作品タイトル不明
369.勝負を決めるもの
「いくぞ……すみれ」
狐火キャットパンチの連打から、ゴリラアームによる放り投げ。
続くレンの魔法とクマ召喚によってHPを半分にまで減少させた蘭は、すみれと共に動き出す。
「喰らえぇぇぇぇ! 【メイルフラッド】ォォォォ!!」
爆発的な勢いで広がる水流は、メイに向かって突き進む。
「【ラビットジャンプ】!」
「今だッ!!」
蘭の叫び声に応えるように、すみれが宙を見上げる。
それはメイを狙って放たれる、飛ばせて落とすコンビネーション。
「空破――」
「させませんっ! 【投擲】!」
「ッ! 【蜻蛉返り】!」
これを見たツバメが慌てて投じたブレードを、すみれはバク宙で回避。
見事にスキルを制止させた。
「【コールドゲヘナ】!」
すると今度はツバメを狙い、放たれる氷の蛇竜。
「【加速】【リブースト】!」
「【狐走】」
迫る氷結の波から高速移動で距離を取る。
すると後を追ってきたすみれが、その回避際を狙って飛び込んできた。
「【雷閃走破】」
「っ! 【加速】【リブースト】!」
決死の回避も、刀がかすめて1割のダメージ。
すみれは止まらない。さらにツバメに追撃をかけにいく。
「【狐走】【雷閃走破】!」
「ッ!!」
迫る超高速の斬り払いに、ツバメは慌ててしゃがみ込むが――。
「通り……抜けた……っ!?」
すみれは攻撃せず、そのままツバメの後方へと駆け抜けていった。
「【武器交換】【テンペスト】ォォォォ!」
「そういう……ことですかっ!!」
すみれは注意を引き、足を止めさせるためのオトリ。
本命として放たれた風の爆発に、ツバメは吹き飛ばされて3割のダメージを受けた。
「【武器交換】」
そして蘭を狙って駆け出していたメイに向けて、両手で【サラマンドラ】を掲げると――。
「……【グランディール】」
「ええっ!?」
「剣の……巨大化ですって!?」
それは【腕力】値に合わせて武器のサイズを巨大化する、蘭の必殺奥義。
大剣二刀流という【腕力】型でなければ不可能な戦い方をするプレイヤーだからこそ活きる、レアスキルだ。
これまで数々の大物たちをなぎ倒し、【ソードリキャスト減少】と共に蘭をトッププレイヤーに押し上げてきた得意技。
「こいつが全力の【プロミネンス】だぁぁぁぁーっ!!」
「わ、わあああああーっ!!」
武器に合わせて攻撃力はもちろん、範囲まで拡張された特大の爆炎が付近一帯を焼き尽くす。
吹き飛ばされたメイは、2割のダメージを受けた。
「行くぞすみれ!」
元の大きさに戻っていく剣。
姉妹はもう、止まらない。
「【狐走】」
倒れたメイのもとに向かい、すみれが降りおろしを仕掛ける。
これをメイがかわすと、そこにツバメも駆け込んできた。
すみれはツバメのダガーを【蜻蛉返り】でかわし、その隙をメイが突きに来たところで――。
「【テンペスト】ォォォォ!!」
そのど真ん中に、蘭が爆風の一撃を叩き込む。
「……味方ごと、ですかっ!?」
「わあああああ――ッ!!」
驚愕する、メイとツバメ。
意表を突くまさかの攻撃に、三人まとめて吹き飛ばされる。
攻撃のダメージは少なく1割に届かないほど。
その目的はあくまで、メイたちの体勢を崩すことだ。
「【転地】【メイルフラッド】【コールドゲヘナ】!」
砕ける水塊を追う氷の蛇竜で、広い範囲を一気に凍結させていく。そして。
「【武器交換】【テンペスト】ォォォォ!」
三連続の属性効果。
暴発した水塊を凍結させ、さらにそれを爆風で粉砕。
吹き荒れる猛烈な氷嵐。
「【加速】【リブースト】【跳躍】【エアリアル】【跳躍】ッ!!」
残りHPはすでに3割ほど。
ツバメは持てる全ての移動スキルを使って、爆氷の範囲を抜け出しにかかる。
「【裸足の女神】!」
メイも巻き起こった氷嵐によって悪化していく視界の中を、慌てて逃走。
ギリギリのところで嵐を抜け出した。
「ツバメちゃん、大丈夫!?」
続けて白煙の中を高速で追って来た影に、ツバメの生存を確認して息をつく。
「……ッ!?」
しかし氷嵐の中から飛び出てきたのは、すみれだった。
「――――【雷光真走破】!」
メイを狙うなら、意表を突く初見の攻撃こそが最適だ。
蘭の三連続大剣スキルから放つすみれの最終奥義は、最高の形でメイに迫る。
稲光を残しながら放つ超速の刺突は、そのまま直撃した。
「ツバメ……ちゃん?」
駆け抜けていった雷光に、思わずメイが悲鳴を上げる。
一撃必殺の刺突は、身代わりになったツバメに深く突き刺さっていた。
戦いの流れを大きく変える一撃に、一変する空気。
動力部ホールが静まり返る。
「これで、いいんです……」
硬直したままのメイに、ツバメはつぶやくようにそう言って笑みを浮かべた。
「――――残像ですので」
「ッ!?」
完璧な流れから消えていく残像に、思わず硬直してしまうすみれ。
戦いの流れが変わるのは、ここからだ。
「【加速】!」
当然、この隙をツバメは逃さない。
「こ、【狐走】っ!」
「【リブースト】!」
慌てて逃げるすみれを、超高速で追いかける。
「【電光石火】!」
「と、【蜻蛉返り】っ!」
焦るすみれは、大きなバク宙で強引に距離を取った。
しかし着地際にできるわずかな隙は、致命的。
「【サクリファイス】【雷光閃火】!!」
足元にまばゆいほどの軌跡を描きながら放つ、必殺の刺突。
この戦いは、一人落ちれば一気に形勢が傾いてしまう。
ツバメは惜しむことなく、残りHPのほぼ全てを賭ける。
突き刺さった【ダインシュテル】は火花を上げ、わずかな時間の後、盛大な爆発を巻き起こした。
「すみれ――っ!!」
倒れたすみれを見て、蘭は愕然とする。
しかしすぐに首を振って、二本の大剣を強く握り直した。
ツバメは侮れない強さを持つが、そのHPはもう僅少。
ならばメイを落とすことができれば、まだこの勝負に可能性が生まれてくる。
「まだだっ! まだ終わっちゃいないんだよォォォォォォ――――ッ!!」
咆哮一閃。
蘭は両手の大剣を振り上げると、最後の勝負をかけにいく。
「一気に勝負をつけてやるっ! 【メイルフラッド】ォォォォーッ!!」
暴れ来る水塊の爆発。
しかしメイにはもう、見慣れた攻撃だ。
「【アメンボステップ】!」
暴れ狂う猛烈な水流を、スキル一つで足場に変える。
「喰らえ! 【コールドゲヘナ】ッ!!」
「【ラビットジャンプ】!」
氷の蛇竜が巻き起こす怒涛の凍結も、スレスレのところまで引き付けて跳躍。
だが、蘭にとってこの流れは好都合。
「【武器交換】】! 【プロミネンス】! 【テンペスト】だァァァァーッ!!」
跳ばせて落とす。
爆炎に暴風を叩き込み、壮大な紅蓮の豪炎を巻き起こす。
「捉えたああああ――ッ!!」
炎は、中空のメイを問答無用で巻き込んだ。
まばゆい輝きが、動力部ホールを照らし出す。
「……な、にっ!?」
確かな手ごたえに叫びをあげた蘭が、思わず息を飲んだ。
巻き起こる突風に、吹き飛ばされる炎。
舞い散る火の粉の中を、メイは髪とマントを揺らして駆けてくる。
【王者のマント】に、炎は通じない。
「大したもんだ」
大水を追いかける怒涛の氷結。そして豪炎の猛烈な爆散。
二つを当たり前のように超えてきたメイを見て、蘭は薄く笑う。
「だが、こいつは超えられないよなぁっ!! 伸びろ【コキュートス】! 【グランディール】ッ!!」
最後に選んだのは、氷の大剣。
もともと身の丈ほどもある【コキュートス】が、さらにそのサイズを巨大化させていく。
「いくぞォォォォ!! こいつで……終わりだああああああ――――ッ!!」
メイは足を止めない。
迫り来る最大の一撃を、ただ真っすぐに見据えると。
「【装備変更】っ」
炸裂する【コールドゲヘナ】
広い動力部ホールの一角に連なる、高い高い氷剣の山脈。
ホールが極寒の世界に変わってしまったのかというほどの、すさまじい冷気が荒れ狂う。
そして、飛んだ『二本目』の剣が床に転がった。
「なんだ……あれは?」
【コールドゲヘナ】に、武器飛ばしの効果はない。
おかしな事態に、困惑する蘭。
やがてスキルの効果が切れ、氷山が砕けて消えて行く。
漂う冷気の中に、蘭が見たのは――――。
【トカゲの尻尾切り】によって、無傷のまま迫り来るメイの姿。
「ウソ、だよな?」
「【装備変更】っ」
困惑する蘭を前に、素手のメイはさらに装備を変更。
その手に握られたのはなんと、初期装備の【ショートソード】
ここでさらに、植物園ロボットがくれた【ものまねの実】を取り出し使用する。
その効果は、『戦闘中に認知したスキルをそのまま真似て使う』というものだ。
「【ラビットジャンプ】!」
跳び上がったメイは、【ショートソード】を高く掲げる。そして。
「――――【グランディール】!」
それは【腕力】に合わせて、手持ちの武器を拡大するスキル。
その『大きさ』に合わせて、攻撃範囲と威力を上昇させる。
「なんだよ……それ……」
メイの【腕力】によって、広大な動力部の天井に届くほどの巨剣となった【ショートソード】に、蘭は目を疑う。
「いきますっ!」
「なんなんだよ……なんなんだよそれはぁぁぁぁぁーッ!!」
振り降ろされる【ショートソード】
まるで高層ビルが倒れ込んでくるかのような迫力に、叫び声をあげる蘭。
「必殺の――――おっきな【ソードバッシュ】だああああああああ――――っ!!」
大慌てで【転地】を発動して、回避を試みる。
しかし天井部を切り裂きながら迫る巨剣が放つ衝撃波は、10メートル程度の回避など容赦なく飲み込んでしまう。
「あ……あ……ああああああああああ――――っ!!」
動力部ホールを吹き荒れる猛烈な衝撃の嵐は、ツバメやレンですら立っていられないほど。
全てを消し飛ばす必殺の一撃を喰らい、蘭はそのまま倒れ込んだ。