作品タイトル不明
1413.アテナノクトゥを探します!
「ここがクインフォード北西の森ですか」
「一見すると、緑が綺麗な深い森って感じだけど……」
アテナノクトゥを探して、やってきたメイたち。
学校の北部に広がる森は広く大きい。
その一部は暗く、危険な魔物も生息するため、クエストの定番ポイントにもなっている。
だが北西の森には、クエストと呼ばれるものはない。
ただ極まれにたどり着くプレイヤーが、よく迷子になるとだけ言われる不思議な場所だ。
「メイ、どう?」
「動物が付近にいない感じかも」
それは動物や魔物たちにも適用されるのか、付近に動くものの姿はなし。
「やっぱりー、道に迷ってる」
すると、最後尾についてきているメルーナがつぶやいた。
問題の場所が北西部の『どの一帯』に当たるのかを、メルーナは理解していたようだ。
「幹に穴が開いてるあの樹はー、さっき通った時にあった。おそらくー、森を出るルートを選ばない限り繰り返すんだと思うー」
やはり、この森はおかしい。
「アテナノクトゥは、この不思議に隠されてるってわけね」
「ワクワクするねぇ……!」
「は、はひっ」
妖精のイタズラのような仕組みを実体験できるのは、この世界の特権。
そして「何か迷う」くらいしか言われていなかったこの場所に、「何かがある」と知ることができたのはメイたちだからこそだ。
「【浮遊】」
レンはふわふわとした速度で、起点になっていそうな穴あき樹木を凝視する。
特に意識するのは、通り道の裏側だ。
「…………あった」
樹皮の隙間に生まれる無数の溝の中に、紛れるようにして刻まれている傷は、ルーンのもの。
高所にあるルーンに触れると、一度まばゆく広がり光が消える。
すると厚い木々に塞がれた場所に、一本の道が現れた。
「森の中にこんな仕掛けがあるなんてー、びっくり」
校内は至る所に、仕掛けや隠し扉のあるクインフォード。
だが一見なんの建物も人工物すらない森の中にまで、こんな仕掛けがあるとは、さすがにメルーナも思わなかった。
「ルーンの可能性に気づけないと見つけられないし、シンプルに高い位置にある。これは早々気づけないわ」
稼働開始から今日まで見つからなかったのも、納得の隠ぺい具合だ。
五人は現れた道を進むと、やがて透き通った水を湛えた池へとたどり着いた。
木漏れ日を反射する水面が美しい。
「何もない……?」
しかし池は浅く狭い。
水中には特に何もなく、水の湧き出している部分が歪んで見えるのみ。
しばらく観察してみるが、異変も無し。
四人が困っていると――。
「ここにはルーンもなさそうだけどー……メイ、一応【アメンボステップ】を使ってみてー?」
「りょうかいですっ! 【アメンボステップ】! あれ……?」
メルーナの言うようにスキルを発動するが、走れない。
水面に足が乗らず、池底に着いてしまう。
すると今度はツバメが、ブレードを取り出した。
「【投擲】! この水……凍りません」
さらにツバメが【氷ブレード】を投じるも、水は凍結する様子もない。
「水で何かを隠すやり方はー、魔法学校内にもいくつかあったから」
「この水が、池自体が偽物ってこと?」
「「「「っ!?」」」」
レンがそう言うと、まるで空間が収束するようにして消滅。
足元の魔法陣が、輝きを灯して消えた。そして。
「レンちゃんっ!」
「そういうことね」
池が消えると、その先の木の枝には高さ15センチ強ほどのフクロウが一羽。
こちらを見据えながらその翼を広げると、羽の輪郭に灯る輝き。
その神々しいエフェクトが、特別であることを示唆している。
明確にこちらを見た後、羽ばたきと共に飛行を開始。
「追いかけっこ勝負ね!」
森の奥へと飛んでいくアテナノクトゥを追って、動き出す。
「【低空高速飛行】!」
木々をかわしながら進むレンは見事だが、やはりここで先行するのはメイ。
「【バンビステップ】!」
立ち塞がる樹木など、最初からないかのような速度で先行。
「少し右に避けてくださーい!」
さらにメイが言えば、木々が身体を傾ける。
「【モンキークライム】【ラビットジャンプ】!」
早くもアテナノクトゥを捉え、狙いすました跳躍に入る。
するとそれに気づいたアテナノクトゥは、【高速飛行】で急加速。
見事にメイをやり過ごした。
「高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」
ここでレンは、前方の木の幹に氷弾をぶつけて牽制。
「【加速】【加速】【加速】!」
そこにツバメが迫るが――。
「っ!?」
その先にあったのは、木々のバリケード。
幾重にも絡み合った枝の隙間を、小さな身体を活かしてすり抜ける。
一方のツバメは、加速が止まらず突っ込んだ。
しかし、止まらない。
なぜか枝に止められることなく、突っ切って転倒。
さらにアテナノクトゥは、輝く翼を開いて魔法を発射。
迫る火炎弾にツバメは防御を選ぶが、これもノーダメージ。
「……これはもしや、幻覚の類ですか?」
ツバメの予想は正解だ。
「それなら! 【低空高速飛行】!」
レンは一気に距離を詰めに行く。
再び放たれた火炎弾は防御すれば足止め、避けても多少の遅れが出てしまう。
だが幻覚相手に、恐れる必要はなし。
レンはそのまま特攻。
「きゃあっ!?」
今度は火炎弾の炸裂を受けて転がった。
「今度は本物!? 幻覚と本物を織り交ぜてるのね……! 一番厄介な戦い方じゃない!」
さらにフクロウは翼を輝かせる。
すると今度は、その姿を見失った。
「消えた!?」
「大丈夫! ちゃんと見えてるよ!」
しかしメイが、すぐさま声を出してみせた。
「カメレオンと同じ感じ! 身体の色を葉っぱの色に合わせてるんだよ!」
【ギリーフェザー】は、羽毛の色を付近に合わせて変えるスキル。
ジャングルでは保護色を使って戦う敵も多かったため、メイは慣れている。
見失わないようしっかり後を追えば、逃げ損ねたと知ったアテナノクトゥは再び攻撃に入る。
「来たっ!」
放たれた炎弾。
「【装備変更】からの【フルスイング】だああああ――――あららららっ!?」
好機とばかりに振り回した【魔断の棍棒】だが、炎弾は幻覚。
見事な空振りでメイは、その場に尻もちをついた。
するとさらに、付近の木に刻まれたルーンが光る。
「今度は分身ですか……!」
同じ個体が三羽に増えれば、見分けは全くつかない。
まさに怒涛の幻覚攻勢だ。
「間違いないわ。捕まえるタイプのクエストの中でも、過去一番……!」
「こんな子、ジャングルにもいなかったよーっ!」
「強敵ですね」
「はひぃっ!」
「追うだけでー、精一杯……」
圧倒的な仕掛けを繰り広げながら逃げるアテナノクトゥを前に、レンは楽し気な笑みを浮かべたのだった。