――ッ!!」
アルトリッテが強引に勧められたビールを断ると、ついに海賊は酒瓶を手に襲い掛かってきた。
「うおおっ!?」
これをフラつく足で避けると、そのまま海賊はテーブルを巻き込み転倒。
「やりやがったな!」
それを見た付近の海賊たちも、一斉に立ち上がる。
だが武器を持った海賊たちの足元も、フラフラだ。
なぜかいーちゃんまでメイの肩で酔いつぶれて眠る中、始まる酔っ払い同士の戦い。
「これだけの泥酔状態なのですから、上手く盗めますように……【スティール】!」
【強奪のグローブ】を装備して放つスキルは、見事に失敗。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
始まる戦いの中、ツバメはもう寝ているエドワードの横に正座して【スティール】を連発し始めた。
「【スティール】成功までの時間を稼ぎましょう!」
「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」
駆け出すメイは、『酔い』で狂った方向感覚によって真っ直ぐあさっての方向へ。
「あれれれれーっ!?」
そのままバキバキとテーブルや海賊たちを弾き飛ばし、壁を突き破って店外へ出ていった。
「メイーっ!? ならば聖騎士たるこの私が相手だ! 【ペガサス】! 【ハードコンタクト】!」
「ぐああああーっ!?」
続くアルトリッテ、高速移動からのタックルで特に暴れてない海賊を弾き飛ばす。
「……聖騎士ラグビー」
「ラグビー部はもう卒業したのだーっ!」
「めちゃくちゃなことになってきたわね! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンは大雑把に狙いをつけて、連射で敵を狙う作戦に変更。
「……後に続く【霊鳥乱舞】」
そして見事に二人、店の天井を爆発させて大量の火花を巻き散らす。
「今だ! 【アックスヒット】! 喰らえぇぇぇぇ!!」
この隙を突いた海賊の攻撃は、床に突き刺さり――。
「【トマホークミサイル】!」
投げつけられた斧はキッチンの壁にめり込んだ。
「それーっ!」
そこに再び壁を突き破って戻ってきたメイは、テーブルをつかむ。
「【ゴリラアーム】!」
そしてそのまま回転しながら投じた一撃は見事、別の壁を突き破った。
「ふふふ、ちょっと笑っちゃうわね!」
「……めちゃくちゃだけど、これはさすがにおかしい」
「ぬはははは! こんなにひどい戦いはそうないぞ!」
大変だけど笑っちゃう三人に、メイも「てへへ」と笑う。
「おい! 外の連中も呼んで来い!」
「……でも、そろそろ急いだ方が良さそうね」
ここで状況が変わる。
海賊たちは、外で飲んでいた『酔い』の浅い仲間を呼び始めた。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」
「ツバメは……まだ無理そうね」
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」
もう無表情のまま、機械音声のようなスティール念仏を繰り返すツバメ。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」
「ツバメ! 【四つ葉のクローバー】でいきましょう!」
妖精たちからもらったアイテムは、時間限定だが使えば大きく【幸運】を上げるアイテムだ。
間違いなく、【スティール】の成功率を大きく上げてくれる。
「ッ! 分かっているのですが……その」
しかしツバメは躊躇する。
「もったいなくて……っ」
「めちゃくちゃ分かるわ! でも、そういうアイテムは結局いつまでも残しちゃうことになるから!」
「はい。ただ今回は……その、皆で挑んだメイドクエストの…………記念なので」
当然、アイテムは使えばなくなる。
5人一緒にメイドをした思い出の品として、できればこの可愛らしいアイテムを残しておきたい。
だがこのままでは、新たな無傷の海賊たちが一斉に飛び込んでくる。
そうなれば場がめちゃくちゃに荒れることは必定だ。
ツバメ、頭を抱えて本気で悩む。
「【スティール】【スティール】【スティール】っ! どうにか、どうにか盗んでくださいっ……っ!」
「【ラビットジャンプ】!」
焦るツバメ。
そこに飛び込んできたのは、メイだった。
「うわっととととっ!」
しかしすでに足フラフラのメイは止まり切れず、そのままツバメに抱き着いた。
「メイさん?」
「大丈夫だよ! ツバメちゃんっ!」
そう言って、ツバメに笑いかける。
「これからもいっぱい、色んなアイテムが手に入るよ! みんな一緒に、たくさん冒険するんだから!」
「メイさん……」
「でも、もちろん残しておいても大丈夫だよ! 時間なら、わたしがいくらでも稼ぎますっ!」
「っ! ありがとうございますっ!」
向けられた満面の笑み。
静かに立ち上がったツバメは、覚悟を決めたようにエドワードに手を伸ばす。
手にした【四つ葉のクローバー】が、輝きと共に消える。
「いきます! 【スティール】!」
満面の笑みに押されて放つスキルが、エフェクトを輝かせた。
「やったあ!」
ここでまさかの、一発成功。
「メイさん、ありがとうございました。あとはこの状況を収めるだけですね」
ツバメはエドワードのオーダーを中心に行い、他のプレイヤーやNPCよりも『酔い』が浅い。
「ここは私に任せてください」
店になだれ込んでくる大量の海賊たちを前に、そう言って笑い返した。
「【加速】【リブースト】! 失礼しますっ!」
迫る海賊の攻撃。
レンを後ろから引っ張る形で回避させると、そのまま後ろから抱き着いて杖の向きを合わせる。
「今です! お願いしますっ!」
「この戦い方は久しぶりだわ! 【フレアバースト】!」
「「「うわああああああ――――っ!!」」」
「もう一回、お願いしますっ!」
「【フリーズブラスト】!」
「「「うぎゃあああああ――――っ!!」」」
海賊たちをまとめて吹き飛ばす。
それからすぐに視線をめぐらすと、マリーカのもとにも駆け寄る海賊たちの姿。
「【加速】【リブースト】!」
再び高速移動で駆けつける。
小さな身体のツバメ。
背伸びをする形でマリーカの腕を取り、社交ダンスのような姿勢を取った。
「お願いしますっ!」
「……任せて【霊鳥乱舞】!」
「「「うおおおおおお――――ッ!!」」」
放たれた無数の光鳥が、駆け込んできた海賊たちを弾き飛ばす。
「【加速】」
ツバメは見逃さない。
新たに駆け込んできた海賊たちの中にいた、マントの男。
少し特別な装備品は中ボス、分隊長の証だ。
さらにその背後には、新たに迫る海賊たちの姿も見える。
ここで時間を取れば、次々に後続が攻め込んできてしまうだろう。
「【分身】」
ツバメが二人に分かれる。
「【スプラッシュ・アックス】!」
分隊長が放つのは、戦斧による豪快な水属性攻撃。
しかし必殺の一撃は、分身を吹き飛ばしただけで終わる。
「【雷光閃火】!」
生まれた隙を突いた高速の一撃が爆発を巻き起こし、飛んだ先には構える聖騎士の姿。
「アルトリッテさん、お願いします!」
「任せるがいいっ! 【ホーリーロール】!」
その場で回転するだけなら問題なし。
続く連携で、中ボスの分隊長を打倒した。
「メイさんっ!」
「はいっ!」
そして再び駆け寄ったメイの手に、手を重ねる。
「手間をかけてしまいましたが……このクエストもすごく楽しかったです」
「うんっ!」
「これからも一緒に色んな冒険をしましょう」
「もちろんだよっ!」
うなずき合うメイとツバメ。
「いきます!」
「「必殺の――!」」
メイとツバメは二人がかりで剣を掲げ、駆け込んでくる海賊たちに狙いつける。
「「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」」
放つは、激しい衝撃波の一撃。
「「「う、うおおおおおお――――ッ!!」」
容赦ない威力を誇るそのスキルは、駆け込んできていた海賊たちをまとめて吹き飛ばした。
「メイさん……ありがとうございました」
見事に盗み出した【ドラコナイト】を手に、笑うツバメ。
「やったね! ツバメちゃんっ!」
二人はフラつきで三回ほどハイタッチに失敗した後、笑いながら抱き合った。
「ツバメー! 見事だったぞ!」
「……ナイス」
「文句なしね」
「おおっ! 【ドラコナイト】を奪い返してくれたんだな!」
「良かった、皆無事だったか!」
そこにやって来たのは、依頼者の錬金術師と店長。
「この状況で私たちの心配をしてくれるって、店長の心広すぎじゃない?」
「……原状復帰があるとはいえ、申し訳ない」
「うーむ。酔った勢いで店を半壊とは……聖騎士にあるまじき行為だ……」
穴の開きまくった壁、落ちかけの屋根。
テーブルの8割が砕け、海賊のほとんどが倒れ伏す状況だが、店長はニヤリと笑う。
「なぁに、泥酔した海賊たちからしっかりと『費用』は頂いてるからな」
「抜け目ないわねぇ」
海賊の集う街に住む店長。
荒れた状況でもしっかりもらうものはもらっているという抜け目のなさに、感嘆してしまうレンたちなのだった。