作品タイトル不明
392.禁止区域を探索します!
「はあー、緊張したねぇ」
休憩室にたどり着いたメイは、安堵の息をつく。
「やっぱりあと一回で退学だとー、緊張感がすごいー」
メルーナも「はあー」と肩の力を抜く。
「でも、ドキドキしちゃったね!」
「猫に変身してガーゴイルをやり過ごすなんてー、初めて見た! すごかった!」
「そろそろ、下りてもいいんじゃない?」
メルーナを担いだままのメイと、メイに担がれたまま自然に話す二人にレンが笑う。
「確かに静かな夜の魔法学校を無音で飛んでくるガーゴイルは、緊張感すごいわね……」
「本当ですね。ここまで無事にたどり着けて良かったです」
「でもー、ここからが問題なんだ。どう考えてもこの先の区画に何かが隠されてるはずなのにー、何も見つかってない」
「どうしてそこに何かがあると分かるのですか?」
「そこにだけ色々罠があったりー、ガーゴイル像の移動が多かったりー、魔法石灯が妙な点滅をしてたりするからー」
「何かを隠してると考えて間違いなさそうね……行きましょう。私が先導するわ」
レンは【変化の杖】を使い、再び黒猫に化ける。
ここぞとばかりになでてくるメイ、ツバメ、そしてメルーナの手を尻尾で軽くはたきつつ休憩室を出た。
「ッ!」
さっそく現れたガーゴイル像に、走る緊張感。
「…………」
しかしやはり、猫と化したレンを追ってくることはない。
しっかりとやり過ごした後、メイたちに合図して物置のような区画へと向かう。
「そこには罠があるから気を付けてー。発動すると音が出てー、すぐにガーゴイルたちが集まってくる。そうなったら大惨事、脱獄がバレた囚人みたいになる。私もそれで捕まったー」
さっそく罠から離れるメイたち。
古道具のようなものが並んだ、広い物置部屋。
その壁際の床に描かれた小さな魔法陣を差して、メルーナが注意を促す。
手にしたマップにはこれまで集めてきた罠情報がいくつも記載されているが、現状怪しいポイントは見つけられていない。
「ここはまだ他のクエストでヒントが出てたりもしてないからー、余計に見つからないんだ」
隠されているであろう仕掛けを探す四人。
すでに何度目にもなる探索を、あらためて行うメルーナの目は真剣だ。
「……確かに、何も見つからないわね」
転送罠らしき鏡や侵入者を照らし続ける魔法灯など、怪しいアイテムは多いが、どれもすでに確認済みのものばかり。
数多くの挑戦者が諦めた、仕掛けの発見。
やはり、『先へと続く』道は見当たらない。
「どうしたの、メイ?」
そんな中メイは、魔法陣罠の近くで足を止めた。
それは最初にメルーナが注意した、踏めばたちまち光と音を放つ罠。
メイはそーっと、気を使いながら近寄ってみる。
「……そこの罠がどうかしたの?」
メイは目を閉じて、猫耳を左右に動かす。
「罠の近くから、風の音がしてるんだよ」
「風の音? 風の音は隠し通路がある場所の定番だけど……もしかして。ツバメ、【罠解除】してみてくれる?」
「はい」
ツバメは注意深く歩を進め、【罠解除】を使用。
足元の魔法陣が消えると、床石が一つ外せることに気づいた。
「これ、大きな音が鳴ってガーゴイルが集まるだけのやっかいな罠に見えるけど、もう一度その場所に戻って調べれば道が開ける仕掛けなんじゃない?」
「もしくは、罠を解除してその場所を調べる形ですね」
「ガーゴイルを呼び寄せてしまう罠と同じ場所に、先へ進むための仕掛けが隠れているとはなかなか思わないし、先に罠があると知ってしまえば以降は避けるようになる」
「そうなれば、仕掛けはいよいよ見つかりにくくなりますね」
床石を抜き、一段落ちた面をツバメが踏むと、石壁の一部が動き出して穴が開いた。
どう見ても、隠し通路だ。
「……すごいー」
「今回はメイが『風の音』に気づいたから確信を持てたけど、普通にたどり着くのは難しいわねぇ」
きっかけを見つけるメイと、考えるレン。
このコンビネーションは今回も、未知の要素を突き進む。
「こんな道があるなんてー、ここからは未知の領域……っ!」
ワクワクとドキドキに、思わず身体を震わせるメルーナ。
「でも、見つかっちゃったみたいだよ!」
「「「ッ!!」」」
メイの視線の先には、こちらへ向かってくる三体のガーゴイル像の姿。
「メイさんはメルーナさんを抱えて先に進んでください! ガーゴイル像は私が引き付けます!」
「りょうかいですっ!」
「私は落ち着き先が見つかったら、ツバメを案内しにいくわ!」
メルーナを抱えて、隠し通路へと駆けこんで行くメイ。
レンは即座に黒猫に化けてあとに続く。
ツバメはその場でガーゴイル像を引き付けて、あえてゆっくり隠し通路の中へ。
そしてメイたちが丁字路を右に曲がって行ったのを確認して左に向かい、そのままガーゴイルたちを引き付ける。
「【加速】【リブースト】!」
しっかりとガーゴイル像をけん引しながら角を曲がり、メイたちから距離を取る。
ガーゴイルの移動は速いが、ツバメの移動スキルなら問題なしだ。
「……こう来ましたか」
しかし、ツバメの選んだ道は行き止まり。
剣が触れてただけで失格になる、夜間禁止区域。
さすがに廊下で向き合った状態で脇を抜かせるほど、ガーゴイルたちは甘くない。
追い込まれての強制転送は、レベルの高い前衛でも免れない事態だ。
「……こっそり部屋を抜け出した修学旅行の夜のようで、ドキドキします」
ツバメはそのままゆっくりと速度を下げ、ガーゴイルが真後ろまで来たところで――。
「【加速】【壁走り】!」
行き止まりの壁を駆け上がる。さらに。
「【天井走り】!」
そしてそのまま天井を駆けることで『縦のUターン』を決めた。
慌ててガーゴイルが放った斬り返しは、ツバメの足先数センチ先を通り過ぎて行く。
「い、いま、剣で生まれた風がふくらはぎに当たりました……っ」
その緊張感に、変な笑いが出るツバメ。
ガーゴイルをやり過ごし、着地と同時に【疾風迅雷】を使用。
【加速】の連続使用で、すぐさま置き去りにする。
「先生に見つかって追いかけられると、こんな感じなのでしょうか……」
安堵の息をつきながら、来た道を戻っていくツバメ。
すると廊下の前方から、黒猫レンが駆けてきた。
「こっちよ!」
ツバメはそのままレンを抱えて【加速】を使用。
指示に従って、メイたちの進んだ方向へと向かう。
「上手くまけたみたいね」
「少し危うかったですが……何とかなりました」
黒猫レンの毛並みを堪能しながら進んだ先は、古びた一つのドア。
中にはメイとメルーナが待っていた。さらに。
「君たちは……なに? 旧研究塔に何の用?」
虚空に浮かぶローブ姿の少女。
その姿に、思わず息を飲むレンとツバメ。
「す、透けてます……」
少女は身体が透けていた。そして。
「レンちゃんツバメちゃん、この部屋に住む幽霊さんだそうですっ!」
いつも通りの感じで幽霊を紹介するメイに、驚かされるのだった。