作品タイトル不明
1418.ボス猫の真価
主要武器を、ボス猫に奪われてしまったメイとツバメ。
見事な『盗み』と、倒してはいけないという制限はなかなかの厳しさだ。
そして猫たちを使役するボス猫は、ここでさらに変則の一手を打ってくる。
「みゃーお!」
なんとその体躯が、一瞬で小型化。
今度はその狙いをレンに変え、猫の一団と共に襲い掛かってくる。
「混ざられたら、どれに注意していいのか分からないわ!」
盗賊猫たちの飛びかかりは、もはや猫の波が迫り来るかのよう。
レンはとにかく、逃げる他にない。
「【バンビステップ】!」
だが、メイには見えている。
迫るのは跳躍したボス猫による、光る爪の一撃。
まもりに借りた【碧樹の盾】を構えたメイは、鋭いエフェクトの斬撃を受け止めてみせた。
ボス猫は見事な空中回転で体勢を立て直し、着地。
「ありがとうメイ! 考えてみたら普通の猫たちは、倒しても構わないはずよね! さあ、喰らいなさいっ!」
小型化したボス猫以外は、吹き飛ばしても問題ない。
ならばここで炎砲弾を炸裂させて、邪魔な盗賊猫たちを減らしてしまうのは正しいやり方だ。
すでに主要装備を、四つも盗られている状況。
レンは心を鬼にして、杖を構える。
すると先頭にいた美猫が、レンの脚に顔を擦りつけて一言。
「……みゃお」
「その手は反則じゃない!?」
最後にはかわい子ぶって許されようという、おそろしい非道ぶりを見せる猫。
狙い通りレンは、魔法が放てずに制止。
「みゃーお!」
「えっ!? きゃああああ――っ!!」
一方ボス猫の咆哮で一斉に集結した猫たちは、そのまま身体を一気によじ登り、レンを猫まみれの塔と化す。
そしてサーっと引いていくと、髪をボサボサされたレンが杖を盗まれていた。
「……ど、どうせなら防具の方を持って行きなさいよ! そうしたら必然的に闇の装備が外れるんだから!」
最強装備をしないのは、ゲーマーとして『なし』
でもなくなってしまったなら、『仕方なく』別の装備を使う……闇の雰囲気がないものを。
そんなことを考えてレンは、ちょっと筋違いの苦情をあげた。
しかしレンのもともとの狙いに気づいたメイは、代わりに反撃の狼煙を上げる。
「分かった! こうすればいいんだ! いーちゃん!」
メイの肩に飛び乗ってきたのは、白色のイタチ。
「「「にゃああああああ――っ!」」」
噴き出す突風に、猫たちは狙い通りころころと転がっていく。
そしてほうきで掃いたホコリのように、まとめて壁際に集まった。
こうして一時的とはいえ、大して隠れられていない状況に戻ったボス猫。
その体躯を元の大きさに戻すと、おもちゃを見つけたかのように目をらんらんと輝かせてモード変化させる。
「「「「っ!?」」」」
超高速移動で、ツバメのもとに突進。
ツバメは慌てて防御に入るが、放つ攻撃は猫パンチ。
これを受けさせ、防御を崩したところで接近して【くわえる】を発動。
なんとボス猫は、ツバメの首根っこに噛みついた。
そしてそのままメイに向かって特攻、ツバメを豪快に振り回す。
「ツバメちゃん!? うわああああ――っ!!」
その力強い一撃にメイが転がると、ボス猫は続けざまにレンのもとへ。
「きゃあっ!?」
立て続けのツバメ振り回し攻撃で、レンからも転倒を奪った。
さらにボス猫は、まもりをねらって突撃。
「【クイックガード】【地壁の盾】、盾!」
まもりはツバメ攻撃を、しっかり盾で弾く。
するとボス猫は、まもりが再び盾を構えたところでツバメを投擲。
「えっ、ええええ――っ!?」
今回ばかりは受け止めなくてはと、まもりは盾を降ろしてツバメを抱き留めた。
もみ合いながら、倒れ込んだ二人。
「うええっ!?」
するとボス猫は今度、その口でまもりをくわえ上げて一回転。
「「きゃああああ――っ!」」
迫ってきていたレンにぶつけて一息。
あらためてツバメの首ねっこをくわえると、そのまま引きずり駆けていく。
「ちょっと待って! 仲間を盗んで行かないで!」
「もしや、弟子にしてもらえるのでしょうか?」
「だとしても、もう少し見どころありそうなのが他にいくらでもいるでしょう! とにかくツバメは返しなさい!」
「…………」
ついに本人が盗まれたツバメ、レンのもっともな言葉に口をつぐむ。
「【低空高速飛行】!」
慌てて後を追ったレンはツバメをつかみ、引っ張り返す。
するとまもりも駆けつけて来て、レンにしがみついた。
「ツバメを返しなさい……っ!」
「と、とても力強いですっ」
二人がかりで引っ張るが、ボス猫の力は強力で容赦なく引きずられていく。
「ツバメちゃんはあげませんっ! 【ゴリラアーム】!」
だがメイが、その『ツバメ引き』に参加した瞬間。
「「「っ!?」」」
一瞬で力関係が反転。
強烈なメイのパワーがボス猫、首をくわえられたツバメ、その裾を引っ張るレンと、ローブにしがみつくまもりを、まとめてバックドロップのような形で放り投げる形になった。
三人と一匹がゴロゴロと地面を転がり、無事にツバメ強盗の阻止に成功。
全員が入り乱れる形となり、流れが変わった。
ここで最初に動き出したのはレン。
「これでも喰らいなさい! それっ!」
クエスト受ける時にもらった【マタタビ】を投じて、ボス猫を崩しにいく。
「……ニャア」
見事な判断に、ボス猫が見せる一瞬の硬直。
「ニャアアアアアアアア――――ッ!!」
しかしこの【マタタビ】によっておかしくなったボス猫は、その場で荒れ狂いながらゴロンゴロン。
「もっと荒ぶってるじゃない! もうーっ!」
【マタタビ】の入った袋を両足で蹴って、ゴロゴロとすさまじい勢いで転がり出す。
猛烈な暴れ方に荒れ狂う尻尾はムチのように地面を叩き出し、石片が弾け散る。
「なっ!?」
予期できない転がりにツバメが跳ね飛ばされた。
「きゃあっ!」
続けてレンが敷かれて倒れ伏した。
「……あ」
だがやはり【マタタビ】自体は弱点ではあるのか、露店が盗まれた手帳をまもりが発見。
慌てて回収に駆けるが、手に取った瞬間。
「まもりちゃん!」
あらぶるボス猫が、そこに転がりながら突進。
それはまるで、大型トラックのタイヤが外れて道を跳ね転がってきたかのような、とんでもない威力。
いち早いメイの呼び声でも、余裕をもってスキルを発動する余裕はなし。
「【不動】!」
まもりが選んだのは、ただ一つ転倒を取られないためのもの。
HPはしっかり削られたが、荒ぶる猫がそこで急停止。
「……今だっ!」
予測のできない動きが止まった瞬間は、メイにとっては好機に映った。
「【四足歩行】……っ!」
「「「っ!?」」」
まさかの野生スキル発動。
ボス猫も含めた全員がその速度に、メイを一瞬見失った。
「がおおおおおお――――っ!!」
叩き込む【雄叫び】に、ボス猫は防御もできずに硬直。
「【加速】【リブースト】【紫電】!」
それを見たツバメが即座に反応し、硬直時間を伸ばす。
「【ローリングシールド】!」
さらにまもりが【大きなフライパン】を地面にぶつけて、鳴り響く音で硬直を増加。
「【ファイアウォール】【ブリザード】!」
そしてレンが再動し始めた盗賊猫たちの足を止めれば、最後は再びメイが動く。
「【猫ハーネス】だああああーっ!」
飛来する光の首輪。
発動にわずかに時間のかかるアイテムの使用は邪魔を受けることもなく、拘束完了。
「「「「…………」」」」
光と共に猫の首元を拘束する【猫ハーネス】で、後ろ首をつかまれたボス猫は大人しくなった。
これにて無事、クエスト達成だ。
「……これを見て、この子は何を思うのかしら」
そう言ってレンが顔をあげると、そこには無垢な目をしたパラス・アテネの姿。
「なんとなく、苦笑いしているように見えます」
言葉もなく主たちのドタバタを見ていた使い魔に、ちょっと恥ずかしくなるレンなのだった。