作品タイトル不明
453.アサシンと弓術師
フロンテラ陣営の本拠地、サンタ・マリーナ号前。
起動キーである『魔獣』を【サクリファイス】と【アサシンピアス】によって残りHP2割のところまで追い込んだツバメ。
しかし一撃必殺とはならず、大きくHPを減らした『魔獣』はトップ二人の背後にあるコンテナに身を隠した。
「こうなっちまったら、アサシンちゃんには覚悟してもらうしかねーじゃん?」
「そういうことですな」
雨の中、木の陰から戦いを見つめるトカゲ。
高まる緊張感に、鳥が飛び立っていく。
「まずはお手並み拝見ですぞ!」
そう言って右手を上げたのは摩訶羅那。
魔法石に金細工を施したペンデュラムが三つ宙に浮かび、襲い掛かって来る。
「【加速】【リブースト】!」
これをV字移動で置き去りにしたツバメは、ダガーによる攻撃を狙う。
「【電光石火】!」
再ブーストを駆けるような形での切り抜け。
「おっと!」
これをかわされはしたものの、トップ二人の間に入ったところで――。
「【紫電】!」
「うおおっ! あっぶねー!」
「危機一髪でしたな!」
「【投擲】!」
雨によって効果範囲を広げた雷光を避けられたところに、【投擲】を続ける。
これも摩訶羅那は軌道を見極め回避に移るが、その瞬間【雷ブレード】が閃光を走らせた。
「くうっ!」
「上手ぁ……っ!」
アンジェラが思わずもらすつぶやき。
手段を変えての二連続放電攻撃に、摩訶羅那は完全に引っかかった。
「【電光石火】!」
この隙を突き、一気に斬り抜ける。さらに。
「【加速】【リブースト】!」
同一方向への連続加速によって、最高速度でアンジェラのもとへ。
「【雷光閃火】!」
「ッ!?」
飛び散る火花を置き去りにして迫る一撃。
その切っ先が、アンジェラのHPをわずかに削る。
「あっぶねーんだけど!」
即座に反撃を叩き込もうと刀を取るアンジェラ。しかし。
「うっわ!?」
そんなアンジェラを狙って放たれた【裂空一矢】が、地面に突き刺さり炸裂。
ツバメはそのまま一度、両者から距離を取った。
「やるじゃん! 援護も超いい感じだし!」
「野生児殿の仲間たちは優秀ですな」
ローランの提案した【紫電】からの【雷ブレード】という、まさかの雨中『雷』二連発。
そして二対一の状況で、トップ二人を『刺し』に来るという貪欲な戦いぶり。
見事な立ち回りに、むしろ二人はうれしそうにする。
「リーダー!」
そこにやって来たのは、騒ぎを察知してやって来たフロンテラプレイヤーたち。
ツバメはあっという間に、周りを囲まれてしまった。
「……援護が止まりましたな。これは弓術師の方も、援護できる状況でなくなったと考えて良さそうですぞ」
「これはさすがにもう決まりじゃね?」
ここでアンジェラは「くあー」と、息をつく。
高い【敏捷】と優れた移動スキルを持つツバメだが、攻撃力の低さ、範囲攻撃の少なさもあり、囲まれてしまうと一気に厳しくなってしまう。
「……もう少しだけ、時間を稼ぎたいところです」
包囲状態のツバメは『魔獣』に視線を向けてつぶやくと、その手にそっと【境界死線】を握る。
それはHPが低い状態ほど攻撃力を上げる、新装備。
右手に【グランブルー】左手に【境界死線】という装備で、先頭に立ちふさがる重装騎士に向けて動き出す。
「【加速】【リブースト】【サクリファイス】【アサシンピアス】!」
「え……っ!?」
一撃で騎士を沈めて、残りHPは残り1割を切った。
ここからが本番だ。
「いきます! 【疾風迅雷】【加速】!」
一発喰らえば終わり。
威力を大幅に上げた【境界死線】を手に、ツバメが走り出す。
「【加速】……【加速】【加速】【加速】」
右のダガーで剣士を落とし、左のダガーで魔導士を沈める。
駆け抜けるのと同時に放っていく一撃が、アサシンとは思えない火力で敵を切り捨てていく。
「【錬気鉄拳】!」
「【リブースト】!」
一瞬の隙を突いて飛び込んできた武闘家の拳をギリギリでかわし、ダメージを回避。
反撃一発で倒して【跳躍】、そのまま空中へ。
「【エアリアル】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
放つ水の刃で、四人まとめて片付ける。
「【投擲】!」
「「「ぐああああっ」」」
そこから魔法を撃ちに来た後衛の一団を、【雷ブレード】で強制停止。
高速移動で敵の隙間に潜り込み、一撃一殺で数を減らしていく。
速く、そして強力。
敵の攻撃がかすめただけで即死という厳しい状況で、一人のアサシンが死の嵐を巻き起こす。
「おいおい、マジかよ……っ!」
「敏捷型アサシンの攻撃力じゃねえぞ!?」
そしてそんな剝き出しの刃状態のツバメを前に、誰もが視線を奪われる状況下。
木の上で夢中で手を叩く猿、木の実を抱えるリス、そしてコンテナへ近づいていくコーギー犬になど、誰も気を止めない。
「おじゃまします」
「「ッ!?」」
巻き起こる煙。
【変化の杖】による『変身』を解き、現れたのはローラン・アゼリア。
これにはさすがに、アンジェラたちも驚愕する。
得意の暗殺を狙ってやって来た一人のアサシン少女は、丸々『オトリ』だった。
慌てて逃げ出す『魔獣』
「逃がさないよ! 【回転跳躍】!」
わずか一歩の助走から舞うジャンプは速く、普通に考えれば矢を当てることなどできるはずがない。
しかし【オートエイム】は、体勢を選ばない。
「【曲芸射撃】【バーストアロー】!」
伸身宙返りで空中に躍り出たローランが放った必殺の一撃は、見事に『魔獣』を射抜き炸裂。
残り2割のHPを削り切ってみせた。
「マジかよ……! 姿をくらまして特攻してきてるヤツが二人いるとか、誰が予想できんだよっ!」
驚きふためく、フロンテラプレイヤー。
「すっげーんだけど!」
「二人目が犬になっていたとは驚きですな」
駆け出すアンジェラ。
その手に妖刀を取り、放つ一閃。
「【ラピッド・ワン】!」
ローランは一歩だけだが早く長い移動スキルで回避して、そのステップ中に洋弓を構える。
「【速射】!」
そのまま矢を三連発。
「チッ! この距離でもやれんのかよっ!」
「【加速】【リブースト】!」
近距離でも戦える弓術師のやっかいさに、舌打ちしたところに駆け込んでくるツバメ。
ダガーによる攻撃をかわされたところで、突然の角度調整。
「【電光石火】!」
高速の切り返しから、斬り抜けを放つ。
「うおおおおっ!?」
大慌てでしゃがみ込み、アンジェラはこれをどうにか回避。
「即席のコンビネーションにしては、見事ですな……!」
「前に一度手合わせてしてたのが、活きた感じかな!」
そう言って爽やかな笑みを見せたローランは、再び弓を構える。
「【五矢撃ち】【バーストアロー】!」
「「「うおおおおお――――っ!?」」」
爆発矢の五発同時撃ち。
これをあえて地面に向けて放つことで巻き起こる、盛大な土煙。
ここは敵陣のど真ん中。
もちろんこのまま戦い続ければ、敗北は必至だ。
すでに目的を達しているツバメたちは、この隙を突き高速移動で密林へ。
煙が晴れた時、すでにツバメたちはこの場から姿を消していた。
「……あいつら、けっこーヤバくね?」
「大したものですな」
アンジェラと摩訶羅那は、驚きに顔を見合わせる。
それでも、この時点ではまだ敗北が決まったわけではない。
「ま、しゃーねえな。どうせイベントクエスト最後にはぶつかんだろーし。今回はあたしたちの負けでいーよ」
二人は慌てることもなく、素直にツバメたちを褒めるのだった。