作品タイトル不明
157.ダンジョンに『家』があるんですか?
メイたちは難所の8階を抜け、9階を進んでいた。
地図で行き先が分かっているため、【帰巣本能】が目的地の方向を知らせてくれる。
さらに木々の上を行くメイは、敵を【遠視】と【聴覚向上】で早期発見。
この組み合わせによって三人は、軽快な動きで森を進んで行く。
「た、助けてくれー!」
「……声が聞こえたわね」
【浮遊】で付いてきていたレンが降りてくる。
「行ってみよう!」
迷わず言うメイに、レンもツバメも異論なし。
何かが起こるなら、それもまた良し。
三人はさっそく、声のした方に向かって進む。
木々を縫ってたどり着いた先にいたのは、女子二人のパーティ。
杖と剣が一体化した武器を持つ『魔法剣士』の少女が、大型のハチの群れと戦っている。
その背後には、トラばさみのような罠で動けなくなっている大人しそうな少女の姿。
「罠は私が」
ツバメはすぐに少女のもとに駆け付け、その足に喰いついている金属製の罠の解除に入る。
迫り来る大型のハチは動きも速く、やっかいだ。
メイは魔法剣士の前に立ち、一人ターゲット役を引き受ける。
「気をつけて! そいつらにたかられたら、一気にHPが削り取られちゃうんだ!」
「りょうかいですっ!」
いい返事。しかしメイは動かない。
なんと迫り来るハチの群れに対して、剣をしまった。
「お、おいっ!?」
驚きふためく魔法剣士。しかし。
「【キャットパンチ】!」
メイは襲い掛かってきた一匹のハチに向け、最速の打撃を叩き込んだ。
一度に一匹ずつ狙うのでは時間がかかってしまう。
早く連打のきくスキルは有効だ。
「よっ、はっ、たあっ!」
容赦なく襲い掛かって来るハチの突進を、身体の動きだけで回避。
お返しとばかりに放つ猫パンチで、的確にハチの数を減らしていく。
「メイ、準備できたわ」
「りょうかいですっ! 【アクロバット】!」
ハチの突撃をかわし、尻尾で軽く数匹はたく。
そうして群れが、自分を追うように仕向けた後。
「【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】!」
後方へ大きく跳躍。
当然ハチの群れは追って来る。
「発動!」
そこにレンの【設置魔法】が火を噴いた。
群れはまとめて炎に焼かれて消える。
「……このコンビネーション、我ながら非道ねぇ」
メイに散々攻撃を回避された後、追って行ったらそこに罠。
無慈悲な攻勢に、思わずレンは苦笑い。
「罠、解けました」
ツバメも無事、【罠解除】で少女を助け出した。
しかしそこに、残っていた最後の個体が現れる。
罠から抜け出たばかりの少女目がけて、猛スピードで飛来してくる。
「お願いしますっ」
笑顔で告げるメイ。
「あ、ああっ! 【ウィンドブレード】!」
魔法剣士少女の放つ一撃が、最後のハチを切り裂いた。
「やったあ!」
拳を突き上げ、ぴょんと跳び上がるメイ。
これにて、巨大バチたちは全滅となった。
「…………助かった」
メイたちの見事な連携を目の当たりにして、息をつく魔法剣士少女。
「助かりました。ありがとうございます」
ふわりと長い髪を揺らす神官少女が、頭を下げる。
「あたしたち遭難しちゃってさ……ここ、9階でいいんだよなぁ……?」
辺りを見回す魔法剣士。
「9階で合ってるわよ」
「探しに来たアイテムを運よく11階で見つけたところまでは良かったんだけど、その後罠とモンスターに襲われたんだ」
「仲間が一人リスポーンしてしまいました。11階の途中で『ここは私に任せて先に行け』って……その後すぐに」
「その後、どうにかここまで登って来たんだけど道に迷っちゃってさ」
そう言って魔法剣士は、見たことのない宝石を取り出した。
「ようやく見つけた念願のアイテム。そのリスポーン仲間がずっと欲しがってたから、なんとしてもこれを持って帰りたいんだけど……ここでまた罠にかかっちゃったってわけなんだよ」
「まさかこんな罠まであるなんてねぇ」
トラばさみを見て、レンは感嘆する。
「ここら辺は稀にだけどリザードマンが出始める階だからさ。あいつらは色んな罠を張ってプレイヤーを襲いに来るんだ」
グランダリアの恐ろしさに、魔法剣士はあらためて息をつく。
「本当に助かったよ。ありがとうな」
「ありがとうございます」
メイたちは9階入り口の目印になるものが見える位置まで、魔法剣士と少女を連れて行くことにした。
五人並んで進む森の道。
突然――――足元が抜けた。
「う、うわああああああああ――っ!!」
いきなり発動した大掛かりな落とし穴に、魔法剣士が悲鳴を上げる。
すでに崩れている足場から、跳び上がる術はなし。
五人はそのまま、陥没した地面に引っぱられるようにして落ちて行く。
「よいしょっ」
見事な着地を決め、さらに少女二人を受け止めるメイ。
「……衝突ダメージは、微々たるものね」
「ですがそこそこ深いですね。跳躍系スキルで戻れないくらいの高さがあります」
落ちた先は、岩壁に囲まれた広い空間だった。
「ここ、聞いたことあるよ……」
魔法剣士が息を飲む。
「9階から10階につながる落とし穴。これにかかって生きて帰ったやつはいないって……」
「……なるほど、こういうことね」
付近には、うんざりするほどのモンスターが集まっていた。
まるでこの付近の敵を集めて押し込めたかのような状態だ。
「これがモンスターハウスってやつかしら」
モンスターたちの完全包囲。
当然そこに逃げ場はない。
「おしまいだ……」
「せっかく助けてもらったのに……ごめんなさい」
天を仰ぐ魔法剣士少女。
申し訳なさそうに頭を下げる神官少女。
「……10階ってことは、ショートカットになるのかなぁ?」
思わぬ窮地に、しかしメイはそんな感想を口にしながら剣を取った。
「こいつらを倒した瞬間、ショートカットに早変わりって感じかしら」
「そうなりますね」
誰もが頭を抱える、最悪の状況。
「りょうかいですっ! よーし、いっくよー!」
メイは準備運動とばかりに大きく手を回すと、勢いよく駆け出した。