作品タイトル不明
302.収監時の定番
運び屋クエストの途中で王都兵に捕まったメイたちは、王都兵舎の地下に収監されていた。
「……うん?」
牢屋の雰囲気を程よく味わった頃、メイの【聴覚向上】が異音を捉える。
「どうしたの?」
「何か聞こえる……」
三人が耳をすませると、コンコンと石を叩くような音がし始めた。
「こっちだよ」
メイが牢屋奥へと足を進める。
するとそこには、小さな穴が開いていた。
「……ねえ、聞こえてる?」
どうやら隣の牢に収監された何者かが、こちら側にコンタクトを取ってきているようだ。
「はい、こちらメイです」
「実はあたし、ここからの脱獄を考えてるんだ」
「脱獄……っ」
レンとツバメが「来た!」とばかりに顔を見合わせる。
「どうするんですかっ?」
「まず、騒ぎを起こして見張り兵をおびき出す」
「なるほどっ」
「そしてこっそり【スティール】を使い、カギを盗み出すんだ」
「ッ!」
ツバメ、【スティール】という言葉を聞いて即座に白目をむく。
「それって、役割分担はどうなってるの?」
「……騒ぎ役、【スティール】役、あたしはどっちでも構わないよ」
「そそそそれでしたらぜひ【スティール】役をお願いします! でないと騒ぎ役の疲労が甚大なものになってしまいます……っ! 数時間……いえ、最悪何日もぶっ続けで騒ぎ続けなくていけないことに……っ」
「わ、分かったよ」
牢屋のお隣さん、ツバメの剣幕にちょっとビビる。
「鉄格子を派手に鳴らして、見張り兵を引きつけてほしいんだ。その間にあたしがカギを盗む。成功したら錠を開けて、もう一度見張り兵をおびき寄せる。そこを全員がかりで叩いて装備を回収、そのまま脱走っていう流れだね」
「分かりました」
そう言ってツバメが鉄格子をつかむと、メイとレンもあとに続く。
「どうして囚人服を用意していないのですかー!!」
「騒ぎ方の方向性おかしくない?」
「どうして囚人服がないんだーっ!」
首を傾げるレンと、とにかく楽しそうにツバメに乗っかるメイ。
「うるせーぞ! 静かにしろ!」
すぐに見張り兵が声を荒げる。
「すぐに囚人服を持ってきてください! これでは楽しみも半減です!」
「半減だーっ!」
「うるさいと言ってるだろう!」
「メイさんの囚人服姿も、きっと素晴らしいものになるはずなのにっ!」
「わたしの囚人服姿も……えっ?」
予想外の発言に、さすがのメイも一瞬驚きの顔をする。
「おい! 静かにしろと言っているだろう!」
するとついに我慢できなくなった見張り兵が、こちらに向かって歩き出した。
鉄格子をガチャガチャさせながら、「囚人服をください」と叫ぶ奇人ツバメのもとにやって来る。
「【スティール】」
隣の牢で発動するスキル。
見張り兵が腰に提げた『カギ』が、スッと消えた。
「とにもかくにも、囚人服の件よろしくお願いします」
「……お、おねがいします」
「ったく、なんなんだよ……」
見張り兵は持ち場へと戻っていく。
するとすぐに隣の牢の錠が開き、メイたちの牢の中にカギが放り込まれた。
ツバメも続けて牢屋の錠を開く。そして。
「囚人服の準備はできましたかー!!」
「どれだけ囚人服にこだわってるのよ……」
すぐに見張り兵を呼び戻す。
「うるせえって言ってんだろ! いいかげんに――」
そう叫んで、見張り兵が鉄格子を蹴ろうした瞬間。
隣の牢から、一人の少女が飛び出してきた。
「なっ!?」
まさかの事態に、慌てて少女の方へ向かう見張り兵。
「今です」
ツバメもすぐさま牢を開け、見張り兵の背に連撃を放つ。
そこへさらに、少女の掌底が決まった。
「うぐっ」
倒れる見張り兵。
「……あなたは確か」
そこにいたのは、小さなシルクハットと長めの外套。
短めの髪で少年っぽい見た目をした、ショートパンツ女子。
「ラフテリアにいた怪盗じゃない」
「おや、君たちとはこれで二回目だね」
隣の牢に捕らえられていたのは、サン・ルルタンに行く前に追いかけっ子をした怪盗NPCだった。
三人は装備を取り戻し、いつも通りの格好になる。
「どうしてこんなところで捕まってるのよ」
レンがたずねると、怪盗少女は得意げな顔をしてみせた。
「王都の悪い連中から、奪われた大切な物を取り戻すためだよ! でも、ドラゴンが暴れたせいでドジって捕まっちゃったんだ」
「王都の……悪い連中?」
「この街には、広くて深い『地下』があるんだよ。それを見れば、色んなものが分かってくるかもね」
「地下……」
怪盗の言葉に、レンは一つの可能性に思い至る。
「ねえ。もしかして、この前の『従魔が消えたクエスト』なんだけど……地下にいるんじゃないの?」
「そういうことですか。発信地点に行ったのにホワイトパンサーは見つかりませんでした。それは……地下にいたから」
「おおーっ! レンちゃんすごい!」
「……君たちもロマリアの地下に用があるのなら、これを見るといいよ」
怪盗少女はそう言って、地下へと続く道が記されたマップを手渡してきた。
「それじゃあ行くね。元老院の者たちには気を付けて」
そう言い残して、怪盗は王都兵舎を去っていく。
「げんろういん……?」
「その悪い連中のことでしょうか」
「とりあえず私たちも行きましょう。まずはここを出て、ホワイトパンサー探しの続きを始めてみましょうよ」
「りょうかいですっ!」
「はいっ」
王都兵舎には意外にも人気がなく、あっさりと抜け出すことができた。
こうして三人は王都内へと戻り、再びホワイトパンサー探しを開始するのだった。