作品タイトル不明
1451.地上目指して走ります!
「急げ! 迷子ちゃんのところに走れ――っ!!」
行き止まりの空間に、迫り来る崩落と溶岩。
そこに現れたのは、途中ではぐれて姿を消した迷子だった。
足元に描かれた『地中路の魔法陣』は、発動すれば別の空間まで続く道が生まれるギミック。
「迷子ちゃんさん、助かりました!」
「ありがとーっ!」
前衛組が魔法陣に飛び込み消える。
その直後に後衛組も、大急ぎで陣の上に滑り込んだ。
「セーフ!」
最後の一人がマントを焦がしながらも、どうにか魔力路の中に逃げ込むことに成功。
「この道は、どこに続いているぽよ?」
「二階分ほど上のホールに続いていますよ。迷っていた時に踏んだ魔法陣が、各所へのワープ装置になっていたことに気づいたんです」
「まさかここで迷子ちゃんが救世主になるとは、思わなかったなぁ」
「もう迷子になった方が助かるのか、ならない方が助かるのか分からんなこれ」
そんなことを言いながらも、駆け足で出口へ。
「「「っ!!」」」
そして感じる、大きな揺れ。
合わせて岩壁にヒビが走り出した。
「どうやらワープをしても、崩落と溶岩はすぐに追って来るみたいね! 行きましょう!」
「りょうかいですっ!」
すぐさま全員で走り出す。
「あ、あわわわわわっ!」
もちろん帰り際に【アダマンタイト】を見つけてしまったお姉さんプレイヤーも、ブンブンとうなずき駆け出した。
ここで死に戻れば最高の戦利品を失ってしまうため、緊張はもう最大だ。
「「「っ!!」」」
その道の先にあったホールには、なんと火山蜘蛛が集結していた。
「ほ、他の道はなさそうですね」
「それなら押して通るしかないわ! 【フレアストライク】!」
「【フレイムストライク】!」
「【烈炎の矢】!」
「いきますっ! 【バンビステップ】【フルスイング】!」
初撃の炎が、手前のクモを焼く。
その中を駆け抜けていったメイは、豪快な振り払いで二匹のクモを斬り飛ばし、巻き起こる風がさらに二体を足止める。
「【加速】【リブースト】【アサシンピアス】!」
ツバメが即座に続き、残った一体のもとに駆け込むのは迷子。
「【スリップ・フット】【ジェット・ナックル】!」
手際のよい連携で、完璧な先手を取った。
だが戦いは、ここから入り乱れになっていく。
「うおおっ!?」
クモの糸を喰らった前衛騎士は、その粘着ぶりに動きを完全に停止させられた。
「うわああああ――っ!?」
そこに落ちてきた岩が直撃し、大きく弾かれHPも大幅減。
見れば後ろの武闘家も、なかなか糸を断ち切れずにもがいている。
動きを止める術を持つクモは、帰り道にこそ面倒な魔物になるようだ。
「【大兜割り】!」
横の戦士が振り下ろした斧は、クモを大きく弾き飛ばす。
「あぶないっ!!」
その瞬間を狙った新手のクモが、糸を飛ばそうとした瞬間。
「【バスターゲイザー】!」
砂煙をあげながらの突進から続くド派手なエフェクトのアッパーで、クモを天井に叩き込んだ。
迷子の登場で、前衛の危機回避力が厚くなっている。
「【地壁の盾】!」
後衛では放たれたクモの糸を、まもりが受け止めた。
「【砲弾跳躍】ぽよっ!」
前衛が厚くなったことで、攻防一帯のスライムが後衛寄りの位置を取れる。
即座に前へ進んで、クモを打倒。
「盾子さん! 上ですっ!」
「はひぃっ! 【シールドバッシュ】!」
スライムが後方に来たことで、視野が広がった計算君の声。
まもりはすぐさま盾に付いた糸を、吹き飛ばしながら跳び下がる。
「【天雲の盾】!」
すると流れ落ちてきた大量の溶岩は、どうにか盾で止められる量を受ける形で済んだ。
残りHPが危ういまもりは、迷子が来たことによる陣形の変化で守られた。
「お、おしまいだぁ……」
一方悲壮な声を上げたのは、すっかりクモの糸でグルグルにされてしまった【アダマンタイト】お姉さん。
糸は手や武器を使って解くこともできるが、そんな時間の余裕はなし。
足もとに走り出すヒビ割れ。
そこには赤く輝く溶岩が見える。
「HP少し削るわ! 【フレアストライク】!」
「たたた助かりましたぁ!」
レンの炎で焼かれてHPは減ったが、クモの糸による拘束も解消。
すでに顔面蒼白だった【アダマンタイト】お姉さんは転がった後、慌てて前進。
直後、さっきまでいた場所に溶岩が吹き上がった。
「良かったぁ……!!」
死に戻りを避けられて、歓喜の声を上げる【アダマンタイト】お姉さん。
ともすれば彼女が今一番、この溶岩脱出クエストを楽しんでいるかもしれない。
「進みましょうっ!」
この場にいたクモを大方片付けたメイたちは、再び坂を登り出す。
登山級の角度の傾斜を必死に上がると、再び魔法陣で移動。
「この感じ、出入り口付近の照明の雰囲気だわ!」
「……ですが、最後の道が!」
後ろからは追って来る、崩壊と溶岩。
前に広がる道は、全体にクモの糸が張られた『巣』になっている。
とにかく白いその道は踏めば速度減少、絡めば拘束という厳しいマップになっている。
そしてクモ自身は地面と天井から、同時にやって来る。
「全員、撃って! その後はとにかく前進、倒すことより逃げ出すことを優先で!」
「「「了解っ!!」」」
レンの言葉に始まる総攻撃。
後衛組の放つ全力の一撃が、容赦なくクモたちを吹き飛ばす。
そして前衛組を先頭に駆け出せば、倒れたクモたちはすぐに溶岩に飲み込まれて消えた。
「【フルスイング】」
ホールの出口に立ち塞がったクモを、メイが一撃で消し飛ばす。
「【砲弾跳躍】ぽよ―っ!」
「【オクタブレード】!」
続いて掲示板組が、左右から集まって来たクモたちを掃討。
「溶岩、気を付けろっ!」
「っ!?」
しかし突然噴き出した溶岩が、マウント氏を直撃した。
「お前のことは忘れない!」
「必ず俺たちが生きて語り継ぐからな!」
「まだ死んでないんだが!?」
即座に死んだことにされて、すぐさま反論するマウント氏。
その残りHPは、2割を切っている。
「っ!」
そんな中でツバメは、糸だらけのホールの隅にいたクモが、糸を丸く集めて『溜めている』の気づいた。
それは放たれれば炸裂し、大きな粘着網としてプレイヤーをまとめて捉える最悪の一撃だ。
「【加速】!」
運よく気づいたツバメは流れを外れ、単身クモのもとへ。
「【三日月】!」
放つ刀の一撃で、【クモの巣網】攻撃を防いで仲間たちを救ってみせた。しかし。
「っ!!」
突き立つ岩塊と糸に隠された二体目のクモが、糸を発射。
このまま張り付けにされた場合、誰かが助けに来なければ確実に溶岩に追いつかれてしまう。
叫んで助けを求めても、魔法や矢による攻撃に巻き込んでの解除は、残りHPが少ない状態のため厳しい。
ゴール目前の危機にツバメが、息を飲んだその瞬間。
「せっ、【旋風剣】!」
それは、風を巻き起こす剣撃スキル。
レベルの高いものではないが、飛んできていたクモの巣を見事に霧散した。
「助かりました……っ!」
ビクビクだった【アダマンタイト】お姉さん、ここで最高のアシストを見せる。
脱落を阻止されたツバメは即座にクモを打倒し、お姉さんと共に後衛組に合流。
「見えた! 出口だよっ!」
入り込んだのは一本道。
ついに見えた出口に、メイが声を上げて振り返る。
しかしそこで見えたのは、これまでのものを上回る大きさの大火山蜘蛛。
凄まじい勢いで、最後尾から追って来る。
こちらは『溜め』を必要とせず、【クモの巣網】を発射。
「「「うわああああ――――っ!!」」」
最後の最後で、最後尾にいた複数人の後衛組が同時捕獲された。
「俺はいい! 先に行ってくれ!!」
「俺はいい! 先に行ってくれ!!」
「俺はいい! 先に行ってくれ!!」
ここぞとばかりに、全員が決める凛々しい顔と定番の台詞。
しかしメイは一言。
「皆さんは先に進んで、そのまま外へ出てくださいっ!」
一転、来た道を戻る形で走り出す。
「メイもボスの斧を拾ってるんだから、気を付けてね!」
「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」
掲示板組やレンたちにも、いち早い退避を『うなずき一つ』で頼みつつ大グモのもとへ一直線。
「【裸足の女神】!」
超加速で敵の懐に入り込んだ。
「【フルスイング】からの【フルスイング】!」
叩きつけからの振り上げで、斬り飛ばされた大クモはそのまま、迫り来る溶岩に飲まれて消えた。
「……メイちゃん? 今から解いても間に合わない。君だけでも……逃げてくれ」
「大丈夫ですっ!」
演技120%の決め台詞を、一瞬で返されて唖然とする掲示板組。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
「えっ!?」
大クモを倒したメイは頭を【鹿角】にすると、なんと右手で【クモの巣網】を引きずり駆け出した。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
華麗な足の運びで、足元に落ちた岩を避けながらの疾走。
レンたちはメイの言葉通り、下手に洞窟内に残らず出口の一歩前で待機。
全速力地引網メイの接近を見て、外へと飛び出した。
「いける! いけるぞっ!」
メイの走りに、思わず上げる声。
このまま行けば、溶岩につかまらずに逃げ切れる。
そう思った、その瞬間だった。
「っ!?」
ゴール目前の天井に輝く魔法陣。
そこから落ちてきたのは、アリだった。
メイの進路を塞ぐ、三体のアリ。
それでもメイは止まらない。
「【裸足の女神】!」
そのまま最高速で二体を置き去りに突き進み、最後の大型アリに飛び掛かられる。
この状況では、回避は不可能。
剣を振ってしまえば、溶岩につかまる。
だが、それでもメイは止まらない。
「【ゴリラアーム】だああああ――――っ!!」
なんとメイは右手で網を引きながら、さらに最後の大アリの前足を左手でつかんで突っ走る。
そしてメイは、大アリもまとめて担いだまま洞窟を爆走。
「それええええええええ――――っ!!」
そのまま外へと飛び出した。
「「「っ!?」」」
これには、さすがの掲示板組も驚愕する。
直後、迫り来ていた大量の溶岩が出口から盛大に噴き出した。
「間に合ったああああ――っ!!」
大アリを抱え、網にかかったプレイヤーも網ごと引きずりながら跳び出してきたメイ。
なんと脱落者は驚異のゼロ。
予想もしなかった最後の光景に、誰もが唖然としたのだった。