作品タイトル不明
398.妖しい少女を尾行します!
「あっ、あの子たち青バラに勝ったパーティだ」
「あれがメイちゃんか。次はどこに行くんだろう」
場所は夜の学生寮塔ホール。
クインフォードの住民にも知られ始めたメイたちに、自然と視線が集まる。
どうやら早くも、怒涛の高難易度クエストクリアは話題になっているようだ。
「メルーナちゃーん」
メルーナに話を聞きながら次の目的地を考えていると、一人の魔導士プレイヤーがやって来た。
「聞きましたよぉ。何でもあの青バラちゃんたちが負けたんだとか。すごいことになってるわねぇ」
「メイたちがー、とんでもない活躍をしたんだ」
「いえいえー、みんなでがんばりましたっ!」
「メイたちはー、難しいクエストもカッコよく攻略するー」
「えへへへへ」
「魔法動物塔のミッションのメイはまるで、ジャングルの王様みたいだった!」
「ちょ、ちょっと動物たちと仲がいいだけの普通の女の子でございますっ!」
「まあ……動物の王様だなんてライオンみたいねぇ」
「なにから突っ込んでいけばいいのやら……」
ごちゃつく三人の会話に思わず苦笑いのレンと、それを見てほほ笑むツバメ。
「あの難しいクエストを攻略してしまうなんて、本当にすごいわぁ」
つば広魔女帽のお姉さんも、のんびりした口調でほほ笑んでみせた。
「……もしかしたら、あのクエストらしきNPCさんも攻略できちゃったりするのでしょうかぁ」
「クエストらしきNPCー?」
「いいじゃない。せっかくだし見に行ってみましょうよ」
「何か見つかるかもしれませんね」
「ちょうど良かったですねぇ。今夜は月が綺麗に出ているので、見つけることができますよ」
突然持ち込まれた新情報。
魔女帽子のお姉さんがのんびりとした様子で外を見ると、ほどよく18時を回り、夜の部が始まるところだった。
そしてそのNPCは、綺麗に月が出ている夜にしか現れないという。
「あの方です」
お姉さんの先導でたどりついたのは、石壁の続く旧研究塔の2階。
柱の背後に隠れるように立っていたのは、どこか陰のある雰囲気の女子生徒NPC。
しきりに辺りをキョロキョロと確認している。
「夜になると出てくるあの子が、とても怪しいんです。こっそり隠れて見ていると、どこかへ向かって歩き出すのですがぁ……」
「あんな子、初めて見たー」
「私も先日偶然見つけたんです。何度か追いかけてみたのですが、結局何をしているのかは分かりませんでしたぁ」
「何か対応する魔法とかがあるのかもー?」
「魔法薬塔のクエストで作れる【カメレオン薬】を使ってこっそり後をつけたのですが、【解除】の魔法石まで使って見つけ出されてしまったんですよぉ。硬直の効果もあるせいで、動けずにいる間にどこかへ行ってしまいました」
「その後は見つからなかったのですか?」
「はい。次に見かけたのはまた別の月夜でしたぁ。視線があるうちは、あの場所から動かないし、逃げられてしまうとその日は失格という形になるみたいなんですよぉ」
「……なるほど、プレイヤーが付近にいないことが動き出す条件なら【変化の杖】の出番ね」
プレイヤーに見られていると動かない、怪しいNPC少女。
人目がなくなると移動を開始するというのなら、これ以上ない使いどころだ。
レンは【変化の杖】で黒猫になる。
「あらあら素敵、猫ちゃんになりましたぁ」
お姉さん、喜色満面で猫レンを抱き抱える。
「レンちゃん、左右で目の色が違うんですよー!」
「あら本当、可愛いわねぇ」
「はい、猫レンさんとても可愛いです」
「異存なしー」
「ちょ、ちょっと、話が進まないでしょう!」
寄ってたかって抱きしめては頭をなでてくる四人に、レンは照れながら跳躍。
「皆は下がってて。それじゃ行ってくるけど……ツバメ、一ついい?」
「はい」
レンはツバメにちょっとした『思い付き』を伝えてから、少女のもとへ向かう。
「…………」
現れた猫レンを、少女は凝視する。
走り出す緊張感。
しかし少女は辺りをしっかり確認し、人気がないことを確認すると、どこかへと歩き出した。
何度も辺りを確認しながら、廊下を進んで行く。
そして三回レンの存在を確認したところで、少女が突然こちらへ寄ってきた。
その視線にあるのは、疑惑の色。
手にある『魔法石』を見て、さすがにレンはドキドキしてしまう。
少女はジッと、猫レンを見つめる。
「…………」
別にしなくていいのに、ちょっと猫っぽく顔を擦ったりしてみるレン。
もともとそこら辺を猫が歩いている魔法学校。
少女は「問題なし」と判断したのか、再び歩き出した。
猫レンは狭い額を小さな手で拭ってから、少女のあとに続く。
すると少女は、小走りで廊下を進み始めた。
慌てて追いかけるレン。
少女の後を追って角を曲がったところで、突然振り返った少女に魔法石を差し向けられた。
「しまった!」
広がる輝き。
光を浴びたレンの変身が解け、その正体を見た少女は一目散に逃げ出していく。
「待ちなさい!」
魔法石による長めの硬直が解けたところで、レンは慌てて後を追いかける、
しかし少女の移動速度は、多少【敏捷】に振っている魔導士が追いつけるレベルではない。
すでにその距離は遠く、そのまま姿を見失ってしまった。
「これはまた、難しいクエストね」
仕方なくレンは、来た道を戻ることにする。
「あっ! レンちゃんお帰りなさい!」
「どうだったー?」
「逃げられちゃったわ。魔導士があの子を追うには、高い【敏捷】とかステップ系スキルが必要な感じねぇ……それでも硬直後に追いつけっていうのは相当難しいわ」
「あらあら」
お姉さんも「それは厳しいわねぇ」と、眉をひそめる。
猫化による少女の追跡は、失敗に終わった。
「さて、そろそろじゃないかしら」
しかしレンは気にした感じもなく、振り返る。
すると、そこに現れたのはツバメ。
「おつかれさまでしたっ!」
「どうだった?」
レンがたずねると、ツバメはこくりと一度うなずいた。
「レンさんの狙い通り、二重の尾行で正解でした」
猫になったレンの背後に、少し距離を取って【隠密】状態のツバメに続いてもらう。
これによって、魔法石を使った尾行のあぶり出しをくらった後に『姿を消した速いアサシン』が追いかけるという形になった。
本物の人間のように、『一度尾行を見つけ出したことで安心した』少女はそのまま、ツバメを目的へと連れて行ってくれた。
狙い通りの展開。
見事メイたちは、謎の生徒の行き先を突き止めることに成功したのだった。
「まあ……本当にあの子の行き先を突き止めてしまいましたぁ」
「メイたちはー、本当にすごい」
驚くお姉さんと、目を輝かせるメルーナ。
笑い合う三人に、見学していた魔法学校住人たちも感嘆の息をつく。
こうしてメイたち一行は、謎の少女が消えていったポイントへと進んで行くのだった。