作品タイトル不明
454.巫女を守る者たち
テーラに残ったレンと金糸雀は、あらためて現状を確認する。
「新大陸の大神の起動キー。テーラ陣営の『巫女』には、戦闘能力がない」
「基本的には防衛、逃避が中心になるんだな」
「そういうことね。しっかり考えて逃げ隠れしてくれるわけだから、密林っていう場所は悪くないわ」
身の丈ほどもあるハンマーを肩に乗せ直し、金糸雀がうなずく。
また『巫女』は、本拠地にあまり縛られていないという点も強みだ。
「敵陣営は『巫女』を目指して迫ってきてるでしょうし、メイたちが戻るまで守り抜ければってところね」
「起動キーをなくした時点で敗戦ってわけではないんだろうけど、最後の戦いは不利な状況になっちまうんだろうな」
テーラ陣営はレンと金糸雀を先頭に、同行組との間に『巫女』を挟むという並びで密林を進んでいく。
「……やっぱ話してる分には、そこまで中二病っぽくねえよなー」
「そ、そういうのは卒業したのよ」
言いながら、【宵闇の包帯】を巻くレン。
「…………」
「こ、これには訳があるの! これは身に着けておくことが大事なアイテムなのよ!」
視線にハッとして、慌てて否定の声を上げる。
しかしそんなレンを前に、金糸雀は「しっ」と人差し指を唇に当てた。
聞こえてきたのは、草を踏み分ける音。
「来るぞ」
視線の先に現れたのは、足の速い前衛パーティ。
『巫女』は近くの木陰に身を隠す。
羽飾りがやや気になるが、少女が身を低くすれば姿は見つけにくい。
「弓術師は要注意だ」
中遠距離への視覚が強いことは、ローランで確認済み。
そのうえ前衛について来られる身軽さもあるのだろう。
先行してきた弓術師は木の上に跳び上がり、視線を付近に走らせる。
息をひそめるレンたち。
しかし運悪く、弓術師は『巫女』の方へ近づいて行く。
「ここまでか! 【アクセルスウィング】!」
「ッ!?」
それは一気に距離をつめ、ハンマーを全力で振り回す『移動+攻撃』のスキル。
金糸雀は大きな踏み出しから、手にしたハンマーをブン回す。
「うぐっ!?」
真横から飛んで来た重たい一撃は、見事に弓術師を打倒。
一撃必殺で敵を黙らせたところで、テーラの仲間たちも動き出す。
「【ソードストライク】!」
「【ウィンドカッター】!」
「【ストーンバレット】!」
先手必勝。
目立たないタイプのスキルで、同行組も上手に前衛パーティの残りを叩いてみせる。
「まずいぞっ!」
そんな中、慌てて『合図』を上げようとする魔導士に、金糸雀が思わず悲鳴を上げた。
「させないわ! 【魔力剣】!」
「ッ!? 接近だと!?」
撃ち合いを予想した魔導士は虚を突かれ、レンの一撃に倒れ伏す。
テーラ組は見事、追手の一団を倒すことに成功した。
「でも……思った以上に数が多いわね」
「このままじゃ、隠れ切るのは無理だな」
すでに、木々の隙間からチラチラと敵陣営の哨戒プレイヤーが見える。
大型陣営による同盟は、広さと密度の両方をかなえる捜査で、レンたちをあぶり出していく。
「もらったー!」
次の瞬間、木の上から『巫女』へ飛び掛かってきたのは一人のアサシン。
「させねえぞっ! 【アクセルスウィング】!」
「ぐあああっ!」
「今だ! いけっ!」
これを金糸雀が吹き飛ばしたところで駆け込んできたのは、短剣を手にした剣士や盗賊といった足の速いプレイヤーたち。
アサシンはオトリ。
慣れた高速移動で、一気に『巫女』を狙いに行く。
「解放!」
「「「うおおっ!?」」」
張っておいた【設置魔法】【フリーズブラスト】を発動し、『巫女』に迫った敵プレイヤーをたちを吹き飛ばす。
「ここを離れましょう!」
走り出すテーラ組。
「見ろ! あそこに『巫女』がいるぞ! 追え! 追えーっ!」
「逃がすな! あの人数なら押しつぶせるぞ!」
しかしここでレンたちに気づいた新たな一団が、攻め込んでくる。
「派手な戦いは控えたいんだけど……!」
戦火が上がれば人が集まる。
そうなればそれだけ、巫女の身に危険が及ぶ。
レンは密林を駆けながら、何か手はないかと視線を走らせる。
「……あれは! 金糸雀たちは木々の間に隠れて『巫女』を守って!」
「レンはどうするんだ!?」
「時間稼ぎよ!」
レンはそう言って【浮遊】で空中へ。
「あっちだ! あの闇の魔導士を追え!」
「闇って言わないで!」
「【ファイアバレット】!」
敵は攻撃を仕掛けながら追ってくる。
対してレンは【夜風のローブ】による姿勢制御で、これをかわしながら逃避を続ける。
「お、おい、なんだこいつら……」
そして、異変に気づく。
レンがあえて空中を進んだのは、追手が自分を見失わないように。
気が付けば敵の一団は、種子を飛ばし、ツルを叩き付け、捕獲の根を伸ばす危険植物の生息地帯に踏み込んでいた。
「植物型モンスターかッ!!」
直後、始まる危険植物の攻勢。
倒しても倒しても再生してくるやっかいな植物は、時間稼ぎにもってこいだ。
この隙にレンは急いで来た道を戻り、『巫女』たちのもとへ。
「ここで一気に時間を稼がせてもらうわ! 【解放】!」
指を鳴らすと、離れた場所で爆発が起こった。
二面仕掛けの【設置魔法】の片方を、あえて目立つ【フレアバースト】で使用して、離れてから開放。
派手な爆発を見た追手は、まんまと爆発の方向に集まっていく。
「これで余裕ができそうね」
「大したもんだなぁ……あのメイちゃんに加えてレンもこれだもんな。そりゃどこ行っても活躍するわけだ」
「とにかく今は移動しましょう!」
レンたちは見事に敵の一団から距離を取り、人気のないジャングルの奥地へと逃げ込んで行く。
『巫女』もこの土地の育ちという設定のためか、移動スキルこそ持たないが動きは決して悪くない。
逃避を目的としたレンたちの状況は、上々といったところだ。しかし。
「見ぃぃぃつけたんっ!」
木々の隙間を飛来してきたのは、一頭の白竜。
キュービィとココ。
二人の七新星はそのまま白竜を降り、余裕の軟着地。
「あからさまな爆発はぁ、やっぱりオトリだったわねぇん」
「キュービィちゃんすっごーい!」
両手をぱちぱち鳴らして歓喜するココ。
どうやらレンの作戦を一人だけ、見破っていた者がいたようだ。
「みんなぁ、出番よぉーん!」
それだけでは終わらない。
エジプトの女王のような姿をしたキュービィがバチーン! とウィンクを決めると、木々の隙間から現れたのはフロンテラ陣営でも足が速くかつ強力なプレイヤーたち。
部下として連れてきた、準トップ級の面々だ。
狙いは当然『巫女』の捕獲。
「そういうわけだからぁ、『巫女』ちゃんはキュービィちゃんたちがいただくわぁん」
「ココちゃんたちの、お手柄だねっ!」
妖艶なキュービィがウィンクと共に『巫女』を指さし、子供のようなノリの元気少女が「そのとーり!」と下手なウィンクで続く。
決めポーズまでバッチリだ。
「キュービィちゃんはぁ、アルマーダちゃんたちとはちょーっと違うわよん」
「違うのですっ!」
立ちふさがる、二人のトッププレイヤー。
どちらも同じように華やかで、自信たっぷりな笑みを浮かべてみせた。