軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

393.魔法学校にもある地獄

旧研究塔の隠し通路から先へ進んだメイたちは、追って来るガーゴイル像をかわして一つの部屋に駆け込んだ。

するとそこに現れたのは、身体の透けたローブ姿の少女。

「ここに住む幽霊さんだそうですっ」

「はい。ここに住む幽霊です」

「今までー、一つの情報も出てきてない要素……」

幽霊少女の存在は、魔法学校住人であるメルーナにとっても初めてのこと。

そっと手を伸ばしてみると、しっかり身体をすり抜ける。

「すごーい」

メイも、そのすり抜け具合に感嘆する。

夜の魔法学校に現れた不思議な存在に、思わず四人は興味を引かれる。

「あなたたちも、クインフォードの生徒ですよね?」

「はいっ!」

「ここ、旧研究塔は今の六塔制となってから物置としての要素が強くなっているようなのですが……様々ないわくがあって夜間は進入禁止となっています」

その言葉に、この幽霊も『ガーゴイル像』のようなプレイヤー排除の仕掛けなのではないかと、わずかに構えるレン。

「……夜な夜な、上の部屋から変な物音がするのです」

しかし幽霊少女は、そう言ってため息をついた。

「旧研究塔は荒れている場所もあるし、怖くて仕方ないのです」

「幽霊なのに、異音を怖がってるのね」

「そこでなのですが……上の階に何があるのかを見てきていただけないでしょうか。何度か壁を擦り抜けて様子を見に行こうと思ったのですが……怖くてできないのです」

「おまかせくださいっ!」

そんな怖がり幽霊の頼みに、胸を叩いて応えるメイ。

「この部屋を出て右に曲がり、少し進んだ先に広い研究室があるのですが、そこに壊れかけの巡回ガーゴイルが置きっぱなしになっています。その像が隠し持っているカギを手に入れれば、上の部屋に入れるはずです。ただ、研究室には攻撃的な幽霊が集まってくるので気を付けてください」

「異音よりー、その悪霊の方が怖くないー?」

「同じ幽霊なので大丈夫です。幽霊が幽霊に取りつかれる話なんて、聞いたことないでしょう?」

「それはそうかもー」

「本当に怖いのは、生きた人間の方なのです」

「そのオチ、先に言ってしまうのね……」

「……ツバメちゃん?」

一方、なぜか顔色が悪いツバメ。

「もしかして、幽霊とかの類ダメだったりする?」

「い、いえ。杞憂かもしれません。とりあえず行ってみましょう」

しかしツバメは、それを押し殺すようにして歩き出す。

猫レンの先導によって、ガーゴイル像の姿がないことを確認しながら進むと、そこには掠れた字で書かれた『研究室Ⅲ』の文字。

広いその内部。

デスク等が撤去された後の研究室は、殺風景な状態だ。

奥に放置されているのは、ヒザを突いた壊れかけのガーゴイル像。

その足もとに広がるのは、いかにもな魔法陣。

「これは魔法陣に踏み込んだり、像に攻撃をくわえたりすると警報が鳴り出す感じかしら」

「ということは……?」

すでに幽霊よりも顔が青いツバメが問う。

「【スティール】の出番ね……あ、それで顔色が悪かったの!?」

「ガンバリマス」

そう言って、ガーゴイル像の前に立つツバメ。

するとメイたちを見つけた幽霊たちが、一斉に研究室へ入り込んできた。

「きたっ! 悪霊たちの妨害の中で、カギを手に入れろっていうクエストみたいね! ツバメを守りつつ戦いましょう!」

「りょうかいですっ!」

「把握したー」

次々に飛んでくる煙のような幽霊たちの動きは速く、捉えにくい。さらに。

「それっ! あれーっ!?」

剣によるメイの一撃は、幽霊をすり抜けてしまった。

「【連続魔法】【ファイアボルト】!」

「【アクアバレット】! ……これはやっかい」

魔法による攻撃は有効。

だがその動きは早く、捉えどころがない。

それこそ風に流れる煙のような軌道で接近してくる幽霊の体は、ぶつかるだけでHPを吸われてしまう。

「思ったよりー、面倒な敵かも」

いやらしい形でカギの奪取を妨害しにくる幽霊たち。

もちろんこの間にもツバメは、しっかりと【スティール】失敗を繰り返している。

「でもこれならどう? 【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」

しかし速い飛行で迫る幽霊たちを追う炎弾が、流れを変える。

弾けた火花は暗い研究室を照らしながら、幽霊を霧散させた。

「メイ、この幽霊たちは『物理攻撃』が効かないみたい! ……でも半分物理ならダメージは取れるはずよ!」

「りょうかいですっ! 【装備変更】!」

メイもここで装備を【狐耳】に変更。

青い炎の一撃で、幽霊を斬り払う。

「【アクアバレット】!」

敵に向けて飛んで行く炎弾の連射と、青い炎を散らすメイの剣撃が敵を圧倒し始めれば、メルーナはこぼれた個体を撃つだけでいい。

こうして三人は、ツバメが【スティール】に集中できるようおぜん立てをする。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」

そんな三人のアシストに、ツバメも怒涛のスティール失敗で応えていく。

「がおおおおおお――――っ!」

メイはさらにここで、幽霊を集めて【雄たけび】で止めるというサポート戦術をひらめいた。

「【アクアグレネード】!」

すると即座にメルーナが、範囲魔法で一網打尽。

「ないすー!」

「ないすー」

二人は軽くハイタッチでほほ笑み合う。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」

もちろんツバメも、これに負けじとスティール失敗を叩き込んでいく。

「【ファイアウォール】!」

余裕が生まれ出したところでレンは新たな魔法を試し、見る見るうちに幽霊退治は効率化。

メイもメルーナも、幽霊退治に余裕を見せ始めた。

「そう言えば、メルーナはどうやってクインフォードにやって来たの?」

戦いの手は止めぬまま、レンはツバメの気晴らしを兼ねて会話を始める。

「まだ小学生の頃にー、偶然クインフォードの映像を見て夢中になったんだ」

「わかるよー!」

うんうん! と大きくうなずきながら、メイは幽霊を霧散させる。

「それからすぐに『星屑』を初めてー、しばらくはひたすらレベルアップをして……でも我慢できなくてクインフォードに向かおうとして、何度も死に戻ったんだ」

「ポータルからは距離もあるし、敵も結構強いものね」

「だからクインフォードに来られた時はー、うれしくて寝られなかった。それからはずっとー、魔法学校の生徒のままなんだ」

クインフォードを目指して冒険を続けた日々を、懐かしむメルーナ。

「……メルーナさんのお話が聞けて良かったです」

するとツバメはそう言って、気合を入れ直した。

「ツバメのスティールタイムは、メルーナのことを知るための大事な時間だったのよ」

「はい! そして今、メルーナさんの話を聞いて私は熱くなっています! この思いが、幸運を引き寄せるはずです!」

「おおっ! がんばれツバメちゃん!」

「いきます!」

そう言ってツバメはその手を高く掲げ、エフェクトを輝かせる。

「――――【スティール】!」

「もう盗らせてくれてもいいじゃない……」

思わず顔を覆うレン。

ここでもしっかりと失敗して、また淡々とした【スティール】作業に戻っていくツバメなのだった。

「そんなわけでね、今もツバメの家の居間には私たちの大きな写真が飾られてるのよ」

「ルスティールスティールスティールスティー……」

「てへへ、ちょっと恥ずかしいね!」

「ルスティールスティールスティー……」

「おおー。大きな額縁のある居間、おもしろいー」

「ルスティールスティー……」

悪霊たちを払う作業は、すでに会話の片手間。

研究室はすっかり、スティール作業現場となっていた。

「ルスティールスティール……わ、分かりました」

限界を迎えつつあるツバメ、ここで突然『空に向けて』話しかける。

「盗ませてもらえたら一週間……お昼休みにこっそり食べているお菓子を我慢してお供えとします!」

「……つ、ついに生贄思想が始まったわ……っ」

ツバメは食後に一個だけ食べているお菓子を、我慢することをここに誓う。

「なので……盗ませてくださいお願いしますっ! 【スティール】!!」

決死の懇願。

それに応えるように閃く、輝きのエフェクト。

「や、やりました……っ!」

ようやく手に入れたカギに、ヒザを突き天を仰ぐツバメ。

「タ、タイミングを考えなさいよ! この流れでうまくいっちゃったら、ツバメが今後も何かを捧げてスティールしかねないでしょう! 【フレアバースト】!」

レンは最後の悪霊たちを吹き飛ばした後、空に向けて叫ぶ。

「なんだかー、すごく長い戦いだったー」

これまで圧倒的な強靭さで、様々な難クエストを攻略してきたメイたち。

意外な長丁場に、メルーナはくすくすと笑う。

「……メルーナさん」

「なにー?」

「早い方です」

「えっ?」

「これでも、早く盗めた方です」

「ええっ?」

そして知らされたまさかの事実に、驚愕したのだった。