軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

412.黒幕

「……世界の新たなる統治者の復活を祝して、ここクインフォードにて生贄の儀を始める」

そう宣言した薬学教授オーブルが自らへの投薬を行うと、その肌の色が濃いグレーに変わった。

体躯も3メートルを超え、黒い筋が走った腕はさらに一回り大きくなった。

どこか爬虫類じみた姿に、赤い目。

その恐ろしい姿に、思わず息を飲む。

「負けたらクインフォードがダンジョンに……き、緊張するるるる」

杖を強く握りしめるメルーナ。魔法学校民も緊張に震える。

復活の儀式はすでに、始まっている。

「……栄えある生贄の諸君。アーデンバルド様に、その血を捧げるのだ――――ッ!!」

「「「ッ!!」」」

強靭な脚力による飛び掛かりで、始まる戦い。

猛烈な速度で放たれる右腕の振り降ろしは、先頭にいたメイを狙う。

「ッ!」

これをメイはしっかり見据えて、小さなバックステップで回避。

「【アクロバット】!」

続く左腕の振り払いを華麗なバク転でかわすと、大きく踏み込んだオーブルは再び右手を開いて叩き付けを二連発。

メイはこれも軌道をしっかり見て右へのステップで避けた後、再び【アクロバット】で回避。

「メイじゃなきゃ喰らってたわね……!」

速攻の四連撃が上げる砂煙に、苦笑いを浮かべるレン。

オーブルは続け様に右腕を引くと、強く前方へ突き出した。

すると血管のように刻まれている黒い筋が一斉に伸び、イバラのように付近一帯に広がっていく。

「【バンビステップ】!」

「【加速】!」

「わあ! 追いかけてくるよーっ!」

メイとツバメはこれを速い移動で回避したが、黒のイバラは前衛コンビの後を追う。

その範囲は長く、そして広い。

さらにオーブルが獣のようになった口を大きく開くと、その内に輝く赤光。

「ツバメちゃん! 来るよっ!」

「ッ!」

回避の最中でも、メイの広い視野は見逃さない。

捕獲用スキルである黒のイバラは、捕まえて良し、捕まえられなくてもプレイヤーの視線を奪うことのできるスキルだ。

その隙を突いて放たれる赤光砲は当然、回避難易度の高い一撃となる。

「【リブースト】! 【跳躍】!」

「【ラビットジャンプ】!」

炸裂する赤光砲。

メイの注意喚起によって、ツバメも見事にその爆発を回避した。

「ありがとうございます!」

「いえいえっ!」

前衛二人は空中で視線を合わせ、笑い合う。

「メルーナ! 今よ!」

もちろんこの隙を、レンは逃さない。

「【フレアストライク】!」

「【アクアストライク】!」

さらにリリーネも、金の飾り付きの短杖を構えた。

「【マジックエコー】【エーテルストライク】!」

レンとメルーナの魔法が直撃した直後、リリーネの二連魔法が追撃。

三人の魔法は、見事にオーブルの体勢を崩させた。

レンはここからさらに攻勢を仕掛けていく。

「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」

杖を向け、魔法を連射。

一方のオーブルも、その口から赤光弾を連発する。

「【アクアバレット】!」

そこにメルーナが水弾の連射で続き、ぶつかり合う光弾の勢いは拮抗。

するとさらに。

「【エーテルバレット】」

リリーネも、クエストのボスとして君臨していた時と変わらぬ速度で魔法を連射する。

学生寮塔で戦った三人の魔導士が並んで魔法を放つ姿に、魔法学校住人たちが息を飲む。

三人が同時に放つ連射は、もはや機関銃のような勢いだ。

赤光弾を打ち消し、押し切り、直撃。

初級魔法にもかかわらず、オーブルのHPを削っていく。

「ガァァァァァァ――――ッ!!」

もちろんオーブルも、そのままでいたりはしない。

「来たれ! 我が盾よ!」

フロア内に並んだ魔導士像の一つを呼びつけ、自らの盾にする。

「なるほど、この像はこういう使い方もできるのね!」

レンはそう言って唇を噛む。しかし。

「【ペネトレーション】【ライトニングフレア】!」

「「ッ!?」」

レンとメルーナは同時に目を見開いた。

まばゆい輝きと共に放たれたリリーネの閃光魔法は、盾となった石像を砕き、さらに後方へすり抜けてオーブルにまでダメージを与えてみせた。

「……か、貫通? 青バラ強くない? 敵として強かったキャラって、味方になったら弱体化するのが基本じゃないの?」

「驚いたー」

消えゆく閃熱を前に、走り出す前衛二人。

「【一撃強化】」

するとオーブルは【強化剤】を投入し、その肉体を一回り巨大化させる。

それは次の攻撃の威力を大きく上昇させる薬師スキルだ。

跳躍から放つ、拳の叩き付け。

「うわっと! 【アクロバット】!」

「【加速】【リブースト】!」

地面を砕き、せり上げるほどの一撃を、二人は高速移動で回避。

メイの大きな動きにオーブルの視線が向いたところで、ツバメがI字ターンで攻撃に向かう。

「ッ!!」

そして、輝く赤い瞳ににらみ付けられた。

完全にメイを意識していたように見えたオーブルだが、その狙いはまさかのツバメ。

巨大化した手を振るい、ツバメをつかみ上げる。

「う、くっ!」

オーブルはそのままツバメを床に一度たたきつけた後、空中高くへと放り投げた。

「ツバメちゃんっ!」

おとずれた窮地にしかし、ツバメは閃きを覚える。

「大丈夫ですっ! 皆さん、この隙を突いてくださいっ!」

空中に投じたツバメに向けて放たれるのは、強烈な赤光砲弾。

衝撃波と共に放たれた高火力の一撃は、そのままツバメに向けて飛んで行き――。

「【エアリアル】! 【跳躍】!」

肩をかすめ、HPを2割ほど持っていかれたものの大事には至らない。

結果としてオーブルに、大きな隙を晒させることに成功した。

そしてすでにメルーナは、反撃に転じていた。

「【アクアグレネード】!」

「【サンダーボルト】!」

続いたのは意外にもリリーネ。

水の炸裂を喰らったオーブルの全身を、雷光が派手な輝きと共に駆け抜ける。

見事な連携で生まれる『感電』効果。

「俺たちも続くぞ! 【ファイアシェル】!」

「【スプリットボム】!」

「【ウィンドストライク】!」

炸裂する魔法攻撃。

生まれた新たな隙を見て、メイが大きく右手を突き上げた。

「それでは――――おいでくださいませ、狼さんっ!」

現れた魔法陣から吹き出す吹雪。

フロアを白く染める白煙と共に、一頭の巨大な狼が現れる。

「ウォオオオオオオオオ――――!!」

灰色狼は遠吠えと共に走り出し、感電していたオーブルに喰らいつく。

そしてそのまま天を仰ぐと、口内に集まった白い輝きが爆発。

吹き飛んだオーブルは凍結に追い込まれた。

当然レンも、この流れを逃さない。

「一気に押し切るわ!」

【銀閃の杖】を、静かにオーブルへと差し向ける。

そしてそんなレンを見て、ツバメはすぐに意図を読み取った。

「……君臨するは贄の王、重ねし罪は反旗の燈籠、万象無に帰す暗夜の教典、気高く舞うは、死を啼く黒鳥なり――――」

「――――【ダークフレア】! って、よくこの魔法使うのが分かったわね!」

すぐさま耳を赤くするレンと、なぜかちょっと得意げなツバメ。

【銀閃の杖】から放たれた闇の粒子が一斉にオーブルに結集し、黒の爆炎を巻き起こす。

「レンちゃん、カッコいいー!」

「す……げえ……っ」

メイは尻尾をブンブンさせて喜ぶ。

悪魔に魂を売った化物を、さらに深い闇の力を有した魔女が殲滅しに来たかのような光景。

詠唱からの大魔法という完璧な流れに、魔法学校住人たちもさすがに目を奪われる。

「……あの獅子を倒した実力は、侮れないという事か……」

消えていく闇の粒子。

HPが残り5割となったところで、オーブルはそう言って赤い目を煌々と輝かせる。

そして新たな薬剤【魔竜薬】を取り出すと、そのまま自らの腕に突き刺した。

「だが、悲願はもうそこまで来ているのだ。誰にも……邪魔はさせんぞォォォォォォ――!!」

叫び声と共に、その身体が変化する。

濃灰色の全身を駆ける、赤の輝き。

オーブルはその姿を、半人半竜の化物に変えた。