作品タイトル不明
451.天地狂乱
アングル陣営の起動キーは『像』
砦の前に置かれた高さ5メートルほどの神像に、現れるHPゲージ。
「メイちゃんとグラムのコンビ……!」
「まさかこの不利の中を攻めてくるなんてっ!」
自陣に攻勢をかけられている弱小陣営のエースが仕掛けてきた攻勢に、驚きふためく桜子と瑠璃花。
雨の中、気づいたアングル陣営プレイヤーがすぐに集まってくるが――。
「もらったぞ! 【グングニル】!」
あいさつ代わりに放たれる神槍の投擲。
「うおおっ!?」
重たい破裂音と共に放たれた一撃は、そのまま『像』に直撃して爆発を巻き起こした。
しかしダメージはわずか1割といったところ。
そして『像』の表面の色味が変わる。
「こいつ、耐性を変えてくるのか」
動けず狙いやすいという『像』の不利は、驚異的な耐性によってカバーされている。
神像は戦闘中に弱点属性を変え続け、それ以外の攻撃は1/8にまでダメージが減少する仕様だ。
動けない分、強力。
「慌てるな! この仕様なら負けねえはずだ!」
「その通りだ! この二人に属性攻撃の手数はない!」
「……ふん、だからどうした?」
あがる声を、グラムは気にもかけない。
戻ってきた神槍をその手につかみ、鼻を鳴らすと――。
「いくぞメイ!」
「りょうかいですっ!」
「「「ファイアシェル!」」」
「【ソニックドライブ】!」
後衛組が並んで放つ炎の砲弾を前方への高速移動で回避し、そのまま槍を引く。
「――――【斬空閃花】!」
「「「うあああああっ!」」」
特攻を仕掛けてきた前衛陣を六連の斬撃で吹き飛ばすと、その横をメイが駆け抜けていく。
「【ソードバッシュ】!」
「「「ぎゃああああああ――っ!!」」」
すると肩と籠手だけ残した和鎧にブーツ、両手には長さの違うナイフ。
忍者でありながら和洋折衷の装備をまとったお団子少女、瑠璃花が飛び込んできた。
「メイちゃんはここで止めなきゃっ! 【輝刃降臨】!」
高い【敏捷】に、攻撃速度の速いナイフ装備。
光の刃をまとうことで攻撃範囲を伸長するスキルを使用して、襲い掛かる。
その刃渡りは今、2メートル。
「【双刃乱舞】!」
真正面から踏み込んできた高速の乱舞。
「【バンビステップ】!」
これをメイは細かな足の運びでしっかり回避。
「そこまでだーっ!」
「うわっと! 【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
続く桜子の飛びかかりに驚くも、大きな前方宙返りでかわす。すると。
「【クインビー・アサルト】!」
「「ッ!?」」
メイと入れ替わるようにして、砂煙をあげて突き進んできたグラムが必殺の突きを放つ。
「うおおおおーっ!?」
桜子たちは共にギリギリで直撃をかわしたものの、続く爆発に地面を転がった。
「いきますっ!」
そして空中のメイは、手にした剣を掲げる。
「ジャンピング【ソードバッシュ】だああああ――――ッ!!」
「「「うわああああああ――――っ!!」」」
突き進む衝撃波は敵を消し飛ばしながら『像』に炸裂。
二人のコンビネーションによって、神像のHPを早くも4割ほど削り取った。
「も、もう4割!? 嘘だろ!?」
1/8の減衰を受けてなお4割のダメージを与えた驚異の連携に、驚愕する。
「わっはっは! いちいち使用属性を変えたりなどするものか! 耐性など、我らの前では意味がないということを教えてやろう!」
「がんばりますっ!」
「……と、止まんな! 意地でもこの二人を止めるんだー!!」
桜子の声が響き、駆け出した瑠璃花が新たに光の刃を発する。
「【輝刃降臨】【稲穂狩り】!」
放つ二連の水平斬りは、さらに伸長して長さ約5メートル。
いきなり伸びた光の刃に驚きながらも、メイはこれをしゃがんで回避。
そのままバク転で体勢を立て直し、二度のバックステップで追撃を回避すると――。
「撃て! とにかく撃て! 当てて体勢を崩せばいけるはずだ!」
後衛組はメイを狙い、一斉に魔法を放った。
「ほう?」
飛んでくる大量の魔法。
グラムはメイの前に飛び出すと、手にした槍を突き出す。
「【大車輪】!」
バトンの様に高速回転する神槍。
メイのもとに飛んで来た魔法は、全てグラムの防御スキルに消し飛ばされた。
「すごーい!」
対魔法スキルで全てをかき消したグラムは「どうだ?」と、得意げに笑う。そして。
「ありがとうグラムちゃん! いきますっ!」
代わって先頭に飛び出したメイが、剣を振り上げる。
「【ソードバッシュ】だあーっ!」
「「「うわああああああ――――ッ!!」」」
「きたっ! 【ソードバッシュ】だぞ!」
メイの動画をこれまで幾度となく見てきた桜子たちは、これを速い感知で回避。
一転、攻撃直後の隙を突きにいく。
「【ソニックドライブ】」
しかしここに再び割って入ったのはグラム。
「まずッ!」
振り上げた神槍を、桜子は急停止でかわす。
するとそこに飛び込んできたのは瑠璃花。
光刃をまとった短剣で、速い踏み込みと共に放つ振り払い。
「【ソニックドライブ】!」
これを後方への高速移動でかわす。
【ソニックドライブ】の連発による高速移動は、グラムの得意技だ。
しかし瑠璃花は止まらない。
「【輝刃降臨】【瞬天一殺】!」
消えるほどに早い、刺突の一撃。
一瞬にして伸びる光刃の長さは、なんと15メートルに及ぶ。
視界から一時的に消えてしまうことが恐れられている、閃光のようなスキル。
グラムとはいえ、さすがに虚を突かれた状況からの回避は不可能だった。
「やった!」
「やったぞ!!」
降り続く雨の中、アングル陣営のプレイヤーたちが歓喜の声を上げる。
「……まあまあだな。どこの誰かは知れないが、陣営のトップだけはある」
しかし被弾直前に【鬼神の加護】を使用したことで、物理攻撃耐性を大幅に上昇させていたグラム。
ダメージは極めて軽微。
「……マジかよ。神槍のグラム、やっぱめちゃくちゃ強えっ!」
「ふん。今回はたまたま偶然、惜しくも僅差でメイがリーダーとなったが、本来私も十二分にリーダーとなりうる存在。それは我が陣営に……『最強』が二人いるということだ!」
「【ラビットジャンプ】!」
「「ッ!!」」
グラムの背後から飛び込んできたメイは、【アクロバット】で前方回転。
手にした剣を、そのまま叩き込む。
「【ソードバッシュ】だああああっ!」
「おわーっ!?」
「きゃあっ!」
巻き起こる暴風に、桜子たちは吹き飛ばされた。
突き進む衝撃波は『像』に直撃し、さらに3割近くHPゲージを減少。
「行くぞメイ、このまま『像』を叩き潰す!」
「りょうかいですっ!」
「あ、集めろ! とにかく『像』の前に人を集めて壁を作るんだ!」
「防御スキルのあるやつは補助もらって前に出ろ! 意地でも『像』を守り抜け!」
異変を聞きつけ集まってきた大量のアングルプレイヤーが分厚い壁となり、守りを固めていく。
重装の戦士たちは盾を構えて並び、完全な防御体勢に移行。
そしてその隙間を縫って、速い前衛とトップ二人が攻撃を仕掛けに来る。
「「「【サンダーシェル】!」」」
ここで後衛の魔導士たちが頭を働かせた。
降り落ちる雨の中で放った光の砲弾は、『雷属性』魔法。
この雨の中でなら大きく範囲を広げ、硬直まで奪う起死回生の一撃となる。
「……いけるぞ」
迫る前衛が、思わずつぶやく。
この人数を前に硬直を引き起こせば、状況は一気に逆転する。
それはアングル陣営への突撃を開始してから起きた、初めてのピンチ。
しかしメイは、顔色を変えることもない。
「おねがいしますっ!」
そう言って手を上げると、木々の隙間からひょこっと顔を出していたイタチが飛び込んできた。
放つ爆風が、雨を払う。
そして雨がなくなれば、魔法の効果範囲は変わらない。
雷の弾丸炸裂魔法は、虚しく横を通り過ぎて行くだけだ。
「ありがとーっ! グラムちゃん、ここであのすごいやつをお願いしますっ!」
「い、いいだろう。特別だぞ! 【ソニックドライブ】【雷煌震砲】!」
速い踏み込みから突き出す左手。
まばゆい輝きが大きく広がり、炸裂する。
「「きゃああああっ!!」」
その凄まじい衝撃に、桜子と瑠璃花が地を転がる。
まだまだ分厚いアングル陣営の壁の前に、生まれた空間。
メイは今まさに必殺の一撃を放ったばかりの、グラムの腕を取った。
「お、おい! 何をするっ!?」
「いきますっ! 【ゴリラアーム】!」
スキルを発動し、メイはグラムの手をつかんだままグルグルと三回転。
「せーの! それええええええ――――っ!!」
「な、なんだ!? なんだこれはああああああ――――!?」
そのまま容赦のないぶん投げで、グラムを空中へ。
これには敵陣営の誰もが、視線を奪われる。
「……そういうことか!」
高く高く宙を舞うグラムはここで、その狙いに気づく。
「よろしくおねがいしますっ!」
聞こえてきたメイの声。
そしてアングル陣営の壁を飛び越えたグラムの真下にあるのは、狙いの『像』
「いいだろう! この私に任せるがいいっ!」
神槍をターゲットに向け、必殺のスキルを発動する。
「【クインビー・アサルト】ォォォォ!!」
空中に波紋のような衝撃波を残して、グラムは上空から急降下。
「これで、終わりだぁぁぁぁ――――っ!!」
そのまま神槍を『像』の天辺に突き刺した。
広がる暴風。
そして一瞬遅れて巻き起こる、盛大な爆発。
「「「うおおおおおおおお――――ッ!!」」」
神槍の一撃によって『像』の上半身が爆発し、粉々に砕け散った。
「覚えておくがいい。耐性など我らの前では意味をなさないのだとな。帰るぞメイ!」
「りょうかいですっ!」
吹き飛ばされ、唖然とするアングル陣営。
二人は即座に踵を返す。
「【バンビステップ】!」
「今回は命拾いしたな。【ソニックドライブ】!」
桜子と瑠璃花にそう言い残すと、驚異的な移動速度でアングル陣営から去って行った。
「……つ、強すぎる」
その圧倒的な攻撃威力と速さ。
「あれが神槍のグラム。そして……野生児のメイ……っ」
「野生児ではございませーん!」
そしてその早すぎる返答に、残されたアングル陣営はただただ呆然とするのだった。