作品タイトル不明
310.スティールから逃げるな
迷路と化した配管区画を抜けたメイたちは、さらに下層へと向かう。
そこはまた石積みの路が続く、地下通路。
道を進んで行くと、鎧装備の剣士が前からやって来る。
「王都兵よ!」
すぐにレンとツバメが戦闘態勢に入る。
「……待ってレンちゃん、何か様子が違う気がするっ」
しかしメイの言葉に、二人は動きを止めた。
すると王都兵NPCは「冒険者か?」とつぶやいた後、慌ててメイたちの前に駆けてきた。
「ここは一体……どうなってるんだ!?」
王都兵は、鉄仮面姿のまま座り込む。
「見回り中に偶然見慣れない鉄扉を見つけて入ってみたら、どこまで行っても地下通路が続いてるし、中には化物もうろついてる……王都にこんな地下があるなんて知らなかった」
迷子の王都兵は、肩を震わせる。
「だが……何より恐ろしかったのは従魔や動物を狂わせている謎の部屋だ」
「謎の部屋?」
「見ちまったんだ……変な部屋に入っていく元老院兵と……そこで行われていた実験を……っ」
「やっぱり王都兵と元老院兵は別物なのね」
そう言って、レンは【銀閃の杖】を手に取る。
「噂をすればってところかしら」
銀の鎧の各所に、金の飾りのついた王都兵。
現れたのは、その中でも腕に赤い腕章を付けた者たち。
元老院の所属の兵士たちだ。
「――――まとめて始末しろ」
動き出す元老院兵と同時に、王都兵にもHPゲージが現れる。
「防衛クエストみたいね。そしてこれ見よがしに懐にしまったカギ」
懐に入れたということは、ドロップに期待するか盗めという事。
確実なのはもちろん、盗む方だ。
駆けつけてくる四人の元老院兵は、右手には槍、腰に短剣。
まさに、この狭い空間を利用して戦うための装備といった感じだ。しかし。
「【バンビステップ】」
動き出したメイが四人の目前に迫り、突き出された槍をかわす。
「がおおおお――――っ!」
放つ【雄たけび】は誰一人逃すことなく、元老院兵をまとめてダウンさせた。
「【連続魔法】【ファイアアロー】!」
ここでレンが炎の矢を三連発。
全員倒してしまったらカギが手に入らない可能性がある。
敵の耐久を確認しつつ、最悪でもカギ持ちの一体は残る攻撃だ。
炎の矢は三体に直撃したが、打倒には至らない。
「元老院兵はそこそこ強いみたいね」
しかし余裕は変わらない。
「よっ! はっ! それーっ!」
HPの削れた三体は、メイが通常攻撃で難なく打倒。
これで早くも残りは一体。
カギを持った元老院兵のみだ。
「それでは、よろしくおねがいしますっ!」
「……はい」
一対一の状況を作ったところでバトンタッチ。
ここでツバメは装備を【強奪のグローブ】に変更。
「槍をかわして【スティール】! 短剣の連撃に距離を取りつつ【スティール】!」
敵の動きを見切り、素早い回避と同時に華麗な【スティール】失敗を見せつける。
「や、槍をかわして【スティール】! 短剣の連撃に距離を取りつつ【スティール】……っ!」
レンは邪魔にならないよう壁際に座り、増援等がないか確認しながら【スティール】劇場の観覧に回る。
「ヤリヲカワシテ【スティール】……タンケンノ……【スティール】……」
メイもその隣に腰を下ろし、「ツバメちゃんがんばれー!」と拳をあげる。
「スティールスティールスティール……スティールスティールスティールスティール……」
もはや、緊張感なんて消え去ってしまった王都地下。
「ひっ、ひいいっ!」
王都兵NPCはそれでも、戦闘が続く限り指定のリアクションを続ける。
「……だんだん、この悲鳴が私のスティール成功率の低さに恐怖しているかのように聞こえてきました」
ツバメはついに、被害妄想に陥りだす。
「この、ツバメがおかしくなるにつれて身体の力が抜けて、回避が神がかっていくのがすごいのよね」
「わかるよっ! 全く当たる気がしないんだよね!」
「そして盗める気も全くしないって言うね」
ツバメは洗練され尽くした回避と、全然成功しない【スティール】をひたすらに続ける。
「す……てぃーる……すてぃー……る……」
「ツバメ、がんばって」
「負けるなツバメちゃんっ」
「るすてぃー……るすてぃー」
輝きを失っていく瞳。
それでも成功しない【スティール】
やがてその目が、本当に光を失いかけた頃――。
【強奪のグローブ】がようやくエフェクトを光らせた。
「や……やりました……やりましたぁぁぁぁーっ!!」
ようやく手にしたカギ。
ツバメは歓喜の声と共に、その場に崩れ落ちる。
「よくやったわね!」
「ツバメちゃんナイスーっ!」
叫んで、駆け出す二人。
「それっ! レンちゃん!」
メイが【蒼樹の白剣】で元老院兵を転がす。
「はい【フレアストライク】!」
トドメはレンの炎砲弾。
追手の元老院兵たちは、これで全員その場に倒れ込んだ。
「ッ!?」
しかしメイが異音に気づく。
すぐに構えを取り直す三人。
「誰かいるのか……?」
そこにやって来たのは、王都地下の情報を知って探索にやって来たイベント参加者たちだった。
「盗んでも盗んでも盗み足りない、ものすごく強欲な盗賊がいるって話を聞いてきたんだけど……」
「…………」
スティール連呼を『強欲な盗賊』と勘違いされ、ツバメは言葉を失う。
「ていうかあの耳と尻尾。メイちゃんじゃないか?」
「本当だ! メイちゃんだ!」
「はいっ! メイですっ!」
やって来た参加者たちは、20人に及ぶ大パーティだ。
メイを見て、テンションを上げている者も多数。
「ここで出会うってことは……あの地獄の配管を、気合で乗り越えてきた感じか?」
「いえ、おそらく最短に近い形でここまで来られたんだと思う」
「マジか……俺たちは30人がかりで来て、10人失ったうえに6時間もかかったのに」
「すげえな、これがメイちゃんか」
苦戦を続けてたどり着いたのであろうプレイヤーたちは、感嘆の息をつく。
「な、なあ、これからどうするんだ? 俺は帰れるのか?」
するとここで、王都兵を連れて地上へ戻れというクエストが発生。
「……せっかく先に進めそうなのに、一度戻るかどうかを決めさせるのね……」
これにはレンも悩む。
「そういうことなら、俺たちが連れて帰ろうか?」
すると大パーティの魔導士が、そんな提案をしてきた。
「いいの?」
「俺はMPも危ういし、ここまでの道は覚えてるからすぐに戻れる。上の階で迷ってる連中にもここへのルートを教えつつ戻ることにしようと思う。ここからはパーティを帰還組と攻略組に分けて進めばいいんじゃないか?」
こうしてメイたちは、手にしたカギを持って王都地下攻略を続行。
王都兵士を連れて戻っていくパーティを見送った。
「あたしたちはメイさんと一緒に行きます!」
「よ、よろしく頼む」
「はい! よろしくお願いいたしますっ!」
すでにメイと冒険することが目的になってるプレイヤーに、思わず笑みがこぼれるレン。
こうして三人は、王都兵士の言っていた『謎の部屋』へ向けて歩き出した。