作品タイトル不明
486.メイド・スパイミッション
【四つ葉のクローバー】:一時的に【幸運】を大きく上昇する
「いいアイテムをもらったわね」
「おおーっ! 可愛いアイテムだねっ!」
妖精たちとのクエストを成功させたメイたちは、控室に戻ってきた。
するとそこに、タイミングよくメイド長がやって来た。
「よくぞ、グレイシア家のお茶会を成功に導いてくれました」
そう言ってメイド長は、目を鋭くする。
「その高い任務遂行力と戦闘技術を見込んで、貴方たちには特別な仕事を受けていただきたいと思います」
「間違いない、ミッションだわ」
「先ほど暴れたあの男は、犯罪もいとわぬ商売で貴族の立場を買った危険な商人です」
ガラの悪い仲間を引きつれていた男は、どうやらなかなかの曲者のようだ。
「このような人物が見逃されているのは、王家の宝の一つである『王錫の宝玉』をあの男が手に入れたから。人質状態になっている宝玉さえ回収できれば、王家もあの男を容赦なく取り潰しにいくでしょう」
「『王錫の宝玉』を奪ってくればいいのね」
「その通りです。場所は波止場にある大型倉庫。守りはとても強固です」
「ここでスパイアクションのような要素が入ってくるのですね」
「む! これは聖騎士として腕が鳴るぞ!」
ここまでの家事仕事とは変わって、荒事の気配。
アルトリッテは早くも気合十分だ。
「引き受けていただけますか?」
「もちろんだっ!」
「……構わない」
「やりましょう」
「受けるわ」
「おまかせくださいっ!」
「ありがとうございます。それではこちらが波止場の地図になります」
地図を受け取った五人が表に出ると、街はすでに夜。
「……これ、メイド服のままいくの?」
「そう考えると少し不思議な感じですね」
どうやら夜を駆ける隠密メイドとして、ミッションを達成しろという事のようだ。
五人は街に入ったところで、移動を屋根へと切り替える。
「潜入衣装がメイド服というのは新鮮だな! 【ペガサス】!」
アルトリッテは【天馬靴】から生える光の翼で、楽々屋根の上へと登った。
ここで問題になるのは、マリーカの移動力のなさ。
「それでは失礼いたしますっ」
「……?」
メイはそう言ってニコッと笑うと、首を傾げるマリーカをそのまま担ぎ上げた。
「ッ!?」
「それでは行きましょうっ! 【ラビットジャンプ】!」
こうなれば移動は速いもの。
メイド隊は屋根の上を、軽々と渡っていく。
「どうしたのー?」
縮こまっているマリーカに、メイが問いかける。
「……は、恥ずかしい」
自分よりもかなり小さなメイに抱えられて、マリーカは頬を赤くしている。
「むはははは! これはめずらしい光景だな!」
メイに抱えられて小さくなっているマリーカの小さな声に、笑うアルトリッテ。
「目標は、あれね」
屋根を駆ければ、目的地まであっという間だ。
たどり着いたレンガ造りの倉庫は、なかなかの異様を呈している。
無数に描かれたマンホール大の魔法陣が鈍い光を灯しているのは、罠だろう。
「到着しましたーっ」
五人が降り立ったのは、木製コンテナが並ぶ倉庫の端。
「……あ、ありがとうっ」
マリーカは顔を赤くしたまま、そそくさと最後尾に下がる。
「見張りは四人ほど確認。魔法陣の罠に気を付けつつ、魔法石ロックのドアを開ければ侵入成功って感じかしら」
「厳重ですね」
「ミッションだし楽にはいかないかもね。大きな音や閃光を出すスキルは控えて、敵に見つかっても周りに知らされる前に倒すことが重要だわ」
五人のメイドがうなずき合い、ミッションを開始する。
単体で見張りをしている用心棒に、狙いを付けたのはマリーカ。
「……【霊鳥】」
放つのは、一羽の魔力鳥。
「ぐっ!」
この魔法の良いところは、喰らっても『吹き飛ばない』ところだ。
用心棒はその場に倒れ伏し、周りの見張りが異変に気づく様子はない。
「さすが『不動のマリーカ』、やるわね」
この隙にレンは、コンテナに背を預けている見張りの背後に回る。
「【浮遊】」
二段積みのコンテナの上に上がり、念のため付近をもう一度確認。
そのままコンテナから飛び降りた。
「【魔力剣】」
影の動きに気づいた時には、もう遅い。
「ぐふっ」
見事な斬り下ろしで、見張りの男を一撃のもとにくだしてみせた。
これで残りは二人。
高速かつ自在の移動を誇る、アサシンメイドが動き出す。
「【加速】【跳躍】」
魔法陣を避けながら時間をかけて進むのでは、見張りに見つかってしまう。
ツバメは罠の直前までの助走から、大きなジャンプで襲い掛かる。
「【エアリアル】【投擲】」
二段ジャンプから【雷ブレード】を投擲して硬直を奪う。
「イチかバチかではありますが【加速】【リブースト】!」
着地と同時に走り出し、トドメを差しにいく。
見張りの男との間には、魔法陣罠が三つ。
ツバメは直線最速移動で、あえて陣を踏み抜く形で駆けていく。
起動する魔法陣から、次々に吹き上がる魔力光。
しかしツバメの最速を捉えることはできず、ダメージを与えるどころか体勢を崩すことすらできない。
「【アサシンピアス】」
見事そのまま、三人目の見張りを打倒。
【加速】では不可能でも、【加速】【リブースト】による最高速であれば、罠を駆け抜けることも可能のようだ。
「【装備変更】【投石】っ!」
そしてツバメの動きに気づいて釣り出された四人目の見張りには、【狐火】によって青く燃える石が直撃。
一撃で沈黙することになった。
「お見事です」
「やったぁ」と拳を上げるメイに、ツバメは小さく拍手。
「【罠解除】」
そのまま魔法石ロックの解除を開始する。
メイとイタチのコンビは、その姿をのぞきに向かい――。
「「ッ!?」」
気づいて、同時に視線を向ける。
どうやら外回りに行っていた見張りが一人、残っていたようだ。
「キサマら、一体どこのメイドだ!」
秋葉原でもめったに聞かないであろうセリフと共に、五人目の見張りは『異変アリ』を知らせる鐘を取る。
予想外の展開に、走り出す緊張。
「ここはまかせろー!」
そこに駆け込んできたのは、聖騎士アルトリッテ。
「このアルトリッテ、戦闘となれば後れは取らぬぞ! 【ペガサス】!」
疾走からの大きな跳躍で、一気に敵のもとへ。
「ゆくぞ! 必殺【ホーリーロール】!」
聖なる黄金の大剣【エクスブレード】で、そのまま一回転。
五人目の見張りを難なく打倒してみせた。
「ないすーっ!」
アルトリッテの見事な仕事に、メイは再び拳を突き上げる。
「むはははは! 私に任せればこの程度の敵は……ひやあっ!」
うっかり踏んだ魔法陣。
猛スピードで飛んで来た魔法の矢がアルトリッテの髪をかすめ、木製コンテナに突き刺さった。
「……いつものこと」
「い、いつもではない! ぬはーっ!?」
マリーカにそう言い返すのと同時に踏み出した足が新たな魔法陣を踏み、目前に炎の柱が吹き上がる。
「…………」
二連発の驚きに、さすがに唖然とするアルトリッテ。
どうやら見張りがいなくなっていれば、多少前髪が燃えても見逃してもらえるようだ。