作品タイトル不明
476.「学校で見た!」
「それで、どこからメイド仕事のクエストを始めるの?」
「どこからっ?」
エルダーブリテンの雰囲気、そしてメイドになるクエスト。
早くもテンションの上がったメイは、尻尾をブンブンさせながらたずねる。
「……スタート地点は、街のパブにいる酔っ払いから」
お屋敷の前を通り過ぎ雑多な街へ戻った五人は、マリーカの案内で酒場へと足を向ける。
「メイドさんっ、メイドさんっ」
楽しみ過ぎて、思わず足が弾んでしまうメイとツバメ。
たどり着いたのは、木造船の船室に多種多様の酒瓶を並べたような、一軒のパブ。
「わあ……映画みたい」
ワイワイと騒がしい一団がカードをしながら盛り上がり、無口な店主は静かにグラスを磨く。
クエストがあるなら、間違いなくこのどちらかだろう。
しかしアルトリッテは店主から水を受け取り、店の隅でタルのテーブルに突っ伏す酔っ払いのもとへ。
「う、うう……」
そして酔っ払いの男がわずかにうめいた瞬間。
「水だぞ」
そう言って水を渡す。
すると男は顔を上げ、水を一気飲み。
「ああ、屋敷には戻りたくない……もう使用人を増やしてくれ。仕事が多すぎる……」
「それなら、私たちがやるぞ」
「本当か……? それならついて来てくれ!」
男は立ち上がり、店主に「ツケで」と言い放って店の外へ。
「……あの人はお屋敷の庭師。彼がうめいた時に水を持っていって、『自分がやる』と名乗り出ないとメイドクエストにはつながらない」
「なるほど。なかなか見つからなそうだし、ちょっとしたことであっさり見つかりそうでもある、絶妙なクエストね……」
こうしてメイたちは、庭師の後に続いて再びお屋敷へ。
「メイド長、新しい使用人希望者を連れてきたぞ」
裏口からお屋敷の中に入ると、そこに待っていたのはメイド服を着た老年の女性。
「出たな、メイド長っ!」
現れたNPCに、アルトリッテはファイティングポーズを取って警戒する。
「新たなメイド希望の者たちですか?」
小さな丸メガネをかけた白髪のメイド長は、その鋭い眼光でメイたちを下から上へとにらみつける。
そして、アルトリッテを見て視線を止めた。
「貴方たち、また来たのですか? 今度はもう少しマシな働きをしていただければ助かります」
「うぐぐっ」
「……ひどい言われよう」
そして小バカにするような視線をアルトリッテたちに向けると、扉を指さした。
「まずはそこで着替えてきてください。そのような野蛮な格好は、名誉あるグレイシア家に相応しくありません。仕事の報酬は、その働き具合によって支払います。冒険者などに期待はしておりませんが、精々がんばって、せめて家名を汚さぬよう精進してください」
そう言い残して、とっとと次の仕事へと向かう。
どうやらメイド長は、かなり厳しい人物のようだ。
「メイド長め……っ。今度は負けないぞ!」
そう言ってアルトリッテは、指示された控室へと向かう。
するとそこに、メッセージが現れた。
『――――メイド服に着替えますか?』
『はい』を選択すると、皆一斉にその姿が変わる。
「わあ! すごーい!」
さっそくクルクルと回るメイ。
深い紺色のメイド服に、白のエプロン。
首元にはグレイシア家固有の柄なのだろう、青チェックの小さなリボンが付けられている。
スカートも長く、メイたちの感覚からすればクラシックなイメージの制服だ。
「す、素晴らしい光景です……っ」
【猫耳・尻尾】はそのまま残す形でメイド姿になったメイに、ツバメは歓喜する。
「わあ! みんな可愛いなぁ!」
普段見ない皆の格好に、メイは歓喜の声と共に尻尾をブンブン。
「みんな一緒に喫茶店でアルバイトとかしてたら、こんな感じなのかなぁ!」
「……人気が出そう」
マリーカの言葉に、ツバメはブンブンとうなずく。
「思った以上に本格的な衣装なのね」
「レンちゃんきれいーっ!」
スラリとしたレンは、長い銀髪のクールな感じもあって、メイドのリーダーのような雰囲気だ。
「本当ですね」
対してツバメは、静かに仕事をこなすタイプに見える。
その綺麗な黒髪には、ヘッドドレスがよく似合う。
「ツバメちゃんも可愛いねぇ……っ!」
「あ、ありがとうございます……っ」
とにかく楽しそうなメイに抱き着かれて、あわあわするツバメ。
「皆で一緒にメイドさんかぁ……あれ?」
メイは不意に思い出す。
「……そう言えば、学校でもやってたような」
「文化祭ではないでしょうか」
「そうかも……っ」
実は去年の文化祭でも、クラスでそういう催しはあった。
しかし青山さつきは皆の『絶対メイド姿かわいい』という期待の中、裏方で食材などを管理する仕事を担当。
空き時間の全てを『ジャングルの村』を守るのに使うという狂った文化祭を過ごしたため、ほとんど記憶に残っていないのだった。
「私の学校でも、やっているクラスがありました」
そう言うツバメは、可愛い制服だと思いながらも自分が着ることはないだろうと、『地域の歴史展』という誰も足を運ばない展示の受付を一人ひたすらこなしていた。
「…………」
そしてレンに至っては、文化祭でメイドをやること自体には興味深々だったが、「この闇の使徒が、そのような形で人前に立つことなどあり得ない」と着用を断ったことを思い出して、耳が激烈に熱くなる。
「ああーっ、楽しくなりそうだなぁっ!」
メイドになったメイは、「エクスカリバーのために……っ」と意気を高めるアルトリッテを見て「よーし!」と気合を入れる。
見れば金髪碧眼のアルトリッテの似合い様も異常なレベルで、身体の大きなマリーカとの組み合わせもよく映えている。
そんな光景を見るだけで、もう楽しくて仕方がない。
「よーし! それではお仕事がんばりましょうっ!」
そう言って初めての体験に、目をキラキラと輝かせたのだった。