作品タイトル不明
467.赤い髪と深紅の一撃
ヘビたちの視線が【幻術】を暴いたことで、戦況は一変した。
「【ソードバッシュ】!」
「【流転避行】!」
術の効果が大きく下がり、とにかく逃げの一手になっていくキュービィ。
それでも白竜を【幻術】で二体に見せ、隣り合わせることでヘビによる見極めを妨害しようと試みる。
「……あらぁん?」
そこにしれっと立っていたのは、一匹のイタチ科。
放つ暴風が、キュービィと白竜をまとめて転がす。
「きゃああああんっ!」
「ここは一度、体勢を立て直したいところですな!」
一方の摩訶羅那。
ヘビによって本物の位置こそ知られても、ペンデュラムの真偽までは分からない。
「【全弾掃射】フレア――――なっ!?」
今まさに必殺の一撃を放とうとした摩訶羅那に、猿の投げた石が直撃。
ダメージこそ僅少だが、スキルはキャンセルされた。
「ありがとう! 【ラピッドワン】【速射】!」
動物が味方してくれるという状況に驚きながらも、すかさずローランは攻撃を仕掛ける。
攻守は、完全に逆転した。
「まずいわぁん」
「まったくですな!」
さらにここで、状況は大きくメイたちに傾く。
「お待たせしました!」
「ここからは私たちも手伝うわ!」
「これはさすがに、苦しくなったんじゃないかな?」
ローランが問いかける。
ツバメとレンの合流によって、いよいよその差は明確になった。
「そうねぇん。でもこういうのをいーっぱい乗り越えてきたから、キュービィちゃんたちには色んな戦い方がインプットされてるのん」
メイたちは四人。
キュービィたちは白竜を数に入れても三人。
厳しい状況であることは間違いないが、そこは別ゲームから共に戦ってきたプレイヤーたち。
「……もちろん、強敵を集めて叩く一撃必殺もねぇん」
団体戦のやり方は、無数にある。
キュービィが劣勢に似合わない妖艶な笑みを浮かべた、次の瞬間。
「いくぞいくぞいっちまうぞ――――っ!」
木々を飛び越え、大きな跳躍で飛び込んでくる一人の少女。
燃える赤髪をひるがえらせて、空中で一回転。
「妖刀【村雨】の出番だぁぁぁぁ――――っ!!」
アンジェラは叫んで、深紅の鞘に納めた刀を引き抜いた。
【村雨】の特殊性は、使用者のHPを吸い、放つスキルの火力を大きく上げること。
そして量が多ければ多いほど威力を上げる。
アンジェラは最後のクエストが始まった瞬間から、ずっとHPを【村雨】に与え続けていた。
HPを吸い続けた妖刀はすでに、最大の状態まで【天剣呪殺】の威力を上昇させている。
さらに【チャージ】というシンプルな物理攻撃威力の向上スキルを乗せることで、できあがったのは無慈悲な広域殲滅の一撃。
「やっちゃえーん!」
キュービィが「いけいけー!」と、拳を突き上げる。
それは七新星たちが大規模戦闘の際に一度だけ使う、奥義だ。
その禍々しい赤光のエフェクトが物語る圧倒的な威力に、走る緊張。
キュービィは、この瞬間まで見越して戦っていたのだろう。
「この一発で、決まりですな」
これまで幾多の勝利を収めてきた七新星。
何百何千という敵を打ち倒してきた、必殺技中の必殺技に摩訶羅那も勝利を確信する。
「……これで来てくれなかったら、ひっくり返して埋めましょう」
「さ、さすがにそれは」
すでにHPを減らしているローランやレン、ツバメはかすめただけで死に戻りという状況。
それでもレンとツバメは、見つめ合って苦笑い。
「それでは……よろしくお願いいたしまーす!」
いつものように右手を上げて、声を上げたのはテーラ陣営リーダーのメイ。
するとその言葉に応える形で、足元に輝く魔法陣。
まばゆい輝きと共に、なぜか空から落ちてきたのは守り神の陸ガメだ。
「いくぞ――っ! 【天剣呪殺】だァァァァァァ――っ!!」
呪いのエフェクトがアンジェラの赤い髪を煌々と輝かせ、燐光をまき散らす。
着地と同時に振り払われる妖刀【村雨】
禍々しい深紅の輝きが雷光の様に閃き、駆け抜ける斬撃によって付近の草木が、篝火が、アンジェラを中心に100メートルほど切り裂かれて落ちた。
その光景に、立ち尽くしてしまうメイたち。
「うそん……」
「これは、想定外ですぞ」
しかし、驚きの声を上げたのはキュービィたちだった。
「やるじゃない!」
「お見事です!」
「ありがとーっ!」
テーラ陣営の前に現れたハニカム型の輝きにより、ダメージはなし。
歓喜するメイたちに、陸ガメは雑に手を振りながら魔法陣に沈んでいく。
一方これまでどんな不利な状況もひっくり返してきた七新星の奥義が打ち消され、キュービィたちは唖然とする。
「やっば! 野生児ちゃんたち、マジで面白れーな!」
「野生児ではございませんっ!」
「あはははは! めちゃくちゃ楽しくなってきたんだけどーっ!!」
しかしアンジェラは溜めに溜めた必殺の一撃をかわされたにも関わらず、それを大して気にした様子もない。
長く派手目な爪と、キラキラ光る大きな輪のピアス。
その長い髪は、炎よりも赤く燃えている。
「べつに気にしなくていーよ。あたしが全員ぶっ倒して、『巫女』ちゃんを捕まえに行きゃいーんでしょ?」
いまだに衝撃を隠せずにいるキュービィと摩訶羅那に、そう言って笑う。
「始めよーぜ。久しぶりに本気のあたしを見せてやっからさ!」
「……そうですな!」
「そうねぇん!」
わずかな言葉で、キュービィたちも自信を取り戻す。
どうやらフロンテラ陣営のリーダーもまた、それだけの強さを誇っているようだ。