作品タイトル不明
481.メイド仕事とお嬢様
「どうやら炊事の手腕も悪くないようです。ここからはいくつかの仕事をまとめて提示いたしますので、時間内に全て片付けてください」
料理からの給仕という流れのクエストを、完璧といえる水準でクリアしたメイたち。
メイド長が新たに指定してきた仕事は『洗濯物の取り込み』『ホールのモップ掛け』『愛犬の散歩』の三つだ。
「ここからは初めての仕事だぞ!」
「そうなのですか?」
「……前回は本棚で貴族を叩いて、雇い主を生焼け肉で食あたりにしたところでクビになった」
「本棚で貴族を叩いた時点でもう事件なんだけど、その時点では我慢してもらえたのね」
仕事二つでグレイシア家をめちゃくちゃにしたメイド二人に、レンはクスクスと笑う。
「洗濯物は裏庭に干してありますのであちらへ。廊下のモップ掛けは控室で道具を取ってきてください。愛犬の散歩はこちらへ……ラブリちゃん!」
「わあ、ラブリちゃんだって!」
表に出たところで、どんなかわいい子犬が来るのかと期待を向けるメイたち。
メイド長の声に、庭を駆けて来たのは――。
「あ、あれがラブリちゃんなのか!?」
アルトリッテが、驚きの声を上げる。
砂煙をあげながらやって来るのは、見た目ほぼモンスターの黒い巨犬。
その体高は2メートル。
筋肉質な身体に鋭い牙。血走った目。
すでにうなり声をあげている猛犬ラブリちゃんは、その狂眼でこちらをにらみ付けてくる。
「……今にも襲い掛かってきそう」
「この愛らしいラブリちゃんのお散歩ついでに、お買い物をお願いします。品物は店員に声をかけるだけで受け渡しとなりますので、持ち帰るだけで結構です」
「こんな猛獣を連れて行ったら、店員が喰われない……?」
「それではお願いします」
もっともなレンの疑問だが、メイド長はすげなく去って行く。
「仕方ないわね、とにかく仕事にかかりましょうか」
そう言って、仕事の担当を考え出すレン。
するとそこに、頭に白いバラ飾りを着けた10歳くらいの少女がやって来た。
「また新しいメイドが来てるのね。ふふん、野蛮な冒険者なんて追い出してやるわ」
見るからにワガママそうな白金髪の少女は、グレイシア家の次女だ。
「なるほどね。シンプルな仕事かと思いきや、ここからはあの子の妨害が入る感じになるんだわ」
「グレイシア家は、魔法学校にいたリリーネさんの実家だったのですね。言われてみればお姉さんによく似ています」
「……貴方の遺した技、使わせてもらってるわ」
「リリーネさんは生きています」
「でもそれなら、メンバーの割り振りは考えた方がいいわね」
レンはこの後のクエストの成否が、この少女の邪魔がカギになると確信。
「この猛獣は、メイにお願いしてもいいかしら」
「おまかせくださいっ!」
明らかな猛獣も、メイは特に気にすることなく快諾した。
「私とマリーカがホールのモップ掛け、ツバメとアルトリッテには洗濯物の取り込みをお願いするわ」
「うむ!」
「了解です」
さっそく裏庭へと出ていく、ツバメとアルトリッテ。
「おお、洗濯物はシーツばかりだな!」
「やはりレンさんの言うように、一波乱あるからでしょうか」
洗濯物の取り込みという仕事をすることになったツバメとアルトリッテの前には、広い芝生の上に並んだ物干しざお。
そこにはたくさんの洗濯物が干してあり、なぜかその全てがシーツになっている。
「よーし! さっそく取り込んで行こう!」
「はい」
青空の下、洗濯物に手を伸ばしていくツバメたち。
これらを全てカゴに片付ければ、クエストクリアだ。
「そう簡単には、終わらせないわよ」
そこにやって来たのは、グレイシア家のお嬢様。
右手を伸ばし、放つは強い風の魔法。
「【ウィンドストーム】!」
「ぬああーっ!?」
「なっ!?」
暴風によって巻き上げられた洗濯物たちは、一斉に青空を舞う。
「シーツが多いのは、青空でも見つけやすいからですか」
「そういうことのようだっ!」
青空に舞う白のシーツは、よく目につく。
「わー!」と叫びながら、犬がボールを追いかけるような感じで駆け出していくアルトリッテ。
「ふん、精々必死に追いかけるのね。泥だらけになった洗濯物をメイド長に叱られたくなかったら」
「【疾風迅雷】【加速】」
ここでツバメはスキルを発動。
飛んだ洗濯物の集団を高速移動で追いかける。
シーツを一枚二枚とつかみ、小脇に抱えてさらに【加速】
どうやら飛んだ洗濯物は、順を追って落ちて来るようだ。
この事実に早々に気づいたツバメは、見事な回収を見せていく。
「二枚ほぼ同時……っ! ここは【加速】でも……っ」
数メートルほど離れて落ちてくる二枚のシーツは、土に着く直前。
「【リブースト】!」
ここで高速切り返しを使い、一気に二枚まとめて回収。
無事に難所を乗り切った。
どうやら先に手が触れていれば、シーツ自体が地面についても問題はないようだ。
「おお! ツバメもさらに速くなっているな!」
見事な回収ぶりに、駆けるアルトリッテが感心の声をあげる。
アルトリッテ側に飛んだ枚数は多くなく、無事回収を終了。
8枚ほどのシーツを担ぎ、意気揚々と大きなカゴの中に押し込んだところで――。
「【ウィンドストーム】」
「ぬはああああ――っ!?」
お嬢さま二発目の魔法で再び吹き飛ぶシーツに、再び「わー!」と走り出すアルトリッテ。
同じ要領で6枚を上手に回収するが、残り2枚は全くの逆方向に飛んでいる。
どう考えても、両方回収することは不可能だ。
「アルトリッテさんは、向こうの一枚をお願いします!」
「ツバメ! 助かるぞーっ!」
しかし回収を終えたツバメがこの危機に気づき、もう一枚を追いかける。
二人はクロスする形で、互いのシーツを追いかけていく。
「【加速】【リブースト】【跳躍】【エアリアル】!」
最大加速からの長距離跳躍。
そのまま飛びつく形で、ツバメは遠く舞ったシーツをつかみ取った。
「アルトリッテさん!」
すぐさま振り返る。
見えたのは、全力で駆ける金髪メイドの姿。
「オオオオオ――ッ!! 【ペガサス】――――ッ!!」
そのまま全力の飛び込み。
「ぬっはああああああ――――っ!!」
ヘッドスライディングのような姿勢で手を伸ばし、最後の一枚をつかみにいく。
「「…………」」
その気迫に思わず息を飲むツバメ。
シーツが地面につくのが先か、アルトリッテの手が触れるのが先か。
ゆっくりと身体を起こすアルトリッテに、ツバメは祈るような気持ちで視線を向ける。
「や、やったぞぉぉぉぉ――――っ!」
アルトリッテはシーツをつかんだ手を、高く天に突き上げた。
「お見事ですっ!」
それに応えるように、ツバメもシーツを突き上げる。
そのまま二人はブンブンとシーツを振り合い、互いの健闘を笑顔で称え合ったのだった。