作品タイトル不明
399.儀式です!
「まあ、私もついて行っていいのですかぁ」
謎の逃走少女クエストを紹介してくれた、お姉さん魔導士。
さらに「あれが青バラ攻略のメイちゃんたちか!」と、魔法学校住人たちもあとに続く。
「これもまた、しっかり隠されたクエストみたいね」
怪しい動きを見せていた魔法学校の女子生徒NPCは、姿を消した。
しかし【隠密】で追いかけたツバメが、並ぶ魔法灯の一つにギミックがあることを目撃していた。
「この先に何が待っているのでしょうかぁ……」
ワクワクしながら杖を握るお姉さん。
「ドキドキするー」
「本当だねぇ」
身を寄せ合いながら、目を輝かせるメルーナとメイ。
魔法灯を壁側に押し込んだ後、下げる。
すると石壁の途中に、大きな部屋が現れた。
「まあ、何が来ても大丈夫よ」
昨夜のダメージが入らないボスに比べれば、どんな敵でも問題ないだろうと余裕の表情を見せるレン。
「……ッ!」
部屋に入り込んだ瞬間、表情を凍りつかせる。
燃える妖しい篝火。
大部屋の中には、黒いマントを羽織った魔法学校の生徒たち。
そして足元には、大きな魔法陣が描かれていた。
「わあ、これはなんだろうっ」
メイはその妖しい光景に尻尾を振りながら、ものめずらしそうに視線をめぐらせる。
「すごく危険な雰囲気ー……」
メルーナもノドを鳴らして歓喜する。
「こんなとこ初めて見た……」
「この大げさな魔法陣も、他の場所じゃ見かけないなぁ」
新たな隠しクエストとメイ見たさについてきたギャラリーも、興味深そうにしている。
「どうやら今回は、いつもより同志の数が多いようですね……ククク」
すると黒マントの生徒の一人が、そう言って一歩前に出た。
「皆さん、今宵も秘密結社【ダークブラッド】の夜会に参加いただき、ありがとうございます」
「これはもしや……」
ツバメはわずかに予想を働かせて視線を上げる。
レンはもう、白目をむいていた。
「今夜こそかの大悪魔を召喚し、我らが念願をかなえるのです! さあ、儀式を始めましょう……っ!」
そう言って黒マントの生徒たちは、怪しい笑みを浮かべながら魔法陣に何やら文字を書き加えていく。
そして一番偉いのであろう長い黒髪の少女が、両手を天に掲げて呪文を唱え始める。
「さあ我らが闇の守護者よ……降臨し、その姿を現したまえ……っ!」
「「「現したまえぇぇぇぇ!」」」
その剣幕に、思わず息を飲むメイたち。
しかし、何も起こらない。
「……どうして。なぜ我らの前に姿を現してくれないのですか……っ!」
その場に座り込み、悔しそうに床を叩く黒髪の少女。
集まった生徒たちも、悲し気に肩を落とす。
「……これ、わざとよね。円の魔法陣と三角の魔法陣があるのに、三角の方を無視して円の方に悪魔を呼び出そうとするっていうのは、わざとなのよね?」
「どういうことー?」
何やらつぶやくレンに、メイとツバメの腕を取ってドキドキしていたメルーナが問いかける。
「自分の身を守るために、術者は円の魔法陣の中から三角の陣に向けて呼び出しを行うのが、こういう儀式の基本のはずなのよ」
「そうなんだー、レンちゃんすごーい……」
「これ多分、魔法学校内にヒントの書かれた本とかがあって、それを見つけて実践するっていうクエストなんでしょうね……」
「やはり私では無理なのでしょうか……。ならばこの中に、この中に魔力に自信がある人はいませんか……っ?」
「プレイヤーに儀式をやれっていうの!?」
かつて何度も家で行って母や妹の香菜を、ある意味恐怖させた召喚の儀式。
思い出して、レンは震える。
「儀式を行うクエストなんて、初めてみましたぁ」
「悪魔の召喚ができるアトラクションって考えるとー、すごくワクワクする……っ」
お姉さんの言葉に、メルーナもこくこくとうなずく。
そして当然、皆の視線は『青バラ一味』を倒したパーティの魔導士レンに集まる。
「ちょ、ちょっと待ってよ……」
「ベルゼブブの召喚儀式は、この呪文によって行われます」
黒髪の生徒が差し出してきた、古びた本。
そこに書かれた呪文に、意識が飛びそうになる。
「……い、一応聞いておくわ。何を呼び出すつもりなの?」
「ベルゼブブ様の召喚を狙っているのです……」
「……ッ!」
さらに召喚対象がベルゼブブであることを聞いたレンは、余計なことを思いついてしまう。
「でも……いやでも……っ!」
それでなくても「儀式をしろ」という、レンにとっては恥ずかしさしかないクエスト。
さらに『あれ』を装備すれば、雰囲気が出過ぎてしまう。
「でも、でも……ああもうっ!」
悩みまくるレン。
だが『その可能性』を思いついてしまった以上、ゲームで手を抜くことはできないのもレンだ。
「レンちゃん……?」
「どうして……どうしてこんなことに……っ」
レンは頭を抱えて、しばらく悩み続けた後。
「ああもう! 分かったわよ! やってやるわよ!」
そう言って、腕に【宵闇の包帯】を装備した。
「わあ! レンちゃんかっこいいー!」
「はい、格好いいです」
包帯を巻いたレンが円の魔法陣の真ん中に立つと、魔力光が鈍く輝き出す。
「なんか、めちゃくちゃ雰囲気あるな……」
静かに魔法陣の中心に立った魔導士レンの挙動に、目を奪われる住人たち。
レンは大きく深呼吸をして、呪文を唱え始める。
「――――我が声よ、悪しき福音となりて堕ちた天使を呼び覚ませ。ここに結ぶは、大罪という名の盟約」
よく響く低めの声でそう言って、レンは別に上げなくてもいい右手を突き上げた。
すると魔法陣をなぞるように、赤い光が灯っていく。
巻き起こる風がレンのローブと長い銀の髪を揺らし、そのどこか妖しげな表情に誰もが夢中になる。
「混沌より来たれ、大いなる罪の王――――ベルゼブブ!」
「「「うおおおおおお――――っ!!」」」
あまりに完璧な身のこなしと演出。
集まっていたギャラリー陣が、思わず歓声をあげた。
まばゆい赤光の爆発と共に三角の陣の中に現れたのは、巨大なハエの姿をした悪魔の王。しかし。
「……このような未熟な魔法陣で我を呼びつけるとは。その不遜、許しがたき罪なり……」
その赤い目は、怒りに煌々と輝き始める。
「半端な身体での召喚とて、貴様らを喰らい尽くすことなど容易なことだ! さあ、その身をもって己が罪を償うがいい!」
「「「わ、わああああああ――――っ!!」」」
その迫力に、腰を抜かす生徒たち。
ギャラリー勢も、思わぬ展開に息を飲む。
「結社の生徒たちに、危険を経験させたうえで助けるというのが今回のクエストのようですね」
その意図を理解したツバメが、メイやメルーナとうなずき合う。
「……残念だけど」
そんな中、顔を真っ赤にしながらも全力で儀式をやり切ったレン。
「その身をもって罪を償うのは――――あなたの方よ」
完全な私怨と共に、手にした杖をベルゼブブへと差し向けた。