作品タイトル不明
1409.料理開始です!
タヌキレストランに戻ると、すでに小さな悪魔が待っていた。
「遅かったな人間ども! さあ勝負だ!」
地獄の料理人ニスロクは、灰色の毛皮に黒の模様。
二本の角と尻尾、そして小さな羽を生やした小柄な悪魔だ。
「料理対決を始めるぞ! 準備はいいな!」
「はいっ!」
クエスト開始前にされる定番の質問にメイが元気に応えると、対決が始まる。
「勝負は肉料理と野菜料理の、合計得点で競うにゃ」
「四人の審査員の得点で、勝敗が決まりますワン!」
看板を賭けての対決に、震えるタヌキたち。
走り出しかける緊張感。
だが皆小さく可愛いのと、審査員席に『ねこ』や『いぬ』と種族で書かれているのがおかしくて、どうしても微笑ましい。
それでもタヌキたちが必死なため、負けることはできない。
「それでは、地獄の料理人ニスロク対タヌキレストラン……勝負スタートにゃっ!」
「始めましょう!」
始まった料理作りは、タヌキシェフと一緒に作る形。
どうやらタヌキたちに、指示を出す要素もありそうだ。
「クレイジーブルの肉で、お勧めのレシピはいくつかあるけど……牛カツなんてどうかしら」
「い、いいと思いますっ」
持ってきた食材ごとにいくつかのレシピが、タヌキノートから提案される。
その中からレンが見つけのは、牛カツだった。
「主だった調理過程は火加減になるみたいですし、これまでの経験と【知力】が活きそうですね。あとはステータスのかぶらない、ツバメさんとのチームがいいのではないでしょうか」
「それでいきましょうか」
「私とメイさんは取ってきた野菜五種類を全部使える料理……ラタトゥイユにしたいです!」
作る二品の内容を決めて、さっそく動き出す。
まずはまもりたち。
野菜のカットはメイが担当だ。
「まもりちゃん、野菜のカットは任せてっ」
「さ、さすがメイさんです……っ」
メイはその高い【技量】をいかんなく発揮し、全てを綺麗に切り添えていく。
ラタトゥイユは、夏野菜をトマトとワインで煮込んだものだ。
まもりは『水っぽくならないよう注意』という注意書きに目を向け、すぐに【知力】上げの【リンゴ】を使用。
「タヌキさん、玉ねぎを入れてください」
まもりは、ややおぼつかない火加減に集中。
中火で油とニンニクを炒めたところに、玉ねぎを入れて透明になるまで続ける。
「タヌキさん、次はズッキーニとナスを」
続けて水が出やすいズッキーニとナスを炒めて、ここで水分を飛ばしておく。
「パプリカお願いします」
ここまでしっかり炒めたところで、自分でトマトを投入。そして。
「……好みのハーブを、ですか」
どうやらハーブの使用は、個人の裁量でとなっているようだ。
ここは勝負所になってきそうで、まもりは悩んでしまう。しかし。
「まもりちゃんが選ぶんだったら、絶対大丈夫だよ!」
「っ!」
そんなメイの一言に押されて、まもりはレストラン所有のローリエ、バジル、オレガノ、タイムを投入。
しっかり混ぜた後、フタをして弱火に変える。
「メイさん、味付けお願いしますっ」
「りょうかいですっ!」
最後はメイが高い【技量】で適量の塩コショウを振ったところで、強火で短時間、さらに水気を飛ばして火を落とす。
煮続けると野菜の水分がしっかり飛んでくれるが、煮崩れてしまう。
それを避けるためには強火が良いが、今度は野菜自体が焦げてしまう可能性がある。
まもりは早い段階でじっくり水気を飛ばしておくことで、見事な一品を作り上げた。
「完成ですっ!」
メイとまもりのチームが無事、ラタトゥイユを完成。
ハイタッチする、メイとまもりとタヌキたち。
「はっは! 余裕だぜ!」
一方ニスロクは速いステップでキッチンを駆け回り、見事な手さばきで料理を作っている。
「楽しみにしてろよ! 審査員ども!」
完成してみなければ分からないが、動きを見る限り侮れない感じだ。
一方メイたちが仕上げに入る頃、ツバメは【技量】上げの【グレープ】を三つ使い、肉をカットをしていた。
「タヌキたちは、レモンを持って来て」
タヌキチームに指示を出しつつ、レンはキャベツの千切りを担当。
【技量】もそれなりにあるため、ミスはなし。
やはりこの料理の勝負所は、『揚げ』になるのだろう。
準備はすぐに終了し、タヌキたちが鍋に油を用意し始めた。
あとは魔法珠で火加減を調整し、揚げるだけというところまで来たところで、場を空ける。
180度から190度と書かれている油の温度。
レンはその高い【知力】で見事、185度で止めてみせた。
「お見事です」
小さく拍手するツバメの横に並んで、同じく手を叩くタヌキたち。
ツバメがタヌキたちのキャプテンのようになっていて、レンがクスッと笑う。
「問題はここね」
ノートをあらためて見てみるが、揚げ具合は『キツネ色になったら』と、やや曖昧。
衣をつけた肉を油に入れると、ジュワッと大きな音が鳴る。
それからツバメと二人、ジッとその色味を確認。
「「…………」」
泡が細かくなり、ピチピチという音を上げ始めた。
「油自体の色もあって、難しいわね」
「はい、ですが揚げ過ぎなければ問題ないでしょう」
二人並んでじっと鍋を見つめ、そんな二人をタヌキたちが見つめる。
そしてパチパチと鳴り出した時、野菜の準備をしていたメイの耳がピクッと動いた。
「っ!」
自分たちの料理をちょうど終え、偶然それを見たまもり。
慌てて視線を、レンたちの方に向ける。
「レンさん! もし揚げている時の油の音が変わっていたら、今すぐに引き揚げてください!」
「分かったわ!」
緊急を思わせる声の時、質問を挟まず即座に行動するのが五月晴れの特徴。
レンは有無を言わさず、カツを油から取り出した。
「……どう思う?」
「少し、焼き色がしっかり目のような気がしないでもない。そんなところでしょうか。問題ないと思います」
とにもかくにも、ツバメが包丁を入れる。
するとザクザクと、心地よい音が鳴った。
「しっかり揚げられていますね。断面も薄いピンクを残す感じで良さそうです」
「まもり、どうして急に?」
「一部の揚げ物は、目で計るより音の変化で良いタイミングが分かるようなんです。また牛カツは早めに引き上げるのが大事なので」
「なるほどね……助かったわ」
安堵の息をつくレン。
こちらも見事な牛カツが完成した。
「よーし! こっちもいいぜ!」
そしてそこにニスロクも、きっちり料理を完了させてきた。
「両者の料理が、完成した模様ですワン!」
「こーんなに美味しそうな料理、初めてですわぁ!」
レッサーパンダも歓喜に両手を持ち上げる。
「それではいよいよ――――実食に入るにゃん!」
完成した料理たち。
いよいよ料理対決は、審査の段階に入ることとなった。