作品タイトル不明
415.大魔導士と狼少女
「かつて魔法界は、その総力をもって我に挑んだ」
アーデンバルドは、薄く笑みを浮かべる。
「……贄ども。偉大なる我が復活を祝し、啼き、わめき、鮮血と共に散れ。余興の任を全うせよ」
そしてその手を、軽く払うと――。
「【ひれ伏せ】」
「「「きたっ!!」」」
広がる魔力の波紋に、皆大慌てでその場にしゃがみ込む。
一度戦況が落ち着いていたこともあり、今回は問題なく回避に成功した。
いまだ7割のHPを残すアーデンバルドは、床張り付き状態の攻略組に向けてそっと手を伸ばす。
「【グラビトロン】」
放たれた黒の魔力球はこれまでの攻撃と違い、ふわっとした速度で飛んでくる。
そして小さく炸裂すると、次の瞬間付近一帯のプレイヤーたちを『炸裂地点』に強く引き寄せる。
「わ、わわわわわ!」
「引力を使った攻撃!?」
「引き込まれるるるーっ!」
【ひれ伏せ】回避のために、体勢を低くしていた攻略組。
凝縮する空間に引き寄せられ、一気に足を持っていかれる。
そして前方にいたメイたちが、引きずり込まれたところで――。
「【失せろ】」
手の振り払いと共に、巻き起こる衝撃波。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
前衛二人はギリギリのところで攻撃範囲から退避。
「「きゃあっ!!」」
しかしレンとメルーナは吹き飛ばされて大きく床を転がり、両者共に4割に及ぶダメージを受けた。
「【デウスイーター】」
アーデンバルドは攻勢を続ける。
続けざまに放つ魔法は、竜の咆哮を思わせる高音を響かせた。
収束する魔力が巨大なアギトとなり、猛スピードで迫りくる。
「この範囲の広さは、さすがに……っ!」
着地際を狙われたメイたちには、回避のしようがなく直撃。
「くっ!」
「わああああーっ!」
巻き起こる魔力光の爆発。
着地がわずかに早かったツバメは、防御でダメージを軽減して3割。
ほぼ直撃だったメイも、2割強のダメージを取られた。
「まだ、続くのですかっ!?」
魔法の飛沫が舞う中、アーデンバルドはトドメとばかりに両手を広げる。
「【エビル・ハイロウ】」
その頭上に浮かび上がる、大小二つの光輪。
一度強く輝くと、大量の光線が降り注ぐ。
「お、おおおおーっ!? なんだこれはぁぁぁぁーっ!?」
その怒涛の物量に、騒然とする魔法学校住人たち。
「わあっ!?」
メイも降り注ぐ光線の一つが身体をかすめ、それによって体勢を崩したところに次弾が直撃。
1割のダメージを受けて転がった。
「これはちょっと、レベルが違うわね……」
「今までとはー、格が違う」
「これは……さすがに厳しいか」
大きくHPを減らした魔法学校住民は、言葉を失う。
『星屑』屈指の強敵と言ってもいい完全体アーデンバルドの見せる余裕の態度に、流れ出す敗北の気配。
しかし、メイは動じなかった。
「……これだったら、いけるかも」
窮地の中で、不意にもれたつぶやき。
「メイ、何か思いついたの?」
「うんっ! レンちゃん、上手くいったら応援よろしくお願いします! 【装備変更】っ!」
そう言って笑うと、メイは頭装備を【狼耳】に変更。
「それではいきます! 【バンビステップ】!」
走り出し、一気に距離を詰めていく。
「【ゆけ、我が臣下ども】」
迎え撃つのは、多量の炎獣たち。
だが【狼耳】は夜間、【腕力】と【敏捷】を大きく上げる。
メイは犬型の体当たりをかわし、鳥型の飛来を首の動きだけで回避。
足元を駆けてきた猪型を跳び込み前転で飛び越えると、早い起き上がりから――。
「【キャットパンチ】!」
振り上げの猫パンチを、アーデンバルドに叩き込んだ。
さらに降りおろしパンチを決めたところで後方へ小さく跳躍、猿型炎獣の飛びかかりを回避する。
「【キャットパンチ】!」
即座に大きく踏み込んで、再び振り上げるパンチ。
近距離戦の継続を許さないよう徹底しているアーデンバルドは、影に潜ることで後方への退避を計る。
浮かび上がったところで放つのは、【ひれ伏せ】だ。
しかしすでにメイは目前。
「【キャットパンチ】! からの【キャットパンチ】!」
続く二連撃で【ひれ伏せ】をキャンセルさせて、左右から迫る狼型炎獣たちの喰らい付きを真上への跳躍で回避。
炎獣はぶつかり弾け散る。
「【追え】」
放たれた炎弾。
その誘導性も、わずか2メートルの距離では効果なし。
難なくかわしてパンチ、鳥型炎獣の飛来をかわしてパンチ、飛び込み前転で【散れ】をかわして振り上げるパンチ。
最後に獅子型炎獣の突撃を前方への跳躍でかわしつつ、身体を一回転。
「【カンガルーキック】!」
叩き込む蹴りで、アーデンバルドを圧倒。
「大魔法使いを、拳と蹴りで……」
獲物を追う肉食獣のような動きに、唖然とする魔法学校住人たち。
【狼耳】は前転や側転、ターンといった行動への補正が強く、姿勢の立ち直りがとにかく速い。
その異常な小回りの良さに常時高速移動が付くことで、『張り付く』ような戦い方が可能だ。
アーデンバルドは影に潜って距離を取ろうとするが、メイはそれを許さない。
「もう一回【カンガルーキック】だーっ!」
低い姿勢の疾走で、影の移動先に先行して蹴りを叩き込む。
すると大きく弾かれたアーデンバルドは、両手を開いた。
「【エビル・ハイロウ】」
頭上高くに生まれる二重の円環。
一斉に降り注ぐ黄金の光線は、不可避の必殺魔法だ。
「それっ!」
それでもメイは動じない。
第一波の光線を横っ飛びでかわし、そのまま地面をゴロゴロ二回転。
即座に身体を起こして降り注ぐ光線の隙間を駆け、前方から飛んで来た光の乱舞を飛び込み前転で抜けていく。
そのまま前回り受け身のような動きで次撃をかわして跳躍、斜め前方から迫る四連続の光線をきりもみ回転で越え、右手から着地。
「すげえ……っ!」
なんとメイは二足と四足を織り交ぜるような動きで、【エビル・ハイロウ】をノーダメージで切り抜けてみせた。
「……よーい、どんっ!」
そして、真っすぐに走り出す。
常時高速移動と驚異的な姿勢制御による張り付き。
獣のような戦い方が、流れを変える。
「【守れ】」
一気に距離を詰めてきたメイの小さな跳躍に合わせて、取り出す【黒光のマント】
アーデンバルドが、得意の防御体勢に入ったところで――。
「待ってましたー! 【カンガルーキック】!」
放つ前蹴り。
威力は決して高くないが、そのスキルは敵の『防御』を打ち消すことができる。
アーデンバルドはその体勢を、大きく崩した。
「今よっ! ここしかないわっ!!」
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
「【アクアストライク】!」
「【フリーズブラスト】!」
蹴りからの後方跳躍で距離を取るメイと入れ替わるように、ツバメが高速移動からの斬り抜けで崩しを維持。
メルーナとレンが水と氷結の連携で凍結に追い込めば、その後に続くのは魔法学校住人たち。
「【ファイアシェル】!」
「【フロストエッジ】!」
「【ウィンドストライク】!」
その連続攻撃に、アーデンバルドはさらにバランスを崩した。
「――――よろしくお願いいたします!」
ここでメイが勢いよく右手を突き上げる。
魔法陣から現れたのは、大きなオーブの付いた魔法杖を持ち、魔法学校のローブをまとった巨大クマ。
背中にしがみつく、短杖持ちの子グマを連れたまま走り出す。
跳躍と同時に掲げた杖の先端に灯る、灼熱の豪炎。
動けずにいる悪の大魔法使いに向けて振り上げた業火の杖をそのまま放棄して、【グレート・ベアクロー】を叩き込む。
「まだまだいきますっ! 【蓄食】っ!」
地面にたたきつけられ、大きく弾き飛ばされたアーデンバルド。
さらにこの隙を使い、メイは【蓄食】を使用。
誰もがクマに意識を奪われている中、バナナを乱用して一気に【腕力】を向上する。
一方、体勢を立て直したアーデンバルドは右手を突き出した。
「【デウスイーター】」
放たれる超高火力魔法。
輝く竜のアギトが、真っすぐメイに迫る。
「がおおおおおおおお――――――ッ!!」
肌がビリビリと震えるほどの猛烈な叫び。
強化された【雄たけび】でアーデンバルドの奥義をかき消し、メイは走り出す。
「【ディアボロ・イーター】」
「がおおおおおおおお――――――ッ!!」
迫る悪魔のアギトも、やはりメイには届かない。
するとアーデンバルドは、両手を同時に突き出した。
「――――喰い尽くせ【ガイア・イーター】!」
右手に輝く魔力光。
続けて左手にも強烈な魔力光があふれ出す。
そして二つの輝きが、一つの巨大な魔法に変わる。
【デウス・イーター】と【ディアボロ・イーター】
右手と左手で同時に大魔法を使い、それを統合して放つ必殺スキル。
魔法世界最高の才能。
アーデンバルドを包む爆発的な魔力光の輝きに、魔導士の誰もが戦慄する。
「勝負ですっ!」
だが、それでもメイは動じない。
爆発的な魔力光を散らしながら迫る極大魔法に、真正面から駆け込んだメイは大きく息を吸い――。
「がおおおおおおおおおお――――――ッ!!」
最終奥義の一撃まで、見事にかき消した。
まばゆい魔力の飛沫の中を、メイは目にも止まらぬ速さで駆け抜けていく。
「【ラビットジャンプ】! 【装備変更】っ!」
そして高く飛び上がると、その手に【大地の石斧】をつかんだ。
「いきますっ! 【地裂撃】ィィィィ――ッ!!」
炸裂と同時に、大きく陥没する床石。
この時点ですでに、底が見えないほどの規模に強化されていることに、レンとツバメが息を飲む。
「からの――! 【グレート・キャニオン】だぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」
【蓄食】使用の【グレート・キャニオン】
それはもはや、地殻変動を思わせるパワーを持った一撃。
足元から突き上がった巨大な岩壁が、アーデンバルドを問答無用で打ち上げる。
響き渡る爆音と共に砕け、消えていく岩壁。
残りHPはもう、残りわずか。
「皆さん、よろしくお願いしますっ!」
「いけーっ! ありったけを撃ち込むんだ!!」
放たれた色とりどりの魔法たちは、メイの左右を通り抜けて直撃。
怒涛の攻撃によって舞う燐光。
「【装備変更】」
【グレート・キャニオン】の硬直が解けるのと同時に、メイはゆっくりと剣を掲げる。
「いきますっ! 最後は必殺の……全力【ソードバッシュ】だぁぁぁぁ――っ!!」
「「「うおおおおっ!!」」」
悪の大魔法使いに放たれた、剣の一撃。
その勢いに、誰もが思わず足を引く。
【蓄食】によって大きく威力を上げた衝撃波の一撃は、そのままホール内を荒れ狂い、アーデンバルドを消し飛ばして天井のステンドグラスを突き破った。
「バ、バカな……」
パラパラと舞い散る鮮やかなガラス片の中、ホール中央に落ちてきたアーデンバルド。
「我は世界最高の才を持つ、至高の大魔法使いだぞ……」
その顔は怒りと驚愕にゆがみ、素体はボロボロと虚しく崩れ落ちていく。
「完全な力をもって復活しながら、どこの者とも知らぬ下賤の輩に、名もなき弱者に、この我が敗れるというのかァァァァァァ――――ッ!?」
響き渡る怨嗟の咆哮。
立ち昇っては消えていく魔力の燐光と共に、崩壊していく素体。
再び身体を失った大魔法使いはこうして、終焉を迎えたのだった。