作品タイトル不明
475.新たな舞台は
テーラを出たメイたちは、いつもの港町ラフテリアに帰ってきた。
青い空と海が気持ちいいこの街は、今日も変わらず多くのプレイヤーが街を行き交っている。
「……あれ?」
そんな中、遠くに見覚えのある顔を見つけてメイが首を傾げる。
「どうしたのですか?」
「あれって、アルトリッテちゃんたちじゃないかな」
「あんなに遠く、よく気づいたわね……本当だわ」
「これは奇遇ですね」
キョロキョロと何かを探すようにしているのは、ルナイル王国のピラミッド攻略を共に進んだ二人組のトップパーティ。
長い金髪の小柄な聖騎士アルトリッテは、白の鎧に鮮やかな青のマント姿。
6年の長きに渡って【エクスカリバー】を探し続けている。
その隣にいるのは、魔導士マリーカ。
高い身長と、目が死んでいるところが特徴。
白く長いふわふわの髪に魔女帽を乗せ、深紅のコートを羽織っている。
「そうだっ、えへへへ」
メイは屋根の上をひょいひょいと駆け、アルトリッテたちのそばにある木の枝へ飛び乗った。
「こーんにーち……」
そしてアルトリッテたちが通りがかったところで飛び降りて、右手で枝を握る形でぶら下がる。
「わあっ」
「ぬはーっ!?」
突然目の前に現れた笑顔のメイに、漫画みたいに飛び上がって驚くアルトリッテ。
「メ、メイ……」
「はいっ! メイですっ!」
「メイ――ッ!!」
「うわああああ――っ!?」
片手で枝につかまっていたところを全力で抱き着かれたメイは、そのまま落下。
道端に、アルトリッテと抱き合った状態で倒れ込んだ。
「た、頼む! 頼むメイっ! お願いだっ!」
「なになに!? どうしたのっ!?」
「エ、エ、エクスカリバーのためにっ!」
「エクスカリバーのために……?」
「メイドになってくれぇぇぇぇ――――っ!!」
「ええええええええ――――ッ!?」
◆
「要はエクスカリバーにつながるであろうクエストを見つけたけど、全然クリアできなくて助けを求めに来たってことね」
「うむ、そういうことだ」
「……戦うだけなら問題ない。でも今回は『メイド』仕事のクエスト」
「戦闘以外に求められることが多いのね」
どうやらアルトリッテたちがラフテリアにいたのは、メイたちを探しに来ていたからのようだ。
次の目的も決まっていなかった三人は、話を聞きつつポータルへ。
そのまま目的地である、エルダーブリテン王国へとやって来た。
そこは古い英国をモチーフにした街で、大きな時計塔が街のアイコンになっている。
あちこちで見られる、チェック柄のタペストリーが印象的。
石造りの道を進む馬車も優美な作りのものが多く、レンガ造りの建物が見られるのもこのマップの特徴だ。
「エクスカリバーを求め、ストーンヘンジ、時計塔、円卓騎士団、王家のクエストをやりつくしたのだが見つからなかった……だが意外にも、そのきっかけは街の中にあったのだ」
「……貴族のお屋敷でメイドをするというクエスト中に、【エクスカリバー】に関わるヒントがあった」
「なるほどねぇ」
アルトリッテは広報誌で見かけた【エクスカリバー】に憧れて以来、ずっとその存在を追い続けてきた。
それが今回ついに、灯台下暗しの形で発見。
「確かに、プレイヤーがメイドになるクエストはこれまで見つかってなかったわね」
「頼むー! 手伝ってくれー! 誰かに取られてしまったらと思うと、夜も眠れないんだー!」
アルトリッテは「わーん!」と、半泣きの顔で懇願する。
「分かります! それにメイドさんも楽しそうっ!」
「私は構わないわよ」
「私も問題ありません。ですが、一つとても大事な確認事項があります」
「な、なんだ?」
いつになく真面目な顔のツバメ。
その勢いに、アルトリッテも思わず息を飲む。
「そのクエスト、メイド服の着用はあるのでしょうか」
「……も、もちろんあるぞ。もしかして、そう言うのは嫌――」
「全力で助力することをお約束します! むしろよくぞこのクエストを持ってきてくれました!」
「ど、どうしたのだ急に……っ!?」
ツバメの目の強烈な輝き具合に、アルトリッテちょっと引く。
「私に一切の文句はありません! この流れは皆さんのメイド姿、ひいてはメイドのメイさんが見られるという事っ! 誠心誠意がんばります!」
ツバメはエルダーブリテンの街を、アサシンとは思えぬ気合に満ちた歩きで進んでいく。
「……ここ」
やがてマリーカが指さしたのは、乳白色の石壁に淡いブルーの屋根が美しい見事なお屋敷。
「大きなお屋敷ねぇ」
芸術品のような造りの大きな鉄柵門の先には、噴水が見える。
そしてその周りには、美しいバラ園。
「すごーい……」
これにはメイも、感嘆の声を上げる。
「こんなお屋敷でメイドさんができるなんて、楽しそうだね!」
「今までにないクエストになりそうね!」
「最高の展開の予感……っ!」
早くもワクワクし始めるメイたち。
するとアルトリッテは門の前に、仁王立ち。
「……リベンジだ! 【エクスカリバー】は必ず、この聖騎士アルトリッテが手に入れる!」
お屋敷を『ビシッ』と指さして宣言したアルトリッテは、ゆっくりこちらに向き変えると――。
「お手伝いよろしくお願いします――――っ!」
そう叫んで、砂が舞うほどの勢いで土下座した。