作品タイトル不明
483.お茶会が始まります!
「……どうやら思った以上の能力をお持ちの様ですね。いいでしょう。貴方たちには、グレイシア家主催のお茶会にて給仕をしていただきます!」
メイたちの働きぶりを評価して、メイド長は新たな仕事を提案してきた。
「多くの貴族の方々が集まります。皆さまの要求に、グレイシア家のメイドとして優雅に応えてください」
「ここが一つの集大成になるクエストって感じかしら」
ホールにはすでに多くのテーブルが並び、数多くの貴族たちが談笑をかわしている。
卓を囲んでいる者もいれば、立ち話をしている集団もあり、お茶会の名にふさわしい賑やかさだ。
「お客様のオーダーに合わせて紅茶を出したり、料理を作って出すような仕事もあります。ですが不用意に走り回ったりするようなことはやめてください。片付けも速やかに。空の容器が置きっぱなしなのでは、優雅ではありません」
動きや片付けの速度、オーダー対応の速さなどが求められるこのクエスト。
優雅ポイントは、ここでも採用されるようだ。
メイたちが会場に入ると、さっそく貴族NPCに声をかけられる。
「ああ君、ストレートティーを一つ」
「はいっ、少々お待ちくださいっ」
「そこの貴方、ミルクティーを一杯」
「はいっ」
「ああ、この子にマカロンを持ってきていただける?」
「ピンクのがいいー!」
「は、はいっ! 少々お待ちくださいっ!」
ブンッと頭を下げると、代わりにピンと伸びた尻尾が見える。
メイは空になった軽食のトレーを抱え、尻尾にポットを引っ掛けて、早足でキッチンへ向かう。
突然出てきた貴族も、くるっと華麗な回転で回避。
忙しくても、変わらぬ回避力はさすがの一言だ。
そしてこのクエストは、使い魔も参加可能。
いーちゃんも、重ねたカップを両手で持ち上げてメイの後を追う。
「かわいいです……っ」
「おおっ! なんだか頼もしいな!」
「ふふ、尻尾にポットを引っ掛けて走るのはセーフなのね」
忙しい中でも、メイの自由さにクスクス笑うレン。
この運び方はさすがに運営側も想定外だったようで、特にマイナスもなしだ。
「マリーカちゃん! ストレートティーとミルクティーをお願いしますっ! あと……あれ? なんだっけ?」
急な忙しさに、うっかり記憶が飛ぶ。
まさにこのクエストの難しさになっている要素に、首と尻尾を傾げて悩むメイ。
「……料理? それともお菓子?」
「お菓子! ピンクのマカロンをお願いします!」
「……了解した」
料理と紅茶の準備には、いち早くマリーカが付いていた。
あの人の多さではぶつかって貴族を弾き飛ばすと踏んで、速い判断で持ち場を決めた形だ。
「ツバメのオーダーは私が準備しておくから、空き容器の回収をお願い」
「はいっ」
そしてキッチン前で合流したレンとツバメは、二人分のオーダーをレンが引き受け準備を開始。
動きが軽快なツバメを、再び会場へと戻す。
そして人の往来が少ない道を見つけるのが得意なツバメは、貴族たちの動線を外した立ち回りでサクサクと会場を回っていく。
「ストレートティー、お待たせいたしましたっ」
メイはカップを用意して、上手に紅茶を注ぐ。
続いてミルクティーの提供も済ませると、マカロンの小皿を手に取るが――。
なんと頼んだ本人が居場所を変えているという意地悪ぶり。
「見つけたっ」
しかしメイの目には、離れたところにいる子供も良く見える。
「マカロンお待たせいたしましたーっ」
「わあ! ピンクだーっ!」
難なくマカロンの提供も成功し、思わず肩のいーちゃんとハイタッチ。
「――――わたくし魔法が得意なの」
そのメイたちから、離れることわずか。
グレイシア家のお嬢様は、貴族たちを前に自信ありげに短杖を振り回してみせる。
「これは頼もしい、グレイシア家は将来安泰ですな」
「ちょっとそこのメイド。多少は動けるみたいだし、わたくしの相手をしなさい!」
「なにっ!?」
予想外の展開に、驚くアルトリッテ。
気づいていないが、ここはお茶会の成否を分けるそれなりに大きなポイントになっている。
「ふむ! この聖騎士アルトリッテ、お相手差し上げよう!」
アルトリッテは、前のクエストで邪魔をしてきたお嬢様の宣戦布告に気合を入れる。
「……あれってもしかして」
料理と紅茶の準備を終えて会場の様子を見にきたレンが、その状況を見て気づく。
そして慌ててアルトリッテに向けて手を振ると、ブンブンと首を振ってみせた。
「いくわっ! 【ウォーターバレット】!」
「くっ!」
しかし戦いは止まらない。
庭先に出るや否や攻撃を仕掛けてきたお嬢様が放つ、水の弾丸。
これをアルトリッテは、サイドステップで回避する。
「【ウォーターバレット】!」
「当たるものかっ!」
続く弾丸を斜め前方への移動で回避したアルトリッテは、お嬢さまのもとに踏み込み大きな振りの攻撃を放つ。
「聖騎士パーンチ!」
「【ウォーターバレット】!」
「ぬああっ!」
しかし直前で放たれた水弾に撃たれて後退、ここで移動スキルを発動する。
「【ペガサス】!」
大きく跳び上がる。
するとお嬢さまは空中のアルトリッテに向けて、短杖を向けた。
「【ウィンドストーム】!」
「うわああああーっ!」
風の一撃を喰らったアルトリッテは、庭をゴロゴロと転がる。
そこから一度、フラフラと立ち上がるも――。
「……ぐふうっ!」
そのまま倒れ伏した。
「おお、さすがグレイシア家の娘さんだ!」
「これは見事!」
「当然ですわっ!」
アルトリッテ、大げさ。
別に必要のない演出だが、『負けた』こと自体は大正解。
貴族たちは調子に乗るお嬢様をワイワイと褒め称え、お茶会はさらに盛り上がる。
そんな貴族たちを見たメイド長は大きく一度うなずいて、職務に戻っていった。
「レンーっ! 助かったぞ!」
一仕事終えたアルトリッテが、さっそく駆けてきてレンに飛びつく。
「うまくやったわね」
「レンさんよく気づきましたね。負けるのが正解のクエストですか」
通りがかりのツバメがつぶやいた。
「負けて失敗になるタイプのクエストではなさそうだなって思ったら、何か意図があるんだろうと思ったのよ」
どうやら前のクエストが『お嬢さまに邪魔される』という内容だったのも、その時にイラついているほど、ここでお嬢様に『華を持たせられないだろう』という意地悪な狙いがあったようだ。
「レンは本当にメイドリーダーみたいだな!」
「はい、頼りになります」
「でもこういうクエストが出てきたってことは、おそらくこの後山場が控えてるわ。気合を入れていきましょう」
「はい!」
「おーっ!」
見事な手際でお茶会を進行していく五人。
レンは軽やかにスカートをひるがえすと、銀のトレー片手に貴族たちの中へと飛び込んでいった。