軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

391.退学の危機!?

「ここから先はー、夜間禁止区域になる」

メルーナの案内でたどり着いたのは、学生寮塔を出て進んだ先。

旧研究塔の3階部分だ。

「バリアなどが張ってあるわけではないのですね」

わずかに揺れる魔法灯の輝きが、妖しい雰囲気を醸し出す石造りの塔。

内装に木材が使われていた学生寮塔と違い、妙な冷たさと静けさの中にある。

「ドキドキしちゃうねぇ……っ」

メイも尻尾をブルブルと震わせている。

「修学旅行などの時も、夜に部屋を抜け出すようなことはありませんでした」

「わたしも村を守ってたから初めてだよーっ」

楽しそうにするツバメ。

もちろんメイも学校行事にはヘッドギア持ち込みで、村をトカゲから守っていたため夜は全力で布団の中だった。

仲間たちとアトラクションのような世界に踏み出すワクワクに、尻尾がブンブンと揺れる。

「ですが、禁止区域とはどういう意味なのでしょうか。侵入が難しいというわけではなさそうですが……」

幾重にも張られたロープに付けられた看板、そこに『夜間進入禁止』と書かれてはいる。

しかし、すり抜けられないこともなさそうだ。

「夜の旧研究塔は警備のガーゴイル像たちが見回りをしていてー、プレイヤーを見つけると高速で襲い掛かってくるー。そしてその手に持った剣が触れると強制転移させられてしまうんだ」

「強制転移ですか……転移するとどうなるのですか?」

「中央塔で学校の偉い人に怒られる。それから出入り口にしばらく見張りが立つようになってー……さらに」

「さらに……?」

「3回で退学になるー」

「わあー、大変だぁ」

「実はー、もう2回捕まってる」

「あと1回で退学ではないですか」

「そういう事ならお任せくださいっ! いざという時は、わたしがメルーナちゃんを背負って運びます!」

「……久しぶりの冒険、やっぱり楽しいー!」

背負って運ぶという意外な作戦を聞いたメルーナは、楽しそうに目を輝かせる。

やはりそこはメイたち。

これまでの攻略法とは、一味違いそうだ。

「それではレンちゃん、作戦会議をしましょう!」

「……それじゃ、一度背中から離れてくれるかしら?」

ここまでの会話が全て、ガッチリと腕を取られた状態で行われていたことに苦笑いのレン。

2階から3階へと続く階段。

その最上段で足を止めると、メルーナは一枚のマップを取り出した。

「この階はほとんど全部ガーゴイル像の見回り範囲なんだ。ここにある休憩室が一応のセーフゾーンでー、その先がまだ探索が行き届いてない区域になる」

「一応のセーフゾーンなのね。完全に安全な場所はないと」

「運が悪い時はー、入り込んでくる」

さすがに長らく放置されているクエスト、そう甘くはないようだ。

「あとー、ガーゴイル像を攻撃で倒すことはできない」

「逃げて振り払うのが基本ってことね。それならメルーナの防衛を優先しながら、まずはその休憩室に向かいましょうか」

「りょうかいですっ!」

「わかりました」

「よろしくおねがいしますー」

四人はロープを踏み越えて、夜間禁止区域へ踏み込んでいく。

夜の暗闇を照らすのは、やや明度の低い魔法灯のみ。

ガーゴイル像に注意しながら、静かに道を進んで行くと――。

「「「「ッ!!」」」」

聞こえた物音に、全員が同時に身体を震わせる。

視線の先に見えたのは、一匹の猫。

「だ、大丈夫ー、夜は動物たちが校内を歩いてたりするからー」

安堵の息をつくメイたち。

「こうやってみんなでドキドキするの、楽しいねぇ」

「本当ねぇ。それに考えてみれば、ガーゴイル像なんてものが歩き回ってれば割とすぐに気づくわよね」

「音で気づく可能性が高いです」

「足音はしないー。ガーゴイル像は宙を浮いてるからー」

メルーナがそんなことを言った瞬間、続く廊下の先に見えた影。

「「「「…………」」」」

再び四人の足をが止まる。

角を曲がって、ゆっくりとやって来たのは――――。

「「「「きたーっ!」」」」

現れたのは、シンプルな剣を手にした2メートルほどのガーゴイル像。

「に、逃げないとー!」

こちらに気づき、低空飛行で追って来るガーゴイル。

慌てて走り出したメルーナは、手前の角を曲がる。

「あわわわわ。や、やっぱり、あと1回捕まったら退学と思うとー、緊張するるるる」

「ていうかスピードも速いわね! こんなの【敏捷】が高いか移動系スキルを持ってないと逃げ切れないわ!」

「スリルあります! メルーナさん、ルートが変わりましたが、ここからはどうするのですか?」

「一度引き付けてやり過ごさないとー! 魔導士勢は基本、足で勝負したら捕まると思っていいー!」

思った以上に慌てているメルーナが駆けていく先にあったのは、丁字路。

「ここは右ー!」

そのまま角を曲がったところで――。

「わあ! メルーナちゃん!」

慌ててメイが腕を引く。

するとメルーナの目前を、振り下ろされた剣が通り過ぎて行った。

「二体目!?」

「これは最悪の展開ー!」

メイはすぐさまメルーナを抱える。

しかしその隙を狙い、ガーゴイル像が振り払いを放った。

「【アクロバット】!」

剣をかわしたメイは、一発即退学のメルーナを抱えたまま走り出す。

「す、すごい緊張感だよーっ!」

「緊張で頬が、プルプル震えてるるる」

「とにかく逃げましょう!」

「りょうかいですっ!」

当然、もと来た道からもガーゴイル像は迫って来る。

四人は残された道をそのまま猛ダッシュ。

すると進んだ先の角を曲がったところにあったのは、二つのドア。

「ここのどちらかに隠れるのがー、ここに追い込まれた場合の基本。でも高確率でどちらかの部屋は踏み込まれる」

「パーティを二つに分けて、どちらかだけでも残すのがここに来てしまった時の最善手ってところかしら」

うなずくメルーナ。

厳しい状況に、レンは早急に思考を働かせる。

「……もし廊下にプレイヤーがいたら、ガーゴイルたちを引き付けることは可能?」

「できるはずー。隠れているプレイヤーの探索より、廊下にいるプレイヤーの追討が優先されるのはー、確認されてる」

「そういう事ならやってみる価値はあるわね。メイたちは一応分かれて各部屋に隠れてて。それで十分経っても変化がなかったら出てきて先に進んで」

「どうするのですか?」

レンは「これよ」と言って、【変化の杖】を手に笑って見せた。

「これでよし。後はうまくいってくれるかだけど……」

黒猫に化けたレンは一人廊下に残り、追って来ているガーゴイルたちの方へ進む。

「ッ!」

そして角を曲がったところで、相対することになった。

ガーゴイルたちの目は、確かにレンを捉えている。

緊張で、歩幅が分からなくなる感覚。

目線が低くなったことでより恐ろしく見えるガーゴイル像に、祈るような気持ちで接近。

そのまま横を通り過ぎていく。

攻撃は、されなかった。

「……うまくいった!」

大急ぎで距離を取り、ガーゴイルたちがドアの前に立ったところで――。

「こっちよ!」

変身を解き、ガーゴイルたちを呼びつけてから丁字路に向けてダッシュ。

その姿をもう一度見せてから、角に隠れてもう一度【変化の杖】を使う。

するとガーゴイル像たちは、足元の猫には目もくれず、レンを探してもと来た廊下を戻って行った。

「……最初に出会った猫が、いいヒントになってくれたわね」

黒猫への変化を繰り返して先行しつつ、休憩室への道が安全かを確認しながら進む。

この手は便利に使えそうだ。

「うまくいったわ。今のうちに先に進みましょう」

そう言ってレンがドアを開けると、「わあー!」とメルーナを抱えたまま慌てるメイ。

メルーナも「あわわわわ!」と両手を上げて慌てふためく。

ガーゴイルの突入と勘違いする二人の姿に、レンは笑ってしまうのだった。