作品タイトル不明
312.禁忌の投棄場
「わあああああああ――――…………よっと! はいっ!」
セナトの魔法剣士によって、研究場から落とされた地下攻略組。
メイはしっかり着地して、ちょうど真上にいたツバメをナイスキャッチ。
「っ! ありがとうございます」
「いえいえー」
目の前にメイの笑みがあって、思わず小声になるツバメ。
たくましい野生児とお姫様状態のアサシンという状況に、ふわりと着地したレンが笑う。
「ずいぶんな距離を落とされたけど、落下ダメージは低めになってるみたいね」
「天井はどうでしたか?」
「オブジェクトの原状復帰で元通り。【浮遊】で戻るってやり方はできなさそう」
見上げても、自分たちが落ちてきた研究場はもう見えない。
「皆さん、大丈夫ですかっ?」
「もちろん無事だぜ」
「俺も問題なしだ」
同じように落とされた同行パーティの面々も、皆無事。
メイの問いかけに、いつも以上に元気をアピールする。
落とし穴の底は、石積みのだだっ広い空間。
放置された岩石塊などが、そこら中に転がっている。
「すごいところだね……」
聞こえてくるのは、獣同士が絶え間なく争う音。
「落とされる時に聞いた話では、失敗作を捨てる場所ってことだったけど」
「実験で思う通りの動きをしなかった子たちを、ここに捨てているという事でしょうか」
「ひどいよー」
これにもメイは、尻尾をぺちぺちさせて怒る。
「とりあえず進んでみましょうか。道は続いてるし、おそらくどこかにつながるんだと思うけど……」
「早くあの子も助けないと!」
気合を入れ直したメイが歩き出すと、同行パーティの面々も付近に気を配りながら後をついてくる。
そんな中、メイの【聴覚向上】がいち早く異音に気づく。
「……何かが来る」
慌てて武器を構える地下攻略組。
やがて目前に現れたのは――。
「獣の群れだ!」
目を赤く光らせた、黒いトラ型の狂化魔獣たち。
「【加速】【紫電】!」
その数を見て、先行したツバメが即座に前方四匹の黒トラの動きを止めた。
「助かる! 【六花閃】!」
そこに飛び込んできたのは、同行パーティの侍。
刀の六連撃で斬りつける。
「「「【ファイアスプレッド】!」」」
すかさず放たれる魔導士たちの連携で、見事に黒トラたちを焼き払った。しかし。
「しまっ……!」
倒れゆく前衛の陰から現れた黒トラが、エフェクト付きの高速移動で迫りくる。
剣士は慌てて防御に入るが――。
「ゴアアアアアア――――ッ!!」
「【咆哮】かよッ!!」
三人の前衛が一斉にのけ反った。
この隙を突き、新たな二匹の黒トラが猛然と飛び掛かってくる。
「せーのっ!」
そこに割り込んできたのはメイ。
「【フルスイング】!」
豪快な風切り音と共に振り上げられた【蒼樹の白剣】に弾き飛ばされた黒トラたちが、後続の個体を巻き込んで倒れる。
メイはそのまま、武闘家少女の手を引いた。
「ッ!?」
向けられる笑み。
直後、武闘家少女の背後をレンの【フリーズブラスト】が駆け抜けていく。
残った黒トラたちも、氷嵐に吹き飛ばされて倒れた。
「……まだ、何かくるよっ!」
メイの声の直後、必死の表情で駆けてきたのは赤い腕章の王都兵。
「元老院兵だ!!」
突然の乱入者に、すぐさま武器を向ける同行パーティの面々。
「待って! これ、防衛クエストの可能性があるわ!」
「「「ッ!!」」」
レンの一声で動きを止める。
見れば確かに元老院兵のHPゲージは減っている。
そして、そんな兵士を追ってきたのは――。
「なるほどね……キマイラの合成獣感は『失敗作』の雰囲気が出るわね……っ!」
獅子の顔と山羊の顔、そして竜の顔と翼を持った魔獣が猛然と駆けてきた。
黒い体躯に、真っ赤な目。
元老院兵は、慌てて岩塊の陰に隠れる。
するとメイたちの姿を見つけたキマイラは、竜の首を高く持ち上げた。
「この感じ、ブレスがくるよっ!」
メイの声に、全員が近くの岩塊に慌てて身を隠す。
「これは、強化版【ファイアウォール】だわ……っ」
竜顔の吐いた赤熱の炎はごうごうと燃え続け、メイやツバメを始めとした前衛と後衛を分断してしまった。
「これ、ちょっとマズそうじゃない?」
後衛の魔導士がつぶやくのと同時、キマイラは炎の壁を突き破ってレンたちのもとへ。
ボス級モンスターを相手に、後衛だけのパーティで挑む形になってしまう。
突然おとずれた窮地に、慌て出す後衛組。
先頭に立ったのはレンだった。
「私が前衛になるから援護をお願い。いつも通りの感覚でいいわ」
「「「はいっ!」」」
狙いをレンに絞り、迫るキマイラ。
「っ!」
獅子顔の喰らい付きを、バックステップでかわす。
するとキマイラは、立て続けに爪による振り降ろしを放ってきた。
これもレンは、横への移動で回避する。
「「「【アイスエッジ】!」」」
するとそこに、魔導士組の連携が決まって1割強ほどのダメージを奪った。
「……うま」
「前衛の回避だろあれは……」
しっかりと後衛が援護できるような回避をしてみせたレンに、驚きの声を上げる剣士たち。
「【魔力蝶】【フリーズブラスト】」
これだけにとどまらず、レンは四匹の黒蝶を展開。
尾撃をジャンプでかわすと、蝶たちが連続で氷閃を放ち、キマイラのHPを削る。
続けて竜顔の放つ炎弾を横移動で回避し、再びカウンターの魔力蝶でダメージを取る。
さらに山羊顔が吠えると、目前に光の玉が現れた。
「ッ!!」
レンは即座にその場を離れる。
すると光球が爆発し、付近一帯を薙ぎ払った。
すぐさま魔力蝶による反撃を決めると、キマイラが体勢を崩す。
「おねがいっ!」
「「「【アイスエッジ】!」」」
後衛組の援護魔法による追撃で、キマイラはさらに大きくのけ反った。
「なんだあれ……」
回避に集中しつつ、ダメージは魔力蝶で取る。
前衛魔導士と化したレンに、後衛組が援護を入れるという見たこともない戦い方に、前衛組は目を奪われる。
「【フリーズストライク】!」
この隙にレンは【魔剣の御柄】を手に走り出し、体勢を崩しているキマイラに斬り掛かり三連撃。
「【解放】」
そのまま氷塊弾を叩きつけると、キマイラは吹き飛ばされて怒りの咆哮をあげた。
残りHPは3割ほど。
目を真っ赤に輝かせながら、猛然とレンに向かってかけてくる。
しかしレンは真正面から迫るキマイラを前に、『釣り』でもするかのような仕草を一つ。
「お、おい! どうした!?」
「なんで動かないんだ!?」
『エサ』になったレンに、キマイラは意識を集中させる。
「四足獣は腰を落としたら――――飛び掛かり」
それはメイが幾度となく示してきた、お約束。
レンの数メートル前で、予想通り腰を落とす動作を見せたキマイラ。
それを確認したレンが一歩、横に踏み出すと――。
「【投擲】」
獅子顔の頭部にツバメの投げたブレードが刺さり、カウンターを取られたキマイラの動きが鈍った。
そして、それに続くのは――。
「大きくなーれ!」
【蒼樹の白剣】を掲げたメイ。
「いっくよー! 【フルスイング】だああああーっ!」
立ちふさがる炎の壁ごと、成長した樹木の剣がキマイラを叩き潰した。
「メイ、ツバメ、ありがとう!」
「すぐ思い出したよ! ルルタンでやった『釣り作戦』っ!」
モンスターを一人に集中させて、そこを狙う。
そんな作戦を成功させたレンは、駆けつけて来たメイたちとハイタッチ。さらに。
「皆の魔法援護も助かったわ」
後衛組に向けて杖を掲げてみせた。
前衛との分断という危機を見事に乗り越え、逃げてきた元老院兵も無傷の防衛。
後衛組も歓喜にわき上がる。
「……闇の使徒ちゃんもすげえなぁ」
「ファイアウォール系の魔法も、【投擲】と伸びる剣で破っていくのか……」
そしてすっかり観戦者になっていた前衛組は、感嘆の息をついたのだった。