作品タイトル不明
1415.アテナノクトゥ
「かわいいーっ!」
「本当ですね」
「はひっ! こんなに可愛い使い魔はなかなか見ませんっ」
「おおー、これはかわいいー」
「ではレンさん、使い魔契約を」
「ワクワクするね!」
「はひっ!」
「ありがとう。真っ黒で青い目の狼とか、目が金色の黒猫とかじゃなくて本当に良かったわ……」
アテナノクトゥの胸元をくすぐりながら、安堵の息をつくレン。
約15センチほどの高さのフクロウは、真ん丸の目がとにかく可愛い。
手に取った【使い魔の鈴】を鳴らすと、噴き出す風。
足元に生まれた魔法陣から魔力の粒子が吹き上がり、二者を照らし出す。
「っ!」
そしてアテナノクトゥの身体を黄金に輝かせると、ゆっくりと陣がほどけていった。
通常の使い魔契約よりも、演出が運命的だ。
動物値も高い五月晴れ。
問題もなく、契約成立となる。
こうしてレンはアテナノクトゥを、使い魔として使役することになった。
「少し飛んで見せてくれる?」
そう言うとアテナノクトゥはすぐに飛び立ち、木々を上手にかわしてみせる。
やはり高い動物値が、しっかり効いているようだ。
「戻ってきて」
そう言うとふわりと滑空して、レンの腕に。
続けて、使い魔のステータス欄をのぞいてみる。
「なるほど。見た感じだとスキルはさっき使ってた【火炎弾】と【ギリーフェザー】、【高速飛行】くらいしかないけど……」
やはり先ほど見せていた様々な幻覚は、この森のルーンによるものだったようだ。
「この【見覚えの成長】というのは何かしら」
「確か主人の戦い方を見てマネする、覚えるみたいなものだったと思うー。最後にその中から覚えさせたいものを選ぶんだったはずー」
「それって、プレイヤーの能力で使い魔の『能力が決まる』一面もあるわね……ん?」
レンはスキル欄の違和感に気づく。
「何この欄の多さ。こんなにスキル欄の多い使い魔なんて、聞いたことがないわ」
「個体の持つスキルよりも、契約者のスキルを中心に覚える使い魔。これが上級魔法や補助スキル、ルーンなども使えるとなったら大変ですね」
ツバメの言う通りだ。
直接攻撃や武器を使っての攻撃スキルは使えなさそうだが、体躯的に仕方ない。
それを加味しても、自分と一部同じスキルを使うもう一人の魔導士がいると考えれば、戦いの幅も広がるだろう。
「何をどう覚えさせるかは後で決めればいいみたいだし、まずは一緒に行動して、色々見てもらいましょうか。スキルはその時決めていきましょう」
通常の使い魔は個体ごとのスキルがあり、レベルの上昇でそれを順に覚えていく。
メイのいーちゃんのようなレア個体なら、固有スキルを覚えたりする。
だがアテナノクトゥは、主人のスキルや手に入れたスキルブックの内容を覚えていくようだ。
そしてレベルに応じて、その枠の数が増える。
それは本来魔導士職のものである使い魔の中でも、最上級の面白さを持つことになるだろう。
「スキアさんもカラスとの連携で火力をあげていましたし、楽しみですね」
「あのカラスも、カッコいいよねぇ……」
見事な連携を思い出しながら、うなずくメイ。
「そういえば、この子の名前はどうするのっ?」
使い魔となれば、当然そこは気になるところ。
「確かにそれは大事な問題ね。どんな名前がいいかしら……メイは何かアイデアある?」
たずねるとメイは、「うーん」としばらく考えた後。
「やっぱり……アーちゃんかな!」
「ふふっ、絶対言うと思ったわ」
「レンさんには、何か当てがあるのですか?」
「そうね……」
メイにそう言っておきながら、自分の思い浮かぶ名前がことごとくで白目をむく。
もしこれを口にしてメイやツバメが「カッコいい!」とか言い出したら、そのまま決まってしまう流れにもなりかねないため、レンは口をつぐむ。
「ま、まもりは何かある?」
「オリーブでしょうか」
「女神アテナのもう一つのトレードマークね。よく知っていたわね」
「オリーブオイルのメーカーに、アテナのマークを使っている会社があったので……」
まもりの期待を裏切らない解答に、またレンがくすくすと笑う。
「メルーナは何かある?」
「ゼウスとかアイギスとかー、その盾に搭載されたメデューサとか。アテナ関連の単語くらいしか思いつかないー」
「アテナ関連で決めること自体は、良さそうなのよね……」
考えるレンの頭に浮かんだのは、そんな女神の別名。
「そういうことなら……パラス・アテネかしら」
これなら呼ぶ時も中二病感があからさまではないし、戦略と知恵の女神アテナの縁も残る。
「それなら、アーちゃんと呼んでも問題ありませんね」
「おおーっ! よろしくね、アーちゃん!」
こうしてレンの使い魔となった小柄なフクロウは、パラス・アテネと命名されることになった。
名前が決まると、さっそくパラス・アテネは翼を広げて反応。
その羽の輪郭一つ一つを輝かせてみせる。
「ちょっと待って。そのエフェクトは世界感強いから控えて欲しいんだけど……」
パラス・アテネ呼びだけならいい。
だがその後に翼の輪郭を光らせて応えるとなると……なかなかだ。
レンは注意するが、パラス・アテネは「はて?」と首を傾げるのだった。
「すごいー……また伝説を目撃してしまった」
いまだ伝説の類でしかない使い魔との契約。
目の当たりにしたメルーナは、今回も良いものが見られたとご満悦だ。
「これでこの後は育成時間みたいな感じになって、そこで能力が決まっていく形ね」
「まずは森を抜けて、魔法学校に帰りましょう」
「それからまた、新しいクエストでも受けてみましょうか」
「いいと思いますっ!」
レンの肩に留まる小さなフクロウを眺めながら、進む五人。
「そういえばー、ターキィの街に面白いクエストがあるって聞いたー」
「へえ、どんなの?」
「たくさんの猫が出てくるクエストだってー。何でもすごく盗むのが得意なネコなんだとか」
「猫だくさん……楽しそうっ!」
そんなメルーナの言葉に、メイは尻尾をブンブン振り――。
「こ……こちらが盗む必要はないんですよね……?」
ツバメは白目をむいたのだった。