作品タイトル不明
480.ティータイム・クエスト
「なにーっ!? 紅茶を淹れろだとーっ!?」
まさかの事態に、頭を抱えるアルトリッテ。
見事に炊事クエストを乗り越えたメイたちだったが、新たにメイド長が求めてきたのは『食後の紅茶』クエストだった。
「旦那様はストレートティー、お嬢様はミルクティー。これに合わせた茶葉を選んで紅茶を淹れてきてください。あくまでグレイシア家のメイドであることをお忘れなく」
そう言い残して、メイド長は踵を返した。
見ればキッチンの一角には六種類ほどの茶葉が、ビンに詰めて並べられている。
「ぬはーっ! どうすればいいのだー!?」
「知識を求めるクエストが続くとは思わなかったわね……日誌をしっかり読み込むと、このクエストのヒントもあるんでしょうね」
そう言いながら、瓶詰の紅茶を眺めていくレン。
「……これくらいなら」
ポツリとつぶやく。
「自信があるわけではないけど、この並びならストレートはダージリン、ミルクティーはアッサムで間違いないはず。メイ、茶葉の量を計ってポットに入れてもらえる?」
「りょうかいですっ!」
メイが備え付けのスプーンで、茶葉を取りポットに入れる。
予想通り【技量】の多寡で、紅茶の濃淡が変わってしまう仕掛けのようだ。
一方のレンはしっかり火加減を調整し、湯が沸騰した瞬間ポットに注ぎ込む。
「有名どころの茶葉だけを使った、簡単な選択肢で助かったわ」
「助かったぞ! レンは頼りになるなぁ!」
「……メイドリーダー」
意外な流れに歓喜するアルトリッテと、感嘆するマリーカ。
「ちなみに前回、このクエストは――」
「なかったぞ」
「……生焼けローストビーフの時点で、メイド長に回し蹴りを叩き込まれた」
「あのメイド長、【脚力】値があったら200は超えているぞ」
「ぬはー!」と叫びながら庭に蹴り飛ばされた時のことを思い出して、思わず震えるアルトリッテ。
「い、意外と過激なのね……それじゃあそろそろ給仕にいきましょうか」
「よーし! さっそく私が持って――――むぎゅ」
マリーカ、レン、ツバメが、同時に後ろ襟をつかんで止める。
「私が行くわ。作法が『優雅度』とかに関わる可能性もあるし」
「……正しい選択」
「おでがいしまふ」
後ろ襟をつかまれたままのアルトリッテが紅茶セットを譲る。
そのまま五人並んでティールームの前へと進み、全てをレンに一任。
「いってくるわね」
「がんばってね!」
「レンさんなら大丈夫です」
「……期待してる」
「頼んだぞ!」
期待の視線に押される形で、ティールームに入ったレン。
親子とメイド長の視線が、一身に集まる。
覚えている作法は、そう多くない。
まずは旦那とお嬢様の前に、取っ手を左側に向けてカップを置く。
それからポットを片手で持ち、旦那にダージリンを注ぎ、アッサムのポットを軽く回してからお嬢様のカップに注ぐ。
この『注ぎ』に【技量】が関わっていることに気づいて、意識を集中。
最後にミルク入りの小さなピッチャーを添えて、任務完了。
実は特に必要ないのだが、一礼してティールームを出た。
「おかえりなさーい! レンちゃんカッコよかったよー!」
「とても様になっていました」
「……カッコよかった」
「でも、うろ覚えだから間違えてるかもしれないわよ」
「私なら旦那の顔面にポットを叩き込んでいただろうからな! 問題なしだ!」
「何をどうやったら、顔にポットを叩き込むことになるのよ」
「……つまずく、ぬはー、叩き込み」
戻ってきたレンは、マリーカのシンプルな説明に笑いながら息をつく。
「でも、さすがに緊張したわ……」
するとメイド長が後を追うようにして、ティールームを出てきた。
どうやらここで、クエストの可否が言い渡されるようだ。
思わず走る緊張。
「…………やりますね。取っ手は左、片手で注ぎ、ポットを回して濃度を均一にする……ある程度はわきまえているようです」
「おおーっ! ナイスだレンー!」
「ないすーっ!」
メイとアルトリッテはパチーン! と、音を鳴らしてハイタッチ。
そのままレンに抱き着く。
「……すごい」
「念のためにやったことなんだけど……細かいところで加点が付くのね」
技術的な部分にまでしっかり目を付けているメイド長NPCの鋭さに、思わず感嘆する。
こうして見事に炊事クエストも全てをクリアしたメイたちは、うれしそうにほほ笑み合う。
「知りませんでした。レンさんは紅茶が好きなのですね」
「い、一時的にだけど、覚えた時期があったのよ」
「おおーっ! レンちゃんカッコいーい!」
「かっこいいです」
「オシャレだな!」
「……良い趣味」
「ま、まあね……」
ついさっきまでエース級の働きをしていたレン、突然歯切れが悪くなる。
思い出すのは、つい数か月前までの事だ。
「いつの日か、優雅に紅茶の知識をひけらかして『このくらい当然だわ』とか言うつもりだったのよね……」
黒のドレスを身にまとい、紅茶を優雅に楽しむ。
そしてここぞとばかりに、紅茶の知識をひけらかす。
そんな自分を想像してニヤニヤしていた日々を思い出し、全身を駆けるゾワゾワに必死に震えるレンなのだった。