作品タイトル不明
479.次のお仕事は
「次の仕事は炊事の手伝いとなります。まだ少し時間がありますので、控室で優雅さやメイドとしての心得を今一度あらためておいてください。幸い控室には日誌もあります、興味があれば読んでも構いません」
そう言ってメイド長は、控室を出ていった。
「「ばんざーい!」」
メイとアルトリッテは両手を上げて、クエストクリアをよろこぶ。
「やはりメイたちに助けを頼んで正解だったな! 片づけを完璧にクリアしたぞ!」
前回の挑戦では本棚で貴族を叩き、体当たりですっ飛ばしたアルトリッテとマリーカ。
「これなら【エクスカリバー】も夢ではない……っ」
その目を歓喜に輝かせる。
「そういえばメイたちはイベントに出ていたようだが、何か面白いものは見つけたか?」
「いーちゃん!」
メイが呼ぶと、どこからともなくやって来たイタチが肩に飛び乗った。
「おおっ! 使い魔か!」
「……使い魔自体あまり見ないけど、イタチは初めて見る」
飛び出してきた白いイタチに、さっそく夢中になるアルトリッテたち。
「また可愛い子を使い魔にしたのだな」
「そうなんだよーっ!」
メイがあごの下をくすぐると、心地よさそうに目を細めるいーちゃん。
思わず皆、癒される。
こうしてあっという間に、時間は過ぎ去った。
「次のお仕事です。これから貴方たちには、料理を作っていただきます」
連れて行かれたのは、お屋敷のキッチン。
かまどの上部に空いた穴から出る炎に、ナベやフライパンなどを乗せて料理を作る形のようだ。
「貴方たちにはコテージパイと、ローストビーフを作っていただきます。作り方はメモを読むように。できたものからダイニングへ運んでください。制限時間はこちらも15分です」
そう言い残してメイド長は、調理を開始する。
「なるほどね。大事なのは包丁使いと魔法石を使った火加減。魔法学校の経験が活きるわね」
置かれている材料に手を加えて料理を作るというシステムは、製薬に近いようだ。
「面倒そうなコテージパイは私たちでいきましょう。アルトリッテたちはシンプルな『焼き』と『切り』だけでいいローストビーフをお願い」
「わかった!」
「ちなみに前回はどうだったの?」
「食べた人が食あたりになったぞ!」
「そ、そうなの……」
アルトリッテはさっそく牛肉のブロックを選ぶと、魔法石で火加減の調整に入る。
「火加減はまかせろー! ぬはああああ――――っ!?」
天井を焼くほどに燃え上がる炎。
アルトリッテの前髪、少し燃える。
「こ、この火加減が難しいのだ……っ」
ドキドキしながら、アルトリッテはそーっと魔法石に手を伸ばす。
「ちょっと待って。火力調整は【知力】があった方がいいの。二人は仕事を逆にして」
「そうなのか?」
すぐに交代して、マリーカが調理を始める。
「……確かに」
さすがはトップの一角。
とにかく一定に保つというゲーム性の火加減を、見事に調整してみせる。
程よく焼けたところで、カットはアルトリッテが行う。
「おおっ! 確かにやりやすいぞ!」
包丁の扱いは【技量】値がものをいう。
こちらもアルトリッテが、問題なくカットを成功させた。
「で、できた! まともな料理だーっ! 前回の『ざく切り生焼け肉』が嘘のようだ!」
「これをツバメが提供してきて。妨害に気を付けてね」
「はいっ!」
レンの予想通り、廊下には走り回る子供の姿。
これをツバメは見事なステップで回避して、ローストビーフを食卓へ。
「メイ、材料のカットをお願い」
「りょうかいですっ!」
メイは玉ねぎとニンジンをみじん切りにする。
高い【技量】値によって、飛ぶような勢いで作られていくみじん切り。
一方のレンはジャガイモを見事な火力調整で茹で、マッシュポテトを作る。
「次はそのみじん切りに、ひき肉を入れて中火で炒めて……」
ここでも火加減調整も難なく成功させ、器の底に敷いたひき肉炒めの上にマッシュポテトを乗せる。
最後はパイ生地を乗せて焼くのみ。
「最後はオーブンを200度にし続けて、程よい焦げ目がついたところで……ここっ!」
焼き時間が短ければ生焼け、長ければ焦げてしまうというゲーム性は予想通り。
レンは焼き色がついたベストのタイミングで、パイを取り出してせみた。
「おおっ、見事だ」
「……火加減のプロ」
「行ってきます」
続けて完成したパイも、戻ってきたツバメがそのまま運ぶ。
こうして時間に余裕を残し、メイたちは料理のオーダーを完遂させた。
「……お見事です。皆さんも喜んでおりました」
やって来たメイド長はあくまで冷静に、評価を言い渡す。
「「やったー!」」
メイとアルトリッテはパチーン! と音を鳴らしてハイタッチ。
「続いて、旦那様のご要望です」
「まだあるの?」
「追加でフィッシュアンドチップスを用意して提供してください。お待たせしないよう5分以内でお願いいたします」
そう言い残して、メイド長は給仕に戻っていった。
「ちょっと待って。材料は?」
ここでレンが気づく。
これまでとは違い、情報のない状態での仕事。
食材はあれこれと並んでいるが、どれを使うのかは分からない。
「……控室で、日誌を読んでおく必要があったんだわ」
作り方自体は簡単なそのクエスト。
だが控室にあった本を読んでおかないと、知識勝負になってしまうクエストだったようだ。
「フィッシュアンドチップス……聞いたことはあるけど、見たことはないぞ」
「……私も」
どうやら、誰も分からない状況のようだ。
「魚とじゃがいもかしら。名前から想定できる情報だけじゃ厳しいわね」
並んだ魚は種類も多く、ヒントになるようなものもない。
「勘で作るしかないのでしょうか」
「お魚と、じゃがいもかぁ……あれ?」
選択肢の多さを考えれば、厳しい状況。
しかしメイが、不意に声を上げた。
「前にお母さんが『今夜は当たらない。なぜなら夕食というよりおつまみだから!』って言ってた時があって……タラだったかな? お魚を揚げたのと、ポテトフライが出てきたんだよ」
「それよ! どの魚か分かる!?」
青山家の『今夜のご飯は何戦争』が、ここでまさかの奇跡を起こす。
その時もしっかりと『当てて』しまったメイは、その魚を覚えていた。
「ええと、タラは……これだよ!」
衣は小麦粉を卵で溶いたもの。
これは小麦粉と卵を選んだ時点で、ボウルの中で混ぜたものに変わる。
あとは揚げるだけ。
火加減ならもうお手の物だ。
レンとマリーカの二人で、さっと二つの揚げ物を完成させて皿に乗せる。
「あと、レモンが置いてあった!」
最後にレモンを付け足して、でき上がり。
「おおーっ! これは美味しそうだな!」
「おいしそうーっ!」
「……この見た目で、間違っているはずがない」
「時間がありませんね。行ってきます! 【隠密】【加速】!」
走る姿を見つかっても減点されないよう姿を消し、ツバメは廊下を駆け抜ける。
高速移動で子供たちをかわし、そのままテーブルへ。
給仕を終えて戻って来たツバメは、大きくうなずいた。
「「ばんざーい!」」
メイとアルトリッテが、大喜びで両手を上げる。
「お見事です……冒険者風情と思っておりましたが、どうやらそこそこやる模様」
メイド長も、これにはわずかに見方を変えたようだ。
「えへへへへ」
「うむ! 五人一緒なら不可能などないぞ!」
「さて、この時間に小腹を満たした旦那様は飲み物をお召しになられます」
しかしメイド長は、そのメガネを再び鋭く光らせる。
「そこではご息女も一緒に紅茶を楽しまれます。グレイシア家の名に恥じないよう、しっかりと給仕をなさってください」
「「「「「えっ……?」」」」」
続くクエスト。
まさかの言葉に全員が硬直した。