作品タイトル不明
413.瞬間、魔法重ねて
残りHPが半分を割り【魔竜薬】を投入したオーブルは、灰色の竜鱗をまとった二足の化物にその身を変えた。
目や口内を煌々と赤く輝かせ、全身から黒い魔力が噴き出している。
「さすがに、フラム秘蔵の獅子を倒しただけのことはある……」
中でもその両腕はひときわ大きく、つかまれれば大きなダメージを受けることになりそうだ。
「だがそれもここまで」
右手を上げると、フロアの魔導士像が動き出す。
それを見た魔法学校住人たちは、即座に分担を理解。
「こいつらは俺たちが抑えるんだ」
メイたちの戦いをサポートするため、魔導士像に意識を向ける。
「……オマエたちはここで、アーデンバルド様の贄となれェェェェ――ッ!!」
オーブルはその強大化した両腕を開き、咆哮をあげた。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
先行したのはメイとツバメ。
駆け出す二人の前で、オーブルはわずかに体勢を後方へ倒すと――。
「ゴァァァァァァ――――ッ!!」
強烈な叫び声と共に、黒炎を吐き出した。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
ビリビリと身体を振るわせる叫びは、猛烈な黒炎を広範囲へ噴き散らかす。
「ッ!」
その範囲の広さに、ツバメはわずかに焼かれて1割強のダメージを受けた。
「【加速】【リブースト】!」
着地と同時に一転、距離を詰めに行くツバメ。
オーブルが片手を地に着けると、地面から石壁が突き上がる。
「ッ!?」
幅3メートル、高さ5メートルになろうかという石壁は、攻撃と防御の二つに使える強スキル。
「くっ!」
すでに最高加速状態だったツバメは、そのまま激突して弾かれる。
微量のダメージを取られて転倒させられた。
「【一撃強化】」
聞こえた低い声。
投薬を行ったオーブルの身体が赤く輝き、振り上げた大きな腕をそのまま叩き付けにいく。
使用直後の攻撃威力を、大きく上げる補助スキル。
荒い赤光のエフェクトを描きながら振り下ろされる腕が、自らの生みだした石壁を砕きツバメに向かう。
「っ!」
これをツバメは、後転で運良く回避。
砕ける波のような赤光の飛沫に、思わず目を見開く。
そして思った以上に、この一撃の隙は大きくない。
「やああああーっ!」
この隙を突いて飛び込んできたメイに向かって振り返ると、その巨大な手でつかみ上げた。
「ええっ!?」
するとオーブルの竜手の中に禍々しい赤光が集まり、そのまま爆発。
「うわあーっ!」
メイは爆破の衝撃に大きく吹き飛ばされ、1割半ほどのダメージを受けた。
「【アクアストライク】!」
「【フリーズブラスト】!」
この隙にレンとメルーナは、凍結を狙った連携魔法を放つ。
しかしオーブルが大きく息を吸うと、魔法が口内に吸い込まれた。
「……この展開っ!」
「この後が予想できるー!」
「避けてぇぇぇぇ――――っ!!」
レンが叫ぶ。
予想通りオーブルは、吸い込んだ二つの上級魔法を『一発の魔力砲』に換えて吐き出した。
喰らえば大ダメージ必至の攻撃。
レンの叫びで事態を把握した魔法学校の面々は、慌てて魔導士像との戦いを停止、ギリギリの回避に成功して息をつく。
見ればスライムも、身体をぐにゃりと曲げていた。
オーブルは攻勢を緩めない。
前方宙返りから、その巨碗でつかみかかってくる。
「【加速】」
これをツバメは、後方への速いステップでかわす。
それを追う形で放たれる黒炎咆哮も、【リブースト】で回避した。
「【バンビステップ】!」
その間を突いて、反対側から駆けてきたメイを石壁でけん制。
攻撃と防御を同時に狙う。
「それならっ! 【フルスイング】!」
しかし石壁を【腕力】で砕き割り、メイはオーブルの懐へ。
するとその両眼が鋭く輝いた。
「【魔竜眼】」
目から走る二本の光線が、斜めに駆け抜けていく。
嫌な予感に慌てて転がるメイ。
「「「ッ!!」」」
その効果は石化。
喰らった魔法学校住人たちの一部が、身動きをとれなくなってしまった。
石化というやっかいな効果で範囲まで広いというのは、もはや反則だ。
足が止まってしまう攻略組を前に、オーブルは反撃に転じる。
「っ!」
特攻から叩き付ける巨大な腕。
これをメイが速い移動でかわすと、すぐさま黒炎咆哮へとつなぐ。
「【アクロバット】からの【アクロバット】! もう一回【アクロバット】!」
連続バク転でこれを回避して、【バンビステップ】で走り出すメイ。
「うわっ!」
その目前につき上がる石壁。
「【ラビットジャンプ】!」
それをメイが慌てて跳び超えると、その後に続いたのはリリーネ。
「【ペネトレーション】【マジックエコー】【エーテルキャノン】!」
放った二連発の魔力砲が石壁を突き抜け、ダメージを奪う。
「ないすーっ!」
思わずリリーネに笑いかけるメイ。
青バラは少し照れくさそうに「フン」と鼻を鳴らす。
見事な連携で、残りHPは4割まで減少。
「【魔竜眼】」
「「「ッ!!」」」
直後に放たれた石化光線から、大慌てで距離を取る。
続く黒炎咆哮は、メイの足をかすめていった。
その勢いは止まらない。
「クインフォード魔法学校……惚けた学校生活など今日で終わりだ! この城を拠点に、我らが世界を奪うのだァァァァ!」
「……なんとかー、隙を作ってほしい」
オーブルの言葉に、真剣な面持ちでつぶやくメルーナ。
「メイさん!」
「ツバメちゃん!」
すると並んで駆ける二人が、わずかな言葉でコンビネーションを確認してほほ笑み合う。
二人にはもう、オーブルがどの距離でどんなスキルを使用するか想定できている。
「いきますっ!」
一人先行するのはメイ。
「【一撃強化】!」
すると狙い通り、オーブルは黒炎咆哮でメイを狙い撃ってきた。
強化スキル乗せの一撃は、すさまじい勢いで一帯を焼き尽くす。
それは予想外の範囲そして高威力。だが。
「【装備変更】!」
現れた【王者のマント】は、強化された黒炎すらかき消し払う。
「いきます! 【リブースト】【跳躍】!」
そして仁王立ち状態のメイの背後に続くことで炎から身を守ったツバメが、その背から飛び出していく。
「【エアリアル】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
放つ四連続の剣撃は、見事にオーブルを切り裂いた。
ツバメは着地と同時に追撃を仕掛けにいくが――。
「【一撃強化】【竜碗黒手】!」
目前で竜の巨碗が展開。
「なんて広い捕縛範囲……っ!」
そのままツバメをつかみ上げると、猛烈な勢いで収縮する赤光の輝き。
盛大な爆発を巻き起こし、散らばる光の飛沫はもちろん即死級だ。
「――――ですが、それは残像です」
だがすでに知っている攻撃となれば、問題なし。
爆発の余波が付近を駆け抜けていく中、ツバメはダガーを構えると――。
「【ヴェノム・エンチャント】【八連剣舞】!」
【一撃強化】からの【竜碗黒手】を抜け出されて隙だらけのオーブルに、八連撃を叩き込む。
「グアアアアアア――――ッ!」
即座に炸裂する毒性。
オーブルは大きく体勢を崩して、ヒザを突く。
「レン、準備はいいー?」
「当然よ」
その目を熱く燃やすメルーナが杖を突き上げると、レンもその腕に巻いた【宵闇の包帯】を外す。
風に吹かれるようにほどけていく包帯と共に、腕の封印も解かれる。
【魔眼開放】によって金色に変えた眼は、まさに秘められし力を開放する闇の魔導士そのものだ。
「【スターダスト】!」
「【ファイアボルト】!」
夜空に散らばる星のように、広がる無数の魔力光弾。
その落下に合わせて放たれる、多量の炎弾。
二人の放つ『魔力弾スキル』が、フロアを照らし出した瞬間。
「【ミラージュ】【エーテルバレット】!」
そこにタイミングよく続いたのは、青バラのリリーネ。
それはホウキレース時にメイを狙い撃った、魔力弾の乱舞スキルだ。
フロア中に広がった、無限にも思える魔力光の輝き。
「クインフォードはー、奪わせない……っ! 【コレクト】――――っ!!」
三人の放った輝きの全てが、ヒザを突いたままのオーブル目がけて一斉に降り注ぐ。
「わあ……っ」
「前回よりさらに見た目も、威力も上です」
そのまばゆさに思わず目を閉じてしまうそうなほどの、怒涛の流星落下。
「グアアアアアアアア――――ッ!!」
魔法学校住人たちも言葉を失うほどの壮大なエフェクトと共に炸裂し、HPを凄まじい速度で削り取っていく。
勝負あり。ボロボロになったオーブルは倒れ伏す。
その魔力がなくなったことで、魔導士像たちも動きを止めた。
「……並みの生徒ではないと思ってはいたが、まさか……ここまでとは……っ」
鈍い輝きを灯す赤眼を向け、つぶやくオーブル。
「ククク、ハハハハハ……」
一転、笑い出す。
「だが、時は満ちた」
フロアから続く大ホール。
そこから禍々しい光の点滅と共に、風が吹き込んできた。
「……さあ、アーデンバルド様の復活だ。世界は偉大なる大魔法使いによって、掌握されるのだァァァァ――ッ!!」