作品タイトル不明
469.野生児vs侵略者
「あっはは、こりゃ大変だなぁ」
【幻術】の効果を大きく落としたキュービィたちが、レンたちに押され出した頃。
「七新星始まって以来の惨事になってんだけどー」
アンジェラは笑いながら戦況に視線を向ける。
しかしそれを、危機とは感じていない。
「野生児ちゃんをぶっ倒した後、さらに一人で『巫女』も探さないといけねーとか……面倒じゃね?」
アンジェラにとっての惨事とは、どうやら戦いに勝利した後の手間についてのようだ。
「『巫女』ちゃんは渡しませんっ! ジャングルはわたしが守りますっ!」
七年間のジャングル防衛生活をしてきたメイは、ついつい熱くなる。
そしてその言葉を聞いたアンジェラは――。
「そりゃー無理だね。この大陸はフロンテラ王国のものになって開拓、守り神も侵略の武器として使われんだから」
そんなメイの言葉に、しっかり乗っかっていく。
「……そして。フロンテラがこの世界を征服した後、あたしがそのフロンテラを乗っ取る」
「ええっ!?」
「そう。最後はこの妖刀のアンジェラが、世界の全てをいただくのさぁ!」
「そ、そんなことさせませーんっ!」
アンジェラは、その長い赤髪を払いながら笑う。
「そんならさぁ、止めるしかなくね? あたしを。そしてこの……妖刀【村雨】をさぁ!」
別ゲームからの移住後、あっと言う間にトップに立った最強パーティ七新星。
その中でも群を抜いた強さを誇る少女が、メイの前に立ちふさがる。
自信を感じさせる笑みに、引き抜いた妖刀【村雨】が怪しい光を灯す。
「はじめよーぜ。新大陸をかけた勝負をさぁ!」
「負けられませんっ!」
武器を手に、向き合う二人。
「いきますっ! 【バンビステップ】!」
ジャングルを守るため、メイは走り出す。
そのまま一気に距離を詰めると、手にした剣を振るいにいく。
「【フルスイング】!」
「うおっと! 【縮地】!」
速くそして柔軟な動きでの攻撃に、アンジェラは思わず高速移動スキルで後方へ下がる。
派手なエフェクトと共に放たれた渾身の振り降ろしは、見事にかわされた。
「大きくなーれっ!」
その後を追うように、メイは掲げた【蒼樹の白剣】を振り払う。
大きくしなる樹の剣を、アンジェラ目がけて叩きつける。
「うおおっ! おもしれー剣だな! 【因幡白兎】!」
「からの……【ソードバッシュ】だああああーっ!」
「来た噂のソードバッシュ! 【縮地】【因幡白兎】!」
任意距離高速移動からつなぐ自在の跳躍は、【ラビットジャンプ】ほどの高さは出ないが、空中で自由な動きが取れる。
その鋭さはなかなかのもので、【縮地】と組み合わせることで【ソードバッシュ】の攻撃範囲から退避することに成功。
「さっすが! 【フルスイング】とか【ソードバッシュ】がこの威力とかってさー、どうなっちゃってんだよ」
楽しそうに笑うアンジェラ。
ここで意識を攻めに切り替え、前に出る。
「さあ、いくぜいくぜいくぜー! 野生児ちゃんの回避はどうかなぁ? 【縮地】【瞬殺】!」
「ッ!?」
それはただの振り払いだが、スイングスピードが異常に速い。
メイが驚くほどの速さの攻撃は、【村雨】の放つ赤い軌跡で威力も向上。
降りおろしからの払い。
踏み込んでの突き、そして大きな斬り上げ。
その凄まじい剣舞を、メイはしっかり集中して回避する。
「【瞬殺】【明王斬月】!」
「【アクロバット】!」
剣舞の最後に放たれた飛翔する斬撃も、側方宙返りでスレスレを飛び越えていく。
「ここまでノーダメージって、反応速度半端ねえな! そういうことなら――っ! 【縮地】!」
ここまでの流れを初見でノーダメージだったプレイヤーなど、かつて存在しなかった。
アンジェラは妖刀を手に、一気にメイに迫る。
「あれっ?」
そしてなんと、そのまま真横を通り過ぎた。
「【見返り鬼刃】【瞬殺】!」
急停止からの振り返り高速斬撃。
これはまさに、メイの虚を突く一撃だ。
「ッ!!」
慌ててかわすも、刃先が頬をかすめて1割弱のダメージ。
「まだまだいくぞー! 来なよ【弐王炎魔】ァァァァ!!」
叫ぶアンジェラの背後にせり上がったのは、高さ5メートルほどの上半身だけの魔神。
炎でできた二体の巨人は、両手に持った炎の巨剣をメイに叩きつけにいく。
さらにこのスキル、術者アンジェラも別行動が可能という反則ぶり。
「【縮地】【瞬殺】!」
「【裸足の女神】ッ!!」
その凶悪なコンビネーション攻撃に、メイはここで早くも超高速移動スキルを発動。
大急ぎで攻撃の隙間を駆け抜けた。
「【見返り鬼刃】【明王斬月】!」
すれ違う二人。
アンジェラは緊急停止からの振り返りで、斬撃を放つ。
「うわーっととと!!」
慌てて転がり退避したところに迫るのは、炎の魔神。
メイは大急ぎで立ち上がり、炎の剣の振り降ろしを警戒するが――。
「砕けちゃいな!」
「ええっ? うわああああああ――――っ!!」
直後、二体同時に爆炎を巻き起こして自爆。
メイを大きく吹き飛ばし、2割強のダメージを与えた。
自爆もする炎魔は攻撃範囲も広く、妖刀を持つアンジェラ自身も本当に強い。
キュービィたちが絶対的な信頼を置き、同陣営のプレイヤーが『勝てる』と踏むのにはそれだけの訳がある。
「さあさあ一気に勝負を付けさせてもらっちゃうからなー! 【縮地】【瞬殺】!」
降りおろしからの斬り上げ、さらに大きな踏み込みからの振り払い。
「わっ、わわっ!」
「【縮地】【瞬殺】!」
超高速の突きから、そのまま回転斬りへ。
そして振り向きざまの斬り上げ。
「うわわわわっ!」
その怒涛の勢いに驚きながらも見事な回避を見せるメイに、アンジェラは突然左手を突き出した。
「【白雷】!」
「わあああっ!?」
使用したのは『道術』
大したスキルではないが、目先を変えて敵を崩すという狙いなら『隙が少なく、硬直もわずかに取れる』良技。
ゲーム上手ならではの選択だ。
「はいもらった――――っ! 【縮地】【瞬殺】【十文字斬り】!」
見事これにかかったメイを、アンジェラは一気に攻め立てる。
高速移動から放つ連撃は、神速の十字撃。
「【装備変更】!」
だがメイは回避を選ばない。
ここまでの戦いでその速さをしっかりと覚えたメイは、襲い来る振り払いを、足を一歩下げるだけで回避。
そこから来る神速の振り降ろしに合わせて、あえて大きく踏み込んでいく。
「とっつげきー!」
【鹿角】が、赤の軌跡と共に迫る【村雨】を弾き返した。
寸分のズレもなく、ベストなタイミングで放たれた【突撃】が派手なエフェクトをまき散らす。
「この速度相手にパリィとか……ウソだろっ!?」
高速移動から超高速の連撃、その一段目を狙うならまだ分かる。
二段目にパリィを挟み込んでくるような『どうかしてる』プレイヤーなど、聞いたことがない。
「うおおおおっ!?」
偶然では起きえない見事な切り返しに、アンジェラが度肝を抜かれる。
弾かれ合う両者。
先に動くのは、もちろんメイだ。
「【バンビステップ】!」
一気に距離を詰め、剣を掲げる。
「いきますっ! 【フルスイング】!!」
「み、【身代り悪鬼】ーッ!!」
立ち昇った霊体の鬼が身代わりになるという緊急防御スキルで、どうにか直撃を回避。
ダメージを1割程度に抑えた。
「からの【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」
「【縮地】! 【縮地】だああああ――――っ!」
迫る衝撃波から、転がり出るように逃げ出すアンジェラ。
「【装備変更】【ラビットジャンプ】!」
攻勢は続く。
大きな跳躍を見せたメイの手に現れたのは【大地の石斧】
「【地烈撃】だ――っ!」
窮地に追い込まれていたアンジェラ、それを聞いてニヤリと笑う。
「わりーな! そいつの情報はもう聞いてっから! 【因幡白兎】!」
地面が陥没する瞬間に合わせて跳躍することで、アンジェラは転倒の危機を脱した。
七新星最強プレイヤーでも、さすがに気づかない。
【突撃】で転倒状態だったアンジェラに、そもそも転倒を誘う【地裂撃】を続ける意味などない。
5000人打倒時のメイは、【地裂撃】のところであえて使用を止めた。
そうなれば、その分だけ速く再使用の瞬間が巡ってくる。
「いきますっ! 【グレートキャニオン】だぁぁぁぁ――っ!!」
ドン! と地面が揺れ、もう一段地面が下がる。
「な……んだ? お、おおおおおお――――っ!?」
直後に突き上がった山岳のごとき岩盤が、アンジェラを天高く突き飛ばした。
「うおおおおおおおおおお――――――っ!!
崩れ、消えていく岩盤の剣。
地面にたたきつけられたアンジェラは、驚きに目を見開く。
「……1チャンスでここまでボコられるとか、ある?」
たった一度のパリィから始まる、猛烈な逆転劇。
一気に半分近いHPを持っていかれたアンジェラは、さすがに苦笑い。
「なるほどねー。少人数陣営でもクエストで圧勝できるわけだ」
そう言って起き上がると、手にした【村雨】を握り返す。
「でも、まだまだ勝負はこっからだし……負けねーから」
煌々と真紅の輝きを灯す妖刀。
アンジェラはもう一度、強気の笑みを見せた。