軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

485.メイドさんの休憩時間

「休憩時間ってなると逆に怖いわね」

料理と紅茶のレシピが日誌に書かれていたことを思い出しながら、つぶやくレン。

見事グレイシア家のお茶会を成功させたメイたちは、庭へ足を延ばした。

「メイ! またイタチちゃんが見たいぞ!」

「はいっ! いーちゃん!」

ポン! と、煙と共に現れるいーちゃん。

しゅたっ! とメイの肩に参上。

「魔導士でもなかなか捕まえられないのに、こんな可愛い子を使い魔にできるなんて最高だな!」

「……これはうらやましい」

さっそくいーちゃんを手に乗せて、目を輝かせるアルトリッテ。

マリーカも興味津々だ。

「おや?」

そんな中、不意にいーちゃんが何かに気づいたように視線を裏庭に向けた。

「なんだ? どうしたのだ?」

「いってみようよ!」

アルトリッテの手を降り駆け出したいーちゃんは、そのままダッシュで花壇に飛び込んだ。

「どうしたの、いーちゃん?」

メイがたずねると、いーちゃんはつかんだ何かを花壇から引きずり出した。

「これは……」

ツバメが息を飲む。

引きずり出されたのは白いシルクのドレスを着た、小さな女性。

すると彼女を取り戻そうと、とんがり帽子に長いひげの男と、緑ジャケットにハットを乗せた男が飛び出してきた。

しかしいーちゃんは離さない。

始まる三人と一匹の壮絶な引っ張り合い。

「シルキー、ブラウニー、レプラホーン。妖精さんたちですね」

三人と一匹は、ツバメの言葉に気づいて動きを止めた。

「おおーっ、みんな小さくて可愛いな!」

「……さすが名家。これはワクワクする展開」

「見つかってしまいました……このままでは植木職人さんを助けられません」

「植木職人さんがどうしたの?」

メイがたずねると、シルキーは語り出した。

「私たちはこの家に住む妖精です。軒下に住ませてもらっているお礼に、家事をこっそりと手伝っています。植木職人さんはそんな私たちに気づかないフリをしながら、仕事道具を調達してくれたりするのです」

「いい話ですね」

「ですが最近の重労働のせいか、疲れて眠ってしまっているようなのです。このままではお嬢さまとの約束である、あの木を可愛くカットするという約束を反故にすることになってしまいます。そんなことになったらお嬢様は怒り、植木職人さんはクビにされてしまいます。今度は私たちが彼を助ける番……なのですが」

「植木のカットは、さすがにワシらには難しい……」

ブラウニーはそうつぶやいて、ため息をついた。

「そういうことなら、おまかせくださいっ!」

メイはそう言って胸を叩く。

「む、メイは植木のカットなんてできるのか?」

「一応私たち、このタイプのクエストに覚えがあるのよ」

「ロボットさんは元気でしょうか」

屋敷の側部に並ぶ木々。

どうやらその最奥の一本を、お嬢様が喜ぶようにカットするというクエストのようだ。

「時間制限はあるの?」

「ありません」

「それなら、のんびりできそうですね」

シルキーが枝で地面に描いた『理想の植木のパターン』は、ギザギザ、アルファベット、そしてクマ。

「クマにしますっ!」

それは難易度の高い選択だが、メイは迷わず即決。

「細かく作るのなら、小さな刃物が欲しいところだな」

「じゃじゃーんっ!」

メイが取り出したのは、遺跡都市で手に入れたハサミ。

さっそくこれでザクザクと、大まかな形を作っていく。

「ここはもう少し刈っても良さそうです」

「はーい」

シルキーの指示に合わせてハサミを入れる。

メイの【技量】なら、細かい部分も補正を受けた状態で刈ることができる。

「……メイは器用。【技量】も高そう」

「人並み以上にはあるわね」

脚立を運びながら、枝葉を刈っていくメイ。

レンとマリーカは、落ちてくる葉っぱや枝を、ブラウニーやレプラホーンと一緒にホウキで片付ける。

尻尾の仕上げは、ツバメの担当だ。

「尻尾の造形に、命を賭けるつもりでいきます」

二つのダガーを使い、テディベアのような丸い尻尾を作成していく。

「メイー、がんばれーっ!」

一方のアルトリッテは、メイの応援。

手伝いではなく、声援役だ。

「やはり私が【エクスブレード】を持ち出したら、木に叩き込んでしまいそうだ」

「そう言えば、本棚を叩き込んだ貴族はどうなったの?」

「……ロビーをゴロゴロ転がって、元の位置に戻ってきてから『危ないじゃないか』と声を上げた」

「ふふふ、戻ってくるまで真顔なんでしょ?」

「時々見るやつですね」

メイに吹き飛ばされたNPCが、律儀に立ち位置に戻ってからセリフを言う時の光景を思い出して、笑うレンとツバメ。

「結構いい感じになってきてるわね」

「うむ! やはりメイに任せて正解だな!」

「ごーごー!」と拳を上げて応援するアルトリッテに、「おまかせくださーいっ!」と手を振って応えるメイ。

ブラウニーとレプラホーンは、レンやマリーカが集めた枝や葉っぱを集めて運搬。

穏やかな晴天の下、流れるのんびりとした時間。

五人のメイドが妖精と一緒に植木の手入れをする姿は、なんともほほ笑ましい。

「この時点でもう可愛いです」

「またツバメも、本気で尻尾の丸みにこだわったのね……」

「もちろんです。可愛さに丸みは重要な要素。そしてひっそりと日々を生きる妖精さんたちの姿勢にも、深く共感できるので」

「おおーっ! すっごく可愛くなりそうだねっ!」

メイに満面の笑みでそう言われて、「は、はひ」とちょっと挙動不審になるツバメ。

そんな姿にまた、レンは笑うのだった。

「あっツバメちゃん、あれお願いしますっ!」

「はいっ! 【跳躍】!」

最後は鼻先に飛び出した枝葉を、ツバメが切り落として終わり。

植木のクマは、無事に完成を迎えた。

「おおーっ! いいではないか!」

「……これは素直にすごい」

突然庭に現れたクマ型の木を、いーちゃんも興味深そうに見上げている。

「後はお嬢様が来るのを待つだけかしら」

「そうだ! ちょっと待ってて! 【バンビステップ】!」

植木のカットは無事に終了した。

しかしメイはそう言い残して、バラ園へと走っていく。

「あった!」

そして、落ちた白バラを三つほど発見。

「【ラビットジャンプ】!」

まだきれいな白バラを手に戻ってきたメイは、そのままクマの頭に飾り付けた。

「できたー!」

「あの子へのプレゼントとしては完璧ね」

「ナイスアイデアだー!」

思わず拍手のアルトリッテ。

「あっ、足音がするよ!」

聞こえてきた慌ただしい足音に、五人と妖精たちは身を寄せ合うようにして付近の木陰に身を隠す。

「さあ、約束のプレゼントを見せてもらうわよ!」

「あ、あの、それが……っ」

すると少しして、お嬢さまに連れられた植木職人がやって来た。

「言っておくけど、半端なものじゃ許さないんだから――――なに、これ……」

お嬢さまの声の変わり方に、顔を青くしていた植木職人がそっと視線を上げる。

そして、驚愕。

「やるじゃない! こんなにすごいプレゼントを用意するなんて! 特に頭の白バラが最高だわ! さっそくお父様に報告してくるっ!」

目を輝かせながら、駆け出していくお嬢様。

どうやらこのクエスト、白バラを添える選択は『追加点』になっていたようだ。

一方身に覚えのない植木職人は、不思議そうに首を傾げる。

「おおーっ! やったな!」

「よかったー!」

「良い仕事になりました」

「……これは良いクエスト」

「最高の時間になったわね」

グレイシア家に住む妖精たちが慕う、植木職人。

「良かったです」

シルキーがうれしそうに息をつく。

「メイドだってのに、庭いじりもできるとは大したもんだ」

ブラウニーとレプラホーンも、深くうなずく。

良くできたクマ型の植木に触れながら、ひたすらに首を傾げる植木職人。

その姿を木陰からそっと見守りながら、メイたちは妖精と一緒に笑うのだった。