軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

317.まさかの結末

王の子を追いかけて、新研究所のエレベーターに乗り込んだメイたち。

「いよいよ、最深部に潜むボスか」

「間違いなく大物だろうし、俺たちはとにかく少しでもダメージを与えよう」

走り出す緊張感。

消耗激しい同行パーティの面々は、倒れてもただでは死なないという覚悟で気合を入れる。

「早く助けてあげないと!」

捕まえられた魔獣や動物の姿を見てきたメイも、気合い充分だ。

「このエレベーターの長さも、完全にボスが出る流れよね」

ゲームに慣れているレンの予想は、ここでも正解となる。

やがてエレベーターの速度が緩やかになり、最下層へ到着。

そこは青い炎に照らされた、広い空間。

その最奥の壇上に、王の子を運んできた元老院兵と、黒のマントを羽織った老齢の男がいた。

「ほう、ネズミが紛れ込んだとは聞いていたが……まさか投棄場からはい出てくるとはな」

メイたちに気づいた男は、そう言って邪な笑みを浮かべる。

「従魔を取り戻しに来た。そんなところか?」

「その子も、動物たちも、みんな返してもらいますっ!」

力強く宣言するメイを前に、男は檻へと視線を向ける。

「王の子……今はまだ小さいが、驚異的な成長を果たし自然界の頂点に立つ存在。その凄まじい力を手中に収めれば、世界を手にしたも同然だ!」

怯える王の子に顔を寄せ、ニヤリと笑う。

「ただ狂わせて使うのではなく、子供のうちから意思も力も完全に奪い取り……そして、最強の兵器へと変えるのだ!」

「そんなことはさせませんっ!」

メイは尻尾をピンと立てる。

「他の有象無象たちに使っている『狂化薬』とは違い、これは本人の力も底上げする新薬だ。その素晴らしさを、この元老院卿が直々に教えてやろう」

元老院卿はそう言って『薬』の入った注射器を手に取ると、自らの腕に突き刺した。

びくりと大きく一度震える。

すると身体が二回りほど大きくなり、伸びた爪は高質化、全身が黒い鱗の様なもので覆われていく。

その姿は、もはや悪魔だ。

「ハアアアアアア……」

大きく息を吐いた元老院卿は、【魔神の腕】を一振り。

「「「うわああああああーっ!!」」」

生まれた衝撃波に巻き込まれた元老院兵たちが、まとめて倒れ伏す。

「あっ! ひどい!」

「なかなか狂った感じを出してくるわねぇ」

「この新薬を王の子に使い続ければ、どれだけ恐ろしい兵器となるか……楽しませてもらおう、貴様たちを喰らい尽くした後にじっくりとなぁぁぁぁ!」

叫び声と共に、駆け出す元老院卿。

「【連続魔法】【フレアアロー】!」

すぐさまレンが、炎の矢の三連発で向かい撃つ。

しかし元老院卿はこれを難なく回避。

「人間型なのがやっかいね! 速いし、攻撃が当たりにくいっ!」

「【バンビステップ】!」

ここで駆け込んでいくのはメイ。

対して元老院卿は、爪を振り上げた。

【魔神の腕】が生み出す四本の衝撃波が、空を斬る。

「うわっと!」

続けざまに振り降ろされる一撃が、下りの衝撃波を生み出す。

「うわっととと!」

これも続けてかわすメイ。

すると元老院卿は大きく両手をクロス。

付近一帯に衝撃波の嵐を巻き起こす。

「【ラビットジャンプ】!」

メイはこれを、側方への跳躍で回避する。

すると元老院卿は、狙いをメイたちの背後にいた同行パーティに付けた。

「来るぞっ! 【剣閃疾駆】!」

「【六花閃】!」

先手を打つ前衛組。

しかし剣士の放つ剣閃も、侍が放つ六連撃の斬撃もかわして元老院卿は距離を詰めてくる。

「「「【ファイアスプレッド】!」」」

「シャアアアアアア――――ッ!!」

その回避ぎわを狙った後衛組の魔法攻撃も、【咆哮】一つでかき消した。

跳躍。

空中で側方回転しながら振り下ろす爪が、衝撃波を巻き起こす。

「【シールドディフェンス】! うおおっ!?」

単純な物理ではなく、属性は風。

巻き起こる爆風に、盾を持った剣士が弾き飛ばされた。

「つ、強いっ!!」

さらに元老院卿は、片腕を大きく振り上げる。

「「「きゃああああっ!」」」

地を駆ける衝撃によって、後衛の魔法部隊がまとめて地を転がった。

「なんだよこれ! 戦い方こそ人型だけど、投棄場の化物に負けず劣らずじゃねえか!」

同行パーティは、一瞬で陣形を崩されてしまった。

速い移動と回避。

そして高威力の範囲攻撃が、怒涛の勢いで押し寄せる。

「この攻撃力で高速移動。そのうえ後衛まで狙うって、タチが悪すぎるわね……っ!」

「助けないとっ!」

同行パーティの面々を助けるため、メイとレンが動き出すが――。

「喰らェェェェッ!!」

元老院卿は赤く光る両手の爪を、地面に向けて振り降ろす。

「「ッ!?」」

衝撃波と共に吹き上がる炎。

天井を焼いた炎が、続けて炎弾となって降り注ぐ。

広範囲の二段階攻撃スキルに、メイとレンは慌てて回避に回る。

元老院卿はこの隙を利用して、執拗に同行パーティを狙いにいく。

前衛組の前に飛び込んで、放つ【赤熱突き】

「ぐああっ!!」

重装の戦士を一撃で弾き飛ばした。

「今だ!」

「おうっ!」

この隙を狙って攻撃に向かう剣士と侍を前に、大きく引いた両手をクロス。

「「うわああああああっ!!」」

吹き荒れる衝撃波の嵐で、迫る二人も吹き飛ばす。

「……これ、まずいな」

「ああ。俺たちはもちそうにない」

ここまで必死で戦ってきた剣士と侍が、そう言って息をつく。

もはや同行前衛組に、元老院卿を止める手段はない。

「まあ、メイちゃんたちとここまで来られただけで十分なんだけど……この後の展開まで見たかったなぁ」

「それは仕方ねえよ。数十人は必要なクエストで、これだけ戦えたんだから良くやった方だろ」

「さあトドメだァァァァ! 軟弱な人間共ォォォォ!!」

元老院卿は奇声じみた笑い声をあげながら、二人に止めを刺しにいく。

「運よく生き残れたメンバーは少しでもダメージを取れるよう、すぐに最大の攻撃を使ってくれ」

遺す言葉。

悪魔と化した元老院卿の【魔神の腕】に走る、禍々しい赤光。

振り上げた黒腕が、二人を容赦なく切り裂く――――その瞬間。

「【アサシンピアス】」

胸部から背中へと突き抜けていったガラスの刃が、ガシャーン! という音と共に砕け散る。

剣士と侍を切り裂こうと迫った元老院卿の懐に『隠密』状態のまま入り込んだツバメは、HPを犠牲にすることで一撃の威力を上げる『サクリファイス』を使用。実に9割のHPを注ぎ込み、さらに攻撃の威力を大きく上げる代わりに一回で壊れてしまう『ガラスの剣』を、人型の『弱点』である胸元にカウンターで叩き込んだ。

キラキラと舞うガラス片。

驚異的な強さを見せ、攻略チームを翻弄した元老院卿の動きが止まる。

「…………は?」

「…………え?」

完全に死に戻りを覚悟していた剣士と侍は、常識外の事態を前に驚きと困惑で立ち尽くす。

その背後で同じく、死に際の一撃を放とうとしていた後衛組も硬直したままだ。

元老院卿のHPゲージは、丸ごと全て消し飛んでいた。

「まさか……この私が……敗れるとは……っ」

新研究場の大ボスである元老院卿は、突然影から現れたアサシン少女の一撃に、ゆっくりと倒れ込んでいく。

「ツバメちゃん、すごーい!」

「本当に決めるなんて、やるじゃないっ!」

そんな中、そもそも常識の枠を外れているメイと、『とんでもないこと』に耐性があるレンは、すぐさまツバメのもとに駆けつける。

「まさかここまで徹底した一撃必殺が見られるなんて! 『隠密』中の『弱点』への攻撃は特効が付くっていうのも、しっかり効いたわね!」

「動きが早く攻撃力も高い分、防御力は低かったようです」

歓喜のメイとレンに強く抱きしめられ、ツバメは恥ずかしそうに顔を赤くする。

「……う、うそだろ? 一体何が起きたんだ?」

「分からない。でも、なんかガラスみたいなのが割れる演出のあと……一撃で……」

間違いなく大物だった元老院卿。

いまだに大ボスが一撃で倒されたことに理解が追いつかない同行パーティの面々は、ただただ困惑する。

その存在感のなさ故に、メイとレン以外には『消えて』いたことを気づかれていなかったツバメ。

はたから見れば、瞬間移動のような形で突然現れたツバメが、一撃でボスを即死させたということしか分からない。

そしてそんなことは、常識的にあり得ない。

もはや訳が分からない同行パーティの面々は――。

「……ま、まあでも、メイちゃんパーティだからな」

「そ、そうか、そうだよな……?」

『メイのパーティだから』という強引な理由で納得することにした。

「ええと……ありがとう、アサシンちゃん」

「また助けられてしまったな」

「い、いえ、今回は運良く要素がそろってくれたので……」

いまだ、ざわざわしている新研究場。

ようやく元老院卿の打倒を実感し始めた面々が、息をつき出す。

「いいもの見れたなぁ……もう薄く日が昇ってくる時間だけど」

「本当だな。長くやったかいがあった」

「…………日が……昇る?」

その言葉に、メイたちが慌てて顔を見合わせる。

「「「ああああああ――――っ!!」」」

思わず三人、悲鳴を上げる。

30分という制限時間をいくらなんでも忘れ過ぎていたことを、今ごろ思い出したメイたちなのだった。