作品タイトル不明
495.海賊と商人の島
「わあ……なんだかすごい島だねぇ」
青く美しい海に浮かぶ三日月形の島。
そこには多くの船が係留され、またたくさんの商船が行き来している。
積荷の乗せ換えや商品の売買のため、忙しそうに駆け回る商人たち。
その間で騒がしくしているのは海賊たちだ。
「こいつカード強すぎだろ!」
「へっへっへ、悪いねぇ!」
賭け事に熱くなる者たちもいれば、楽しそうに音楽を奏でる一団もいる。
「賑やかだな!」
並んだレストラン。
樽ジョッキを手に盛り上がっている海賊たちを、アルトリッテは興味深そうに見渡す。
「またずいぶんと特殊なマップねぇ」
「……海上の交易港なんて、初めて見た」
他の街では見られない光景に、観光客のように視線を巡らせるメイたち。
「おい! エドワード一味が戻ってきたぞ!」
そんな中、突然あがった叫び声。
三日月の内側を仕切っている水夫たちが、大きな声を上げ始めた。
「エドワードだと!? 思ったより早かったな!」
「これは忙しくなるぞ……! ありったけの酒と食料を用意しろ! 手の空いてる店員たちも総動員だ!」
「特に酒は絶対に切らすなよ! あるだけ全部かき集めてこい!」
途端にこれまでとは違う、どこか切羽詰まった騒がしさが島にあふれ出す。
「どうしたのかな?」
さっそくメイが、つま先立ちで視線を内湾へと向ける。
「わあ! 海賊船がいっぱいだぁ!」
見えたのは、三日月島へと乗り付けてくる大型海賊船の一団。
メイたちがボス級として戦ったサイズの海賊船が二隻。
さらにその背後にもう一回り大きな海賊船が続き、付近には列をなすように中型船が並ぶ。
「これはまたとんでもない規模ですね」
「……何が始まるのか」
ツバメとマリーカがつぶやくと、船長らしき男が船着き場に飛び降りてきた。
「さあ野郎ども! 酒の時間だァァァァ!!」
「「「ウォォォォォォ――――ッ!!」」」
「商人ども、ありったけを持って来い!」
そう叫んで船長は、両手につかんだ金貨や宝石をバラまいてみせた。
すると海賊船から無数の海賊たちが駆け降りてきて、そのまま島の各所にあるレストランになだれ込んでいく。
あっという間に始まる大宴会。
「「「カンパァァァァ――イ!!」」」
荒々しい海賊たちの掛け声が響き渡り、歌声も上がり出す。
元々賑やかな雰囲気だった島は、一気に騒がしくなる。
レストランの店員たちも、大忙しで駆け回り出した。
「すごーい……」
これにはメイも圧倒されてしまう。
せっかくだからと、最大手のレストランの様子を見に行くメイたち。
無数に並んだ木製の円形テーブルにイス。
レストラン中央の席で、すでにビールを流し込んでいる大柄な黒髪の男が船長のエドワードだ。
「あれ? あの人はどうしたのかな?」
しかしメイの視線はエドワードではなく、店の窓からエドワードを見つめる一人の男に向けられていた。
「ちくしょう……一体どうすればいいんだ」
「どうしたんですかー?」
メイが声をかけると、ローブ姿の男は事情を話し出した。
「俺は錬金術師をやっているんだが、魔法の力を持つ宝石【ドラコナイト】をあの船長に取られちまったんだ……竜の頭から取れるあの宝石は貴重でな。そうそう簡単に手に入る物じゃない……そうだ!」
どうやら島の錬金術師らしきその男は、大きく手を叩いた。
「【ドラコナイト】の奪還を手伝ってくれないか? 俺は警戒されちまっているだろうけど、お前さんたちなら隙を突くことも可能だろう。成功したら……そうだ! 報酬には開発したばかりのセイレーン対策アイテムを出そう」
「受けておきましょうか。セイレーン対策……予想が当たればこの後必要になってくるはずだわ」
「りょうかいですっ!」
「問題はどうやって、エドワードの隙を突くかなんだが……」
悩むようにする、錬金術師の男。
「おいどうした! ビールはまだか!」
「ああ忙しい忙しい!」
そんなメイたちの前を駆けていくのは、レストランの店長だ。
「そうだ!」
錬金術師は手を叩く。
「なあアンタ、今日はずいぶんと忙しいんじゃないか?」
「当然だろ。海賊たちは待たせすぎると暴れだすからな! 猫の手も借りたいところだよ!」
「それなら、この子たちに手伝ってもらうってのはどうだ?」
「なるほど、そうくるのね」
「方向性が見えてきましたね」
錬金術師の言葉に、店長が不意に目を留めた。
「君たち良いものを持ってるな! その給仕服なら、店に立っても問題なしだ!」
「出たわ。NPC特有のプレイヤーの『持ち物』をのぞき見できるシステム」
「うむ! 今度は忙しない給仕になりそうだな!」
こうしてメイたちは再び、グレイシア家のメイド服に着替える。
「ああそうそう、海賊たちは『酒を飲んでいけ』って勧めてくるだろうけど、飲み過ぎたりしないよう気を付けてくれ……って言っても、断ると機嫌を悪くする海賊もいるから難しいところなんだけどな」
「なるほど、ただ給仕だけすればいいってわけじゃなさそうね」
「……ビールの扱いが、カギになりそう」
どうやらこのクエスト、これまでの給仕系クエストとは少し雰囲気が違っているようだ。