作品タイトル不明
156.迷いの仕掛け
モンスターが出るだけの7階は、メイたちには足止めにもならなかった。
メイの【フルスイング】のタイミング調整と、ツバメの【壁走り】練習だけであっさりと攻略に成功。
難なく8階にたどり着いた。
「わあーっ! すっごーい!」
巨大な空洞内には、森が広がっていた。
天井の岩の隙間から落ちて来る、幾筋もの水流。
さっそく手を伸ばしてみると、弾けた水が砕け散った。
思わず、顔と耳をブルブル振るうメイ。
「ここも面白い光景が広がっていますね」
「ただ、注意しないといけない点があるみたい」
広大な森の中。
マップに従ってしばらく進んだところで、狙い通り古びた二つの灯篭にたどり着いた。
手を触れると、青い宝玉がはめ込まれた方だけが点灯した。
「この時点で灯篭は一つしか点かない。でもこの階を抜けるには二つとも点けないとダメなの」
レンがそこまで説明したところで、灯篭から光が放たれた。
「光の向かった方角にある青い宝玉を取ってくれば、灯篭を二つとも点けられるって形ね……ただ」
「レンちゃん!」
メイの【遠視】が、その姿を捉える。
離れた木々の隙間に見えたのは、一匹の大猿。
大猿は付近にあった倒木を持ち上げると、そのまま投擲して来た。
「ッ!」
メイの注意で視認が早まったことで、回避は余裕。
飛んできた倒木は、そのまま三人の間に突き刺さった。
「【加速】」
この隙を突き、ツバメが動き出す。
しかし大猿は木々の隙間を移動し、絶妙な距離を維持してくる。
「【誘導弾】【魔砲術】【ファイアボルト】!」
続くレンの魔法も、木々にぶつかり弾け散った。
「このままじゃ的にされる一方ね。追って倒すしかないんだろうけど、追えば宝玉の場所が分からなくなるというわけ……ッ!」
投じられたのは大きな岩。
三人はこれをかわし、まずは宝玉の方向へ行くことを優先。
灯篭から光が放たれるのは一度だけ。
この方向を忘れてしまうと、当てもなく森を探し回ることになってしまう。
もちろん大猿はこの間にも、投擲を続けてくる。
「【バンビステップ】【フルスイング】!」
「ありがとメイ!」
「どういたしましてっ!」
次々にやって来る飛来物。
その中からヒットコースにあるものはメイが見事な剣さばきで弾き、一気に宝玉のもとへ。
「ていっ!」
飛んできた硬い木の実をメイが弾き返したところで、レンが低木に生った青い木の実を手にする。
どうやら宝玉の正体は、この場にしか生えない特殊な植物の実だったようだ。
すると大猿は、観念したのか一転襲い掛かって来た。
「ようやく戦闘らしい戦闘になるわけね!」
「おまかせくださいっ!」
すさまじい勢いで迫り来る大猿の前に、立ちふさがるメイ。
「【アクロバット】からの【アクロバット】!」
太い枝の振り回しを、二度のバク転で見事にかわす。
すると大猿は大きく跳び上がり、そのまま手にした枝を振り下ろしにきた。
「もう一回【アクロバット】!」
メイは大猿の攻撃を、数センチの距離でかわして剣を引く。
「今度はこっちの番だーっ! 【フルスイング】!」
豪快なエフェクト共に放たれた剣は、大猿の身体が地面に潜り込むほどの勢いで叩き込まれた。
わずか一撃で、大猿は粒子になって消えた。
「さすがメイさんです」
「大猿よりアクロバティックだったわね」
見事な勝利に、三人でハイタッチ。
「ただ、問題はここからなのよ。ツバメはあの灯篭がどっちにあったか、分かる?」
「そういうことですか。確かにもう見当がつきません……」
「一応私も目立つ木を目印にここまで来たんだけど……【ファイアボルト】!」
唐突に放ったレンの火炎魔法が、一本の樹木に当たる。
すると樹木が慌てて位置を変えた。
「紛れてる樹木のモンスター、トレントが位置を変えて迷わせにきてるのよ」
「恐ろしい仕掛けです……」
「大猿の投擲のせいで宝玉の位置が分からなくなる。戻り際は直接戦闘をさせられて現在位置すら分からなくなる。そのうえ動く樹木に迷わされているうちに、消耗してしまうって寸法みたいなんだけど…………メイ、どうかしら」
「さっきの灯篭は、あっちですっ!」
ビシッと、指と尻尾で行き先を指し示すメイ。
そんな高難易度の仕掛けも、【帰巣本能】の前には関係なし。
一度認識した場所は、どこからでも分かる。
先行するメイについて森を進むと、すぐに灯篭のもとに戻ることができた。
「この小さな灯篭のところに、戻って来られないパーティが多いみたいなのよ」
「まさに迷いの森ですね……」
二つ目の灯篭にも、無事に光を灯すことに成功。
すると二つの灯篭の間に、階段が現れた。
「次の階は、何があるのかなっ」
本来は何人かを灯篭の前に残し、狼煙なんかを使って対処する形になるこの仕掛け。
なかなかの難所を、メイたちはたった三人で突破してしまう。
はずむ足と揺れる尻尾。
現れた下り階段を軽快に下り、難関の8階もあっさりと通過していくのだった。